怪異、その名。-ある祓い屋の手記ー

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第1話 正負の側面

「あなたみたいな人が、世界にたくさん居たらいいのにね。」


中肉中背。十人並み。そこそこにおしゃれ。

ただし

悪人憑き。


どうも憑依されやすいもの…つまりこちらでいうところの”そういう”類の奴らは、必ずそんなことを言ってくる。

常套句じょうとうくだ。

祓う側にとっては、”何かいますよ”という合図。


『はー…またか。』

『居るんだよなー…ホントに。こういう奴。

 これで何人目かなー…。あっちこっち行って、良いほうじゃなくて

 ”わるいほう”ひっつけて帰ってくるやつ。」


十人が十人、その人物に会えば、決して「悪人」だなんて言わないだろうし、”言えない”。

彼女は、”言えない”。

つまり、”言わせない”すべを持っていた。


持って生まれた性格なのか、その後ろに…というか、かたわらに

「あたたかくよりそうふり」をする何かが、その性格を乗っ取ってしまったのか

判断につき辛いが。

彼女には、居た。


「世界が平和になれば、精神的な病で苦しむ人がいなくなると思うのよね。

 そのためには、力のある人たちが、つながって行かなきゃならないと思うの。」


『そんなの、甘えだ。』


笑い方が、酷似する。


宗教がくだらないと言いながら、宗教じみた行為で人を食いものにする奴らだ。


「…ああ。

 そういうの

 いい

 と思いますよ?

 やってみたら、いいと思います。」


やんなきゃならない事ってのは、基本的には一人でだってするだろうし

こういう奴は絶対に、十中八九、金が絡んでくるやつだ。


『正直くだらないし、”どうでも”いいと思います。』


そう思ったが、口にしなかった。


彼女の側で、怪異がこちらを見つめ続けていたからだ。

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