あーん。

まだまだ暑い日が続くお昼頃の休憩時間、少女は幸せそうな顔でカップアイスを食べていた。

仕事で火照った体を冷やす甘い物に、ん~っと足をパタパタさせながら味わっている。

口の中で溶けていく食感が無くなるまでゆっくりと待ってから、また一口運ぼうとして少女はふと顔を上げた。

そこには少女と一緒に休憩をとり、お茶を飲んでまったりしている単眼が座っている。


「ん、どうしたの?」


少女が顔を上げてこちらを見た事に気が付き、首を傾げて笑顔で応える単眼。

すると少女はカップアイスにスプーンを差し込み、目一杯すくって単眼に差し出した。

美味しかったので単眼にもおすそ分け、というつもりの様だ。


「良いの?」


スプーンに有るアイスは、スプーンが大きかった事もあってカップの半分近い量が乗っている。

単眼はその事も含めて少女に訊ねたのだが、少女はニコッと笑ってコクコクと頷いて返す。

本当に良いのかなと思う単眼だったが、少女の心遣いに素直に従ってパクリと口にした。


「ん、美味しい。ありがとー」


口元を隠しながら礼を言う単眼に、少女はニコーッと満足そうな笑みで返す。

そして半分以下になってしまったアイスの残りを、うまうまと食べ始めた。

単眼はカップの中身を見て少し申し訳ない気持ちになっているが、少女は全然気にしていない。

むしろ単眼と美味しいを共有できた事に満足して、足が楽し気にピコピコ動いているぐらいだ。


スプーンに山になって乗っていたアイスだったが、それは少女にとって山盛りなだけ。

単眼からすれば可愛い一口サイズであり、少女もそれは解っていた。

だからこそ態々多めにすくって単眼に向けたのだ。

ちゃんと満足する一口を食べて欲しい。そう思って差し出したのだから、気にする訳が無い。


「あ、角っこちゃん、アイス食べてるー。一口ちょーだい」


そこに彼女も休憩にとやって来たらしく、少女の食べるアイスを見てあーんと口を開ける。

少女は素直に新しい分をすくって、何故か同じ様にあーんと口開けながら彼女の口に入れた。

ただそれは先程単眼にあげた時と違い、彼女の一口に合わせた量。

単眼はそれに気が付き、少女の心遣いにフフッと笑みを漏らしていた。


少女は相手によって一番良いであろう量を考えて渡している。

そして今も少女は満足気で、きっと食べる量が減った事よりも嬉しい事なのだろう。

なら申し訳ないと思う事の方が申し訳ないと、そう感じたらしい。


「暑い日は冷たい物が美味しいねー」


少女は最後の一口を食べると彼女に応え、ねーと二人で同じ様に首を傾げている。

そのまま単眼にも顔を向けてにへっと笑い、余りにも嬉しそうな顔に思わず釣られて笑う単眼。

二人が笑顔な事に満足した少女は、えへへーと楽し気にカップを片付けはじめた。


「本当に、優しい子に育ったなぁ」


自分一人が楽しむよりも、皆との楽しいの共感を求める子になった少女。

それを見て胸の内に生まれる暖かさのまま、優しい目を少女に向ける単眼であった。









「私もあーんして欲しかった・・・」


一歩出遅れた羊角は、その様子を悲し気に陰から見つめていた。

その後ろでジャーキーを齧っていた複眼は、溜め息を吐きながら一つを羊角に差し出す。


「ほら、あーん」

「あーん、んぐんぐ」

「満足?」

「・・・むなしい」

「あっそ」


どうやら羊角の悲しみはジャーキーでは癒されなかった様だ。

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