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@disukidesu

第1話 とある勇者の物語

その国には伝承があった。世界が闇に包まれたとき伝説の勇者の子孫が現れ、聖剣の力でその闇を振り払い、世界を平和にしてくれるという伝承が。


人々はその伝承を信じた。いつか伝説の勇者の子孫が現れ、魔王を倒し、世界を平和にしてくれると。


そしてある日突然現れた。異国の服をまとった伝説の勇者の子孫が。


誰にも引きぬくことができなかった聖剣。大地に固く根を下ろしたように刺さっていた聖剣。その聖剣がある青年に抜かれたとき人々は知った。伝説の勇者の子孫が現れたことを。


人々は泣いて喜んだ。これで世界は救われると思った。


聖剣を手にした青年は人々の期待に応えるため苦しい旅を続けた。多くの魔物と戦い、傷ついた。肉体だけでなく、心も傷ついた。魔物のせいで不幸になった人々を見て、何度も心を痛めた。もう冒険をやめたいと思うくらい心を痛めたときもあった。死んでしまいたいと思うこともあった。


それでも青年は冒険をやめなかった。自分が冒険をやめてしまえば不幸な人がさらに増え続ける。自分のせいでだれかが不幸になるのは嫌だった。だから冒険を続けた。折れそうになる心を奮い立たせながら。


そして青年はついに魔王の前にたどり着いた。


魔王は言った。

「よくぞ。たどり着いた。伝説の勇者の子孫よ。私が魔王●●だ。勇者よ。お前は強い。私の前にたどりつけるほどに強くなった。その力を私のために使ってみる気はないか」


「仲間になれということか?」


「そうだ。私の仲間になった暁には世界の半分をお前にやろう。どうだ。悪い話ではないだろう?」


「ふざけるな。人間の僕がお前の仲間になるわけがないだろう」


「ほう。あくまで私と戦う意志を貫くということか」


「そうだ」


「愚か者め。やはりお前も愚かな人間のひとりにすぎなかった。目障りだ。この私、自らの手でこの世から消し去ってやるわ」


魔王との戦いが始まった。壮絶な戦いになった。戦いが進むほどにお互い傷ついた。魔王の青い血が傷口から無数の傷口から流れた。勇者の赤い血が無数の傷口から流れた。その色違いの血が混じりあい、2人の衣服を汚した。床にも壁にも2人の血が付着した。


勇者はボロボロになりながらも戦い続けた。そして魔王の心臓を聖剣で貫くことに成功した。魔王を倒したのだ。


魔王は世界からいなくなった。魔王がいなくなると世界から魔物も世界からいなくなった。


魔物の姿が世界からいなくなったことを知った人々は勇者が魔王を倒したことを悟った。


人々は感謝した。魔王を倒した伝説の勇者の子孫である青年に。


人々は勇者の凱旋を待った。でも、人々の前に勇者が現れることはなかった。


青年は伝説の勇者として人々に語り継がれることになった。

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