昔の写真。
「あ、この頃のも撮ってたんだ」
単眼がアルバムをめくりながら、懐かしむ様に呟く。
その日は食堂に使用人達が集まり、テーブルには沢山のアルバムが積まれていた。
皆それぞれワイワイと騒ぎながらパラパラとめくるが、映っている者は殆ど同じである。
それは態々写真印刷にされた少女の写真。つまり羊角の撮った少女の写真だ。
「ええ、とはいってもこの頃は記念に、っていう程度で余り撮ってないのよね。機材も元々持ってたデジカメだし。過去に戻れるならこの頃からもっと撮りたい・・・!」
「あ、うん、そう・・・」
単眼が呟いた写真を見て、羊角は悔しそうに呻き出す。
過去の自分を呪いそうなレベルの呻きなせいで、単眼は頷くしか出来ないでいる様だ。
まあ他に言葉が浮かんだとしても、今の羊角に聞こえるかどうかは怪しいが。
それもそのはずで、その写真は少女がまだ来て間もない頃の写真である。
この頃の羊角は少女をただ可愛がる程度であり、普通におっとりお姉さんをしていた。
故に少女の写真は有るものの、良く撮る様になってからと比べると圧倒的に少ないのだ。
「そういえば細かったよね、この頃の角っこちゃん」
「栄養足りてない感が凄かったね。それが今じゃこんなにプニプニに」
彼女も来たばかりの少女を思い出し、まだ何も知らずやる気しなかった頃を懐かしんでいる。
単眼は膝に座る少女の腕をプニプニして、少女も一緒にプニプニ確かめていた。
決して脂肪が多い訳では無いが、健康的に筋肉と脂肪が付いている腕。
それは昔と違い、ちゃんと食事をとり、当たり前の生活を出来ている証でもあった。
少女は今の自分の腕と肌と見てから、もう一度写真の自分を見る。
良い服は着せて貰っているが、腕の肉は余り無く頬も少しこけていて、何よりも元気がない。
涙目だったり、眉を寄せて怯えていたり、上目遣いで様子を窺ったりと、気弱にしている様子が目立つ。
少女はそんな自分を懐かしいと感じながら、視線を横に移していく。
そこにはそれより少し経った自分。ニコニコ笑顔で仕事をする自分の姿。
男に笑顔で接する少女。女に何かを指示されやる気満々の少女。老爺と一緒に畑を見る少女。
彼女に揶揄われてつつかれている少女。複眼に料理を教えられている少女。
単眼に抱えられてわーいとはしゃいでいる少女。羊角に服を勧められている少女。
そこにはどう見ても、屋敷の生活を楽しんでいる少女の姿が写っている。
「お、何してんの? おお、懐かしい」
何やらワイワイと騒がしい様子を感じ、通りかかった男も来た様だ。
男は少女の傍にある写真を、来たばかりの写真に目を向けてふっと微笑む。
今とはまるで違う少女と、同じく今とは違う自分の事も懐かしく感じながら。
少女はその頃の自分と今の自分の違いや、今の幸せな生活を改めて噛みしめていた。
そこに来た男の優しい笑顔に、何だかとても嬉しくて仕方ない気分になり始めてしまう。
ああこの人のおかげで私は笑えているんだ。こんな顔をしなくて良くなったんだと。
この屋敷で、幸せな生活を出来ているのは、全部この人のおかげだと。
少女は感極まってしまったのか、少し涙目になりながらピョンと単眼の膝から降りる。
そしてその勢いのまま男に抱きつきに行った。
「おっと、どうした?」
少女に抱きつかれた男はしっかりと受け止め、少女はニコーッと満面の笑みを男に向ける。
男は何でご機嫌なのか良く解らない様子だったが、取り敢えず少女の頭を撫でてみた。
当然少女は嬉しくなり、更に力を籠めてぎゅっと男に抱きつく。
大好きだと伝える為に。ありがとうと伝える為に。きっと恩返しをしますと伝える為に。
「何か大分ご機嫌だな」
えへへーと笑う少女の頭を撫でている男は、自分も笑顔になっている事には気が付いていないのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます