1999年8月10日 『それぞれの場所』
昨夜、久しぶりに遅くまで考え事をした。
色々考えたが、もう一度
花音君とユリアさんに会うことにした。
今までの情報と状況を整理したうえで
各々の見解をまとめるのが
最優先だと判断したからだ。
花音君に連絡を入れると
今日、二人とも休みで、
夕方以降、予定も無いとのことだったので
彼らの家で再び夕食をとの話になった。
約束の時間まで私自身も用事等無かった為
この日記と記憶を元に
自身の考えをまとめることにした。
まるでレポートをまとめる
大学生に舞い戻った気がして、
思いのほか捗った。
幾つかの疑問点と確認事項を箇条書きにして、
手土産の焼酎と一緒に持って行くことにした。
約束の夜7時、彼らの元に着いた。
相変わらず花音君はエレベーターまで
迎えに来てくれた。
「こんばんはっ
最近、何かと忙しないですね。
重なる時は重なると言うか・・・」
「こんばんは
そうですね」
「さぁどうぞっ」
「ありがとう」
いつもの花音君の様子にほっとした。
玄関で出迎えてくれたユリアさんも
明るく感じが良かったが
薄く施された化粧で憔悴感を
覆い隠してるように見えた。
「さぁどうぞっ
お待ちしておりました」
「ありがとう
これはほんの気持ちです」
「まぁ
嬉しい。
あれから焼酎が我が家の
マイブームなんですよ」
「特に母は
かなりのお気に入りなんですよ」
「それは嬉しいですね。
適量なら体にも良いですしね」
そんな日常会話を交えつつ
楽しい歓談の中、夕食を終えた。
食後の紅茶をいただきながら
最初に話に触れたのは花音君だった。
「最近、記憶が抜けることが増えて・・・
誰なのかわからないけど
確実にボクじゃないボクが
何かを遂行している・・・
感覚的にそう感じるんです」
「確か、恵梨守さんに会った
あの頃位からでしょうかね」
「そうですね・・・
あの頃辺りからですかね・・・」
「恵梨守に・・・
あの子に何か関わりがあるのかしら」
「わからないけど・・・」
「そうですね。
彼女云々ではなく、
あくまで、あの頃からという
時期の目安ですからね。
ただ、あの時の
シオン君の反応を見る限り
全く関係ないとは
言い切れないような気もしてます」
「そうですね。
あれは偶然にしては
出来すぎてる気もしますしね」
「恵梨守・・・」
そう言ってユリアさんは
寂しげな表情を浮かべた。
「取りあえず、
今までの情報と状況の
刷り合わせをしましょう」
「そうね
まずはそこを共有してた方がいいわね」
「そうですね。
私も私なりにまとめて来ました。
ざっくりとですが」
「見せていただいてもいいですか?」
「えぇ勿論です」
取り敢えず、私がまとめたものを
皆で見ながら加筆と削除を繰り返し
見解と可能性を交え大筋を立てた。
重要な役割を担っているのがシオン君、
監視役のセツラという青年、
カムイという青年はカモフラージュの
役割を持っているのではないかと推測した。
そして、セツラという青年に
指示を出しているまだ現れない他の人格。
彼らが何をしようとしているのか。
花音君個人のことなのか
詩音君や恵梨守さんも関係するのか
ユリアさんの言っていた
10年前の事件と関わりがあるのか・・・
消えた父親と老人、昏睡状態の詩音君、
記憶を失くした花音君に恵梨守さん。
総てが繋がっているのか、
それとも総てが別の意味を持つのか、
これからの変化を見逃さないよう
互いに細心の注意を払うことで合意した。
花音君は私等の手前、
気丈に振舞っていたが、
相当、不安に感じているに違いない。
母親であるユリアさんも
それに気付いていたようだった。
それぞれの思惑と決意を胸に
いずれ来るであろう『その時』を見据え
慎重に時を待つことにした。
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