限界。

少女は畑を眺めながら、最近少し思っている事が有る。

流石に広げ過ぎたのではないだろうか、と。

とても今更な話ではあるが、ようやくそんな思考になった様だ。


とはいえ現状はまだ管理出来るので問題は無い。

ただこれ以上広げると、管理が難しいだろうという所まで来ている様だ。

そこに来るまで気が付かない辺り、少女らしいと言えば少女らしい。


冬時期に作る野菜は若干放置気味でも良かったせいも大きいのだろう。

畑を広げても軽く見るだけで済ませられたので、苦労は増えていなかった。

だが今は夏。ある程度は見ておかねば一気に状況の変わる野菜も多い。

虫の被害も考えると、やはりそこそこ見ておく必要が有る。


なのでようやっと、流石にこれ以上は広げられないなーと思い始めたのだ。

さてどうしたものかと、花畑に座りながら両手を頬に当ててむーんと悩む少女。

膝の上では猫が鼻をピスピスさせて匂いを嗅いでいる。

その姿は猫が可愛ければ良い絵になっただろう。


「ふふっ、おチビちゃん、どうしたの? 変な顔になってるよ」


そこにクスクスと笑いながら単眼が声をかけた。

なので少女は悩んだ体勢のまま顔を向けると、単眼はぷふっと吹き出してしまう。

段々と手の力が強くなっていたのか頬を軽く潰し、唇が突き出てタコの様になっていたせいだ。


「えいっ、掴まえた」


単眼は笑いながら突き出ている少女の唇を掴み、アワアワと釣られる少女。

目を瞑り手をパタパタさせる少女の姿に、単眼は尚の事笑みを深くする。

んーんーと慌てる様子がとても可愛らしい様だ。

単眼は終始笑いながらも、手を放して猫ごと少女を抱えてから座り、自分の膝に乗せた。


「それで、どうしたの?」


単眼が優しく頭を撫でながら問うと、少女は撫でている手とは反対の手を握って説明を始める。

その最中、握った単眼の手をもにもにしている姿も可愛かった様で、単眼は「ん~」と少し悶えていた。

少女の手の感触も心地良く、若干のマッサージになっているので余計に気持ち良い様だ。

ただ少女が「聞いてる?」と言う様に首を傾げたので、こほんと咳払いをして佇まいを直した。


「んー、流石にこれ以上広げるのは辛いんじゃないかなぁ・・・ただでさえ一人で管理するにはもう広すぎると思うし。機械無しの人力だからねぇ・・・」


単眼は「生業にするなら別だろうけど」という考えはあったが、そこは伏せて少女に答えた。

現状の少女はまだまだいろいろ学ぶ事が有るし、もっと遊んで良い歳だと思っている。

勿論畑を本格的にやりたいと本人が望むなら別だが、この畑はそうじゃない。


元々は男の為に畑を始め、ハーブは複眼の為に、花畑は他の使用人の為に作ったものだ。

勿論少女自身が楽しんでいるのは間違いないし、でなければここまで拡大しなかっただろう。

だが「楽しむ」の範囲を超えるなら、流石に抑えるべきだろうと思っている。

少女にはまだ色々な選択が有る。その選択を狭める程の作業量に増やしてはいけないと。


「もう十分広いし、植えてみたい作物が有ったら変えてみるぐらいで良いと思うよ?」


単眼に優しく言われ、そっかぁと指を唇に当てながら納得する少女。

そのまま唇を揉むように、指先でムニムニしながらみゅーんと唸り始めた。

ただしその手は握った単眼の手で、単眼の指先にプニプニと少女の唇の感触が伝わる。

少女の仕草もさる事ながら、おそらく誰の手でしているのか気が付いていないのであろうという事実に、余りに可愛くて無言で悶える単眼であった。

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