最近の読み物。

最近の少女は余りミスをしなくなっていた。


勿論全くしない、という事は未だにない。

所々細かいミスは相変わらず有るし、完璧には程遠い。

覚える事はまだまだあるし、他の使用人に比べれば精度も低い。


だけどそれでも、少女は確かに成長していた。

確実に、着実に、不器用ながら使用人として一人前になろうと。

勉強の方もちゃんと怠らずに進め、最近は歴史の類にも興味を持ち始めている。


なので歴史書系の本も読む様になり、今迄気にしていなかった部類の概念も学び始めていた。

先日彼女を叱ったのも、そういった様々な考え方を理解し始めている成果だろう。

ただし少女のお気に入りの話となると、真実と寓話の入り混じった話が多い様だが。

今日もその類の作品を読んでおり、内容にのめり込んでいるのかページをめくる度に百面相を見せている。


「角っ子ちゃん、渋いの読んでるね」


そこで彼女に声を掛けられ、うきゅ?っと首を傾げる少女。

少女が今手にしている物は、いわゆる時代小説という物だった。

それも最近出たものではなく、言い回しが古めの昔の作品。

本人的には自分が面白いと思った物を読んでいるだけなので、そうなの?という気分らしい。


羊角によって様々な物を読む様になったが、少女は元々本を読む事は楽しいと思う子だ。

それは勉学の教科書を渡され、嬉々として学んでいた事からも窺える。


最近は与えられる物だけではなく、自ら面白そうという物を探す様になっている少女。

その結果行きついたのが時代小説、という訳では無い。

勿論面白く読んでいるのだが、これを読んでいるのには少しだけ訳が有る。


「これ、旦那様の本だよね」


男の部屋で見覚えが有った気がした彼女の言葉に、ニパッと笑ってコクコクと頷く少女。

本を大事に抱え、にへーっと物凄く嬉しそうに笑っている。

つまりは「男と同じ物を読んでいる」という喜びも有る訳だ。

この辺りは男も気が付いているので、下手な物を棚に置けないなと最近は思っている。


男は割と時代小説の部類は好きなので、本棚には有名作を揃えていた。

更にはそれなりに雑食な知識欲の人間なので、思想の偏った本なども読んだりする。

自国や他国に有る宗教の聖書なども、男にとってはそこそこ面白い読み物だ。


ただ変な考え方が身に着くのが怖いなと、幾つかの本は少女の目につかない所に隠している。

何時か少女がもう少し成長したら読ませるのも悪くないかな、と思いながら。


とはいえ少女はその気遣いに気が付けず、何だか最近男の部屋から本が消えた気がすると、少しだけ残念な気分になっているのだが。

大好きな人の読んだ物を読みたいと、そんな想いが突き抜けている少女である。


因みに女の部屋には絵本が増えている。理由は問うまでも無いだろう。

当然の様に餌にかかる少女は、最近わざとかかりに行っている気配が有るが。

お互い心地の良い時間を過ごしているので、おそらく何も問題は無いのだろう。


「そうかそうか、角っ子ちゃんは最近そういう難しい物も読む様になったか・・・」


うんうんと、良い事だという様に頷く彼女。

そして頷きながら携帯端末を取り出し、何やら打ちこみ検索を始めた。


「じゃあ今度はこういうのも読んで勉強したらどうかな。大人になったら大事だよ」


そう言って、官能小説の表紙を見せる彼女。相変わらずである。

表紙には縛られている女性が描かれており、露出は無いが特殊な作品だと解るだろう。

少女は首を傾げながら表紙を見つめ、明らかにアウトな題名を目で読み上げようとした。


「そうか、じゃあ俺はお前に道徳の本を買ってやろう」

「げ、旦那様、あいたっ、いた、いだだだだだ!」


いつの間にか背後に立っていた男は、彼女の頭を掴んで力を籠める。

もう何度目か解らないお仕置きなので、男の力の入れ具合には容赦がない。

少女はびくっとしながらも、何となくまた彼女が自分に悪戯を仕掛けに来たのだと気が付いた。

なのでぷくーっと頬を膨らましながら制裁を見つめ、助ける気はない様だ。


「ちょっとコイツ借りるな。あ、本は読み終わるまで自由にしてて良いからな」


少女は膨らませていた頬をしぼませ、男には満面の笑みを見せて頷く。

彼女は「たぁすけぇてぇ~」と嘆いていたが、少女はぷいっと顔を背けていた。


「ああん、角っ子ちゃん~」


フーンだ、知らないもん。という様に顔を背け続ける少女に、彼女がさめざめと泣き始める。

ただこれも何時もの事なので、翌日になったらまた仲良くじゃれつくのだが。

こんな関係を作り上げた事を彼女が楽しんでいる節が有るので、おそらく少女が本気で嫌がったりしない限り、この良く解らない絡み方を止める事は無いのだろう。


姿が見えなくなっても悲しそうに自分を呼ぶ彼女に、仕方ないなぁと優しく笑う少女であった。









因みに男に連れていかれた後の彼女だが、余り反省している様子は無かった。


「お前さ。本気で止めろよ。やっと最近色々普通の常識学び始めてるんだからさ」

「いやでも、性知識は大事ですよ。実際何も知らないで大人になったら困りますって」

「お前の教える内容は特殊なんだよ! ちゃんとした事教えろ!」

「世の中相手がどんな性癖か解らないじゃないですか。色々知るのは大事ですよ。うん」

「緊縛なんて普通知る必要ねえだろ!」

「怪しげな気配が有ったら逃げる必要が有るよ、という知識も要ると思うんですよ」


などと、のらりくらりと論点をずらし、最終的に良いから止めろと制裁を食らう彼女。

ただ彼女的には全てが全て悪戯、というつもりじゃないのが少しだけ困りものである。

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