マンション奇聞/Apartment strange occurrence

長束直弥

A strange story of apartment

505号室/Room No. 505

 たしか……、君の部屋は『505号室』だったよな?


 ――えっ! 何故君に言わなければならないんだって?

 なるほどね。今流行りの個人情報ってヤツだ。

 そうだよな。世の中物騒になったからな。

 そう言うことなら無理して言わなくてもいいよ。

 ただね。『505号室』から出てくる君を何度か見掛けたことがあるものだから……。


 ――ああ、そうか。

 よ~く考えてみれば、君は『505号室』の住人ではないよな。

 あの部屋には、たしか若い娘さんがひとりで住んでいたはずだから……。


 ――ああ、なるほど!

 ということは、君は彼女の……。

 そういうワケだったのか……。

 いいねぇ、ワケありの関係ってヤツだね……。


 いいよいいよ、何も言わなくても。

 そこは、察しているよ。

 こうみえてもオレは話のわかる男なんだよ。

 若い頃はオレも無茶なことしてたからなぁ。

 あっ、そうそう、かみさんに浮気がバレて大変な目に遭ったこともあったな。

 

 つまり、オレの勘違いだったというわけだ。

 オレはてっきり、君を『505号室』の住人だと思い込んでいたよ。

 暇老人の『下種の勘繰り』ってヤツだ。

 まあ、そんなこたぁどうだっていいやな。


 いいよ。何も正直に応えなくとも。いろいろ事情があるんだろう?

 わかっているよ。もうこれ以上、野暮なことは聞かないよ。


 しかし、あの部屋の娘さんは綺麗だよな。

 スタイルも良いし、笑顔も可愛い。

 君が羨ましいよ。


 ――何ッ! 

 彼女は君の妻だって?

 彼女は独身じゃあなかったのか……。

 こりゃまいったね。

 とんだ勘違いをしたもんだ。

 それにしても、えらい年齢としの離れた奥さんを貰ったもんだね。

 全く以て羨ましい話だ。


 ――ん!

 君は誰だって?

 『君の名は。』ってヤツだな?


 ――えっ?

 どうして、この階にいるのかって?

 どういう意味だ?

 この階に居ちゃいけないって法律でもあるのかい?

  

 ――ん?

 この階の住人ならみんな知っているだって?

 おいおい、急にどうした? 逆にオレに質問かい?

 ただふらっと、久し振りに友人の部屋を訪ねて来ただけだろう。


 ――えっ?

 訪ねるのは、五階のどこの部屋だって?

 何故それを君に言わなければならないんだ。

 個人情報だぞ。


 ――部屋番号を言えって?

 何号室だろうが、君には関係ないだろう。

 プライバシーの侵害だぞ。

 それはそっちだろうって? 

 何を言っているのか薩張りわからない……。


 ――えっ?

 このボストンバッグかい?

 今から、ちょいとした旅行に行くんだよ。

 

 ――何ッ?

 ふらっと友人を訪ねてきたんじゃないのかって?

 ああ、深夜便のバスだから時間をつぶしも兼ねて訪ねてきたのさ。


 ――怪しいだって?

 おいおい、警察に電話するって?

 ち、ちょっと待てよ!

 本当に友人がこの階に住んでいるんだ。

 嘘じゃ無いよ。

 

 つまりなんだ……、

 すべてが誤解、ゴカイ(五階)だよ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る