一話 物語の始まり
一話 物語の始まり 1
携帯のアラームの音が鳴り響く。
拓は携帯を手に取り、眠たい眼をこすりながらアラームを解除する。
「まだ、眠たい…」
のっそりとベッドから立ち上がり伸びをしてカーテンに手を伸ばした。
「んん……、まぶし」
朝陽がまぶしくて反射的に手で目を隠す。
外は青い空が広がっていた。
快晴だ。
田畑が広がっていて、隣には小川が流れている。
空を見て、今日も一日頑張ろうと思い、自分の机に向かった。
真っ黒のノートパソコン眠たそうな顔が映りこんでいる。
パソコンを起動して立ち上がるまでの間、学校へ行く準備を始めた。
すると拓の部屋に近づいてくる足音が聞こえてくる。
「はーい。いいですよ、明美さん」
「おはよう、拓ちゃん。わあ、寝癖ひどいよ~? 一階に下りて、顔洗ってきたらどう?」
柔らかな口調の女性が入ってくる。
一時的に手を止め、入ってきた彼女に顔を向ける。
「そんなに寝癖ついてます? 準備が終われば下ります」
藤森明美(ふじもりあけみ)。彼女の名前だ。拓の身の回りの世話や、家のこと全般をしてくれている。いわゆる家政婦というやつだ。
長い髪は、彼女のおっとりとした様子を表しているかのように、軽くウェーブがかかっている。目は少したれ気味で、細い。それだけで優しそうな感じがする。エプロンをしているから、おそらく朝早くから家のことをしてくれていたのだろう。
「拓ちゃん。洗濯物とシーツだけもらっていくね~」
部屋の入口近くの洗濯物が入ったカゴをもって、明美は部屋から出て行った。
学校に行く準備を再開した拓はスクールバッグに筆記用具やノートを入れ、椅子に座った。昨日の夜にまとめていた春休みの課題をUSBメモリにデータを移動する。USBを取り外し、パソコンをシャットダウンした。
「昨日のうちにデータを移動しておけばよかったかな」
拓の通っている学校はデータでの課題提出が可能なので、拓はデータ提出を選んでいた。
ため息をつき、まとめた荷物を持って一階におりる。階段の一段目に荷物を置き、洗面所に向かった。
鏡の前に立った拓は明美に寝癖がひどいといわれた理由が分かった。
四方八方にはねた髪をみて、ため息が出た。
「これは濡らすだけじゃ、なおらないなあ」
お湯が出るようにしてシャワーに切り替え、髪を濡らした。
「うぅ。まだお湯になってなかったか……」
充分に温めたと思ったが、まだ温く身震いした。
ある程度、髪の水気を切り、そばに置いていたタオルを手に取った。
軽くドライヤーを当てて乾かすと、鏡にはすっかり寝癖の直った自分の顔が映っていた。薄めの眉毛に少し細めの目。全体的にシュッとしている。同年代はニキビに悩まされているらしいが、そういったことで悩んだことはない。
歯磨きが終え、リビングに向かいソファに座った。
テレビをつけて朝のニュースを確認する。
『次は、最近起きている連続殺人事件についての情報です』
元気に笑っていたアナウンサーは真面目な表情になる。
声が発せられるまでの間、テレビに少しの沈黙が訪れた。
『昨夜新しく変死体が、見つかりました。上半身だけが残されており、その他の体の部位が見つけることが出来ませんでした。大量の血が現場に残っていただけだったとの事です。警察は付近の捜索を行なっています。いまだ犯人の手がかりが見つかっておらず――』
拓は少し落胆し、想像通りといった様子でそのニュースを聞いていた。後ろから話しかけられるまで、拓は思考を巡らせていた。
「拓ちゃんも気を付けないといけないよ~。いつ事件に巻き込まれるかわからないから」
明美は先ほどまで外で洗濯物を干していたのか、両手で籠を持っている。拓は考えることをやめて明美のほうを向き、口を開いた。
「そうですね。事件は、僕たちが住んでいる西区に集中していますし。注意します」
拓の住んでいる島、代白島は東西南北で区画が分けられている。各区画は住居区画や、商店街などになっている。
拓はソファから立ち上がり、棚からコップを取りだし台所に向かった。
明美は洗濯カゴを置き、拓のほうに近づいてきた。
「ああ、お茶、私が入れますよ~。拓ちゃんは、ゆっくりしていてください」
拓はコップを明美に渡し、テレビに向きなおって、別のチャンネルに変えた。
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