1999年6月27日 『再来』
あれから1ヶ月。
何事も無く夏を迎えようとしている。
そんな午後、
再び彼から
『サイン有り』とのメールが届いた。
彼もちょうど休みだったため
早速逢う事にした。
待ち合わせ場所は、いつもの公園。
今後、その都度考えなくてもいいように、
これからも『そこ』でと二人で決めた。
待ち合わせ時間を逆算して
少し早めに出たのだが、
いつものように彼は既に待っていた。
「もしかしたら
私は時間を聞き間違えたかな?」
そう私が言うと
「いいえ・・・
お呼び立てしておいて、
お待たせするわけにはいかないので・・・」
そう彼は微笑んだ。
待ち合わせ時間より30分早い合流となり、
世間話を交えつつ
こないだの話しをしながら
『その瞬間』を待つ事小1時間。
『それ』は何の前触れも無く始まった。
今度は瞬きもしないで見定めようと、
私は目を見開いた次の瞬間、
初めて見かけた時と同じ位の閃光を感じた。
一瞬の出来事だったが
目の前が真っ白になってしまい、
『その瞬間』どころではなかった。
こないだは、
やはり瞬きのタイミングだったのだろう・・・もう直視するのはやめよう・・・
と学習した数秒後、
目が慣れて来た私の隣に、
『彼』はいた。
待ちわびた『再来』の瞬間だった。
「この場所、
それにアンタ・・・
やはり偶然じゃないな・・・」
とほくそ笑みながら彼は立ち上がった。
私も、また当たり前のように同行した。
なぜだろう不思議なことに
彼女に聞いた時のような
嫌悪感や不信感が全く無かった。
いくら花音君と話したからといって、
ここまでになるだろうか。
やはり『シオン君、つまり彼自身』の
オーラというか存在感、
存在そのものがそうさせているのであろう。
はやる気持ちを抑えながら
『その瞬間』を待ちわびていたためだろうか、
足取りが気にならないまま
『その瞬間』は訪れた。
また女性である。
30歳前後といったところか。
ショートヘアーが良く似合う
可愛い顔立ちの女性で
銀行の窓口にいそうな制服を着ていた。
今回は彼女一人のようだ。
少し翳りがある眼差しで
ベンチに座り人の流れを傍観していたが、
傍目には悩みを抱えてる風には
見えなかった。
彼は相変わらず
何の躊躇もなく彼女に近づき
隣にそっと座り
前を見据えたまま口を開いた。
「その願い叶えてやろうか・・・
ただし条件付きだ」
前に彼女に聞いていたせいか
口元の動きでそう言っているように見えた。
しかし、読唇術など身に付けていないため
不自然さのない距離まで近づいた。
彼のいきなりの申し出に
その女性も驚いた挙動は見せなかった。
しかし、振り向き彼の目を見た瞬間、
彼女の表情が一変した。
「ほんと・・・ですか・・・」
と力無く聞き返した。
「あんた次第さ・・・」
と彼は前を見据えたまま優しく囁いた。
ともあれ、
ファーストコンタクトは成功。
あとはメモを渡して今日はお終い・・・
と思った瞬間
「じゃあ今すぐ叶えて・・・
もう・・・無理・・・
どうすればいいの?」
にわかに信じがたい誘いを
受入れているようだ。
やはり、思い詰めた人間は
藁をもすがるということなんだろうか。
あまりの展開の早さに面食らったが、
彼は淡々と続けた。
「一晩、あんたをもらう」
彼が囁くと
間も置かずに
「それだけ?
本当にそれだけでいいの・・・」
と何の疑問もなく会話を進めた。
「そうだ・・・
期日は今日から3日以内・・・
それを過ぎると
魔法が効かなくなっちまう。
覚悟が決まったら、
ここに連絡しな・・・」
そう言ってメモを手渡そうとすると
「今から・・・
今からじゃ・・・
だめですか・・・」
と彼女が切り出した。
「残念だがそれは無理だ・・・
本来なら、
今日から真剣に考えてもらい
あんたの答えを出してもらう。
NGならあんたから電話はこない。
そこでお仕舞だ。
もしら連絡が来たら
一時的に願いを叶える。
それを自身の目で見て
それが本当にあんたにとって
必要かどうかをあんた自身は勿論、
パートナーが居ればパートナーも含めて
答えを出してもらう。
ただし、互いの本心からの
OKが無ければならない。
OKが出て初めて仮契約成立。
その瞬間から3日間願いは叶う。
その3日以内に今度はあんたが
オレの条件に応える。
この時、
『あんたが本心から
オレを望めるかどうか』が重要だ。
望めたら結果は付いて来る。
そうしてあんたがオレに応えた時点で
契約成立だ。
もう魔法が解けることはない・・・
理解できたか?」
彼女は目にうっすらと涙を浮かべて
「私の気持ちが変わる事は
ありません・・・
でも、そういうことなら、
日を改めます」
彼女は少し落胆した様子だったが、
そんな緊迫した状態にいるのだろうか・・・
「あぁ
そうしてくれ」
彼もそのことを理解していたようだが、
こればかりはどうしようもない
という空気が重くこの場にのしかかった。
私は今日
彼らのやり取りの一部始終を見ていた。
そして、彼女を帰した後、
彼に確かめることにした。
「キミは誰のどんな願いでも
叶えられるのかね?」
彼はおもむろに空を見上げた。
「いや・・・
女の望みしか聞かない・・・
と言いたいところだが、
実際のとこ、聞けないんだ。
女の望みしか見えないからな。
だから・・・時間がかかる」
「時間?
何の時間だね?」
「それはノーコメントだ。
忘れてくれ」
「では、もし男性から助けを乞われたら
キミはどうするのかね?」
「今まで男にナンパされた経験は無いが
もし仮にそうなったとしても無理だ。
男には備わっていないからな。
それに、話は変わるが
オレも百発百中じゃない。
いくら絶望の淵に立っていようが
皆が皆オレの条件を
受け入れられる訳じゃない。
中にはもう手遅れで
電話すらよこさないものも少なくない。
オレの嗅覚も万能じゃないってことだ」
「では、
今までキミの条件を満たした女性は皆
願いが叶ったのかね?」
「いや・・・
彼女で23人目になるが
1人・・・
過去1人だけ、効かなかった」
「効くとは・・・
キミの言う魔法がかね?」
「あぁそうだ」
「原因はわかっているのかね?」
「検討はつくが、
オレの想像でしかない」
「それはどういった・・・」
「それは企業秘密だ」
「なるほど・・・
では核心について聞くが、キミの言う
あんたをもらう・・・とは、
やはりSEXのことかね?」
「じぃさん、
なかなかストレートだな。
まぁ嫌いじゃないが
あんたの言う通りだ・・・」
「何でSEXなんだね?
他のことじゃだめなのかね?」
「らしいな・・・
とは言っても、
他を試したことは無いがな。
オレは基本、直感で動いている。
まぁ根本は本能による欲望だが、
今じゃ、
これが本当に自分の意志なのか
怪しいもんだ・・・
何かに操られているのか、
導かれているのか、
はたまた、
ただ弄ばれているのか。
そんなこと、知り得もしないが・・・
だが、『抱く』という条件は
変わった事が無い。
というか変えたことはない。
抱くことで本人から直接
魔法の源をもらうんでね。
元々彼女達が持っている
そういうチカラの源をな。
女とはそういう不思議なチカラを
持っている。
ただ引き出し方が
わからないだけなのさ・・・
オレは、それを引き出して
カタチにしているだけだ。
言ってしまえば、
女たちが自分で引き出せないのと同じで
オレもSEXでしか引き出し方が
分からないのさ。
まぁ~女は嫌いじゃないから
オレにとってはなんとも
都合のいい話しだが・・・」
彼は無垢な笑顔でそう答えた。
「私は
キミがその素晴らしいチカラを使って、
立場の弱い人々の足下を見て
私利私欲を貪っているのだと感じたよ。
こないだ、
あの母親から話しを聞いた時はね。
しかし、今日のキミ達を見ていて
『違う』と感じたんだよ。
何かが違うとね・・・」
「ほぉ~
なかなか正直なじいさんだ。
オレは善人じゃないのは確かだ。
悪人かどうかを決めるのは
オレ自身じゃないしな。
想像にまかせるさ・・・」
「キミはいったい何を背負って・・・」
「さぁ~な・・・
オレが聞きたいくらいだ・・・」
そう言って彼は軽く笑った。
おそらく明日、
彼女から連絡が入るだろう。
さすがに、
その行為を見るわけにはいかないので、
前後で話しが聞ければ・・・と
彼に告げると
「オレは別に構わないが、
彼女には自分で交渉しな・・・」
とのことだった。
私は明日、恥を忍んで
彼女に聞いてみることにした。
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