4月22日の落花(2)


 今日の彼を見ていて、気付いたことがある。

 おいしいパスタのお店を調べたからと、勢いよく入ったお店では

 混雑していたからか、ほとんど言葉を交わすことはなかった。


 観察するために一歩離れて後ろからついていくと

 まるで捨てられた子犬のように、なんだか寂しそうな表情をして何度もこちらを振り返った。


 今までの彼には感じなかった感覚。

 常に、どうでもいいことはやらないと言わんばかりにやる気を出さなかった彼が

 やたらと私のことを気にして、いろいろとよくしてくれるのだ。

 

 いったい、私になにを求めているのだろうか。

 私ができることなんて、ほとんどないのに。

 しいて言えば、彼が苦手だと言ったイラストを描くことくらい。

 私が西村くんにできることなんて、それくらいしかないのだ。


 その後も、私のことを気にしてなのか

 声をかけてくれることもあった。

 「大丈夫」と返すと、これまた悲しそうな目をして

 トボトボと先を歩き続ける。


 男の人が何を考えているのか。それは私にとって最も縁遠い問題だった。

 今までは、どうにかして女子の輪からはじき出されないように必死だったし

 みんながどんな私を求めているのか、なにを求めているのか

 それを考えるので精一杯だった。

 気付いたら、周りの女子たちは彼氏がうんぬんと訳のわからないことを言い出し

 そのころから私は、ただ相槌を打つだけの共感マシーンとなっていた。

 その手の話は全くついていけなかったのだ。


 彼は、私にどんなことを求めているのだろうか。

 どんな私を欲しているのだろうか。

 この数週間一緒にいて、始めのうち、なんとなくそれを察知することができた。

 彼は優柔不断な性格というか、決め事の際に自分のことを強く主張しないタイプの人だった。

 だからこそ、私に対してその役目を願っていただろうということ感じとることができたし

 なるべくなら、その役目を全うしたいと思った。


 でも、しばらくすると、彼からは別の感じを読み取ることが多くなった。

 なにかにもがき、なにかを見つけようとしている。

 そのヒントをどこかに求めて、苦しんでいる姿。

 残念ながら、そのヒントは私が与えることができるものではなかったため

 そのときの彼が望む私になることはできなかった。

 しばらくの間苦しむ彼を見ていて、それはともて辛い時間だった。


 そして、先日。彼を取り巻く感覚はまたしても変化していた。

 優しさ、とでも言うべきか、私や東山先生に対して

 かなり敏感に気を遣うようになったのだ。

 正直、最初は少し気持ち悪いとさえ思ったが

 一生懸命な姿にその認識はなくなり、今ではちょっと頼れるお兄さんみたいな感覚になっている。


 今日、彼はまたしても変化した。

 今までにないくらい、私に対して熱を向けてくる。

 その熱は、私が感じたことがないくらい熱く

 その真意を図りかねるものだった。

 

 結局、最後のお店を出るときになっても

 今日の彼が何を考えているのか、私にはまったくわからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る