後悔の形。
「ガチャは悪い文化」
ある日彼女がテーブルに突っ伏し、そんな事を言い出した。
手には携帯端末が握られており「あ゛~」と変な声を上げて唸っている。
時折手足をバタバタと動かしてチラチラと少女に目を向け、構っても良いのよと言わんばかりの意思表示もしている。
だが少女は何時もの様に優しく頭を撫でて慰める、という事はしなかった。
彼女にポテポテと近づくと鼻に人差し指をのせ、めっと叱る少女。
片手は腰に当てて、眉も珍しく吊り上がっている。
「あうぅ、ごめんなさい。悪いのは私です・・・」
彼女はショボーンと落ち込み、珍しく叱る少女に頭を下げた。
ただ少女はすぐにニパーッと笑顔になり、頭を下げる彼女の頭をなでなでと優しく撫でる。
解れば良いんだよーという様子で、どちらが年長者なのかよく解らない状態だ。
「角っ子ちゃん・・・!」
彼女は感極まって少女に抱きつき、少女は良し良しと慰める様に頭を撫でる。
クスンクスンと鼻を鳴らす彼女の頭をキュッと抱え、聖母の方な優しい笑みを見せて。
「・・・ねえ、何あれ。何の茶番?」
「最近はまったゲームに課金しすぎて、その上欲しいのが出なかったんだって」
「馬鹿じゃないのあいつ」
通りかかった複眼が一体何事かと単眼に問うと、単眼は苦笑しながら説明を返した。
つまりは今の説明通りで、更に生活費の一部もつぎ込んだ愚か者が嘆いていただけである。
最近は少額ながらも給金を貰っている少女。
そんな少女にとって、無為な散財は良くない事だと思っている。
勿論みんなの為にお金を使う事に否という気持ちは無い。
それは以前皆の為に人形を作った事や、お土産を買った事からもよく解る。
だから少女に後悔は無い。自分が心からそうしたいと思って使ったお金なのだから。
けして今の彼女の様に、使った事に嘆く様な真似はしていない。
勿論その結果自体に嘆く事は有るかもしれない。
だがお金を使うと決めたのは自分なのだ。
使った事を嘆く、という様な事はしないのが今の少女である。
先程の彼女は「ガチャをした事」を嘆き「その存在」事態を否定した。
自らの意思でお金を出し、だけど望む結果は得られなかった。
それは残念だろう。悲しい事だろう。辛い事だろう。
そこに嘆くだけならば少女に叱るつもりは無かった。
だけど彼女は行為その物の後悔だけに留まらなかったのだ。
自分がやりたい事でお金を使ったという事を棚に上げてしまい、最終的に自分が楽しんだはずのゲーム自体を否定した。
だから少女は叱ったのだ。それは違うと。
大切なお金を使うと決めたのは自分だと。使ったのは自分だと。
その結果で自分の行いに後悔しても、悪いのは作品ではない。
行動を起こした自分だと認めなきゃいけないと。
「私が・・・私が間違ってたよ・・・角っ子ちゃん・・・!」
少女の胸に顔をすりすりしながら謝る彼女に、少女は解ってくれれば良いと頭を撫でる。
にこっと優しく微笑み、何処までも甘えさせてくれそうな様子で。
それはきっと、状況だけを見れば、とても美しい場面なのだろう。
少女の胸に抱きつく彼女の顔がにやけてなければ、きっと。
「・・・ねえ、告げ口してもいいかしら」
「あー、さっきへこんでたのは事実だから、許してあげよう?」
「・・・そ。まあ良いわ」
複眼は少しイラっとして真実を伝えようか思ったが、単眼の言葉で溜息を吐いて止めた様だ。
彼女は一応本当に落ち込んでいた。ただそこに慰めてくれる人が来て甘えているだけ。
とはいえ本来、彼女にとってあそこ迄落ち込む事ではない。
少女が来たのを見て、解り易く落ち込んだ様子を見せて構って貰おうとしたのだ。
それが解っているからこそ、複眼は少しイラっとしているのだが。
「角っ子ちゃん大好き・・・!」
そうして彼女はまんまと思い通りに事を運び、少女に甘え倒すのであった。
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