帰宅。

楽しい海水浴も終わり、帰宅する為に黙々と車を運転する男。

ただ男としては財布が軽くなり、全て楽しかったかと言われれば悩む所だが。

とはいえ男以外は大満足な様なので、楽しかった事は間違いないだろう。


因みに他の面子はと言うと、殆どが寝ていたりする。

少女は勿論の事、彼女も寝入った少女を抱えている内に眠ってしまっていた。

複眼と羊角は少女が寝る前にそれぞれ手を握り、寝入った後もまだ握り返す少女の体温と、海で遊んだ心地良い疲労から完全に落ちている。


女は助手席で起きてはいるのだが、後部座席に座る面々が寝た辺りから会話は一切無い。

とはいえ別に会話が無いと辛いという様な関係でもなく、すやすやと眠る少女達の寝息と車の振動音をBGMに、心地よく安全運転で屋敷までの道を走らせている。

女は時折背後を振り返り、眠る少女の顔を見て眉間に皺をよせていた。凄く可愛いらしい。







「皆おかえりなさーい」

「お疲れ様です、旦那様。お荷物お運びします」


何事も無く屋敷に到着し、皆を迎える単眼と少年。

少年は率先して荷物を運び始め、男も礼を言いながら車から荷物を出して行く。


「あはは、ぐっすりだ。楽しかったんだねー」


単眼は後部座席の扉を開けてもまだ起きない皆を見て、くすくすと笑う。

楽しんだんだろうなという事が解る様子に、それだけで楽しくなっている様だ。

暫くそうやって四人を眺めていた単眼だが、起こさなきゃな―と思い彼女の肩に指を乗せる。


「起きてー、ついてるよー」

「んあ!? あ、え、ああ、帰って来たのか」


そして単眼が優しくゆすると、彼女は可愛くない声を上げながら目を覚ました。

その声で複眼と羊角も目を覚まし、欠伸をしながら周囲を見渡している。

だが彼女に抱かれている少女は全く起きず、すいよすいよと心地良さそうに寝息を立てていた。


「ああ、寝ちゃったか・・・ちみっこの体温心地良いんだよねぇ」

「本当ねぇ・・・毎日掴んで寝たいぐらいだわ」


まだ若干寝ぼけた様子の複眼と羊角は、未だ起きない少女の手を握りながらそう語る。

実際抱きしめていた彼女は即寝落ちているので、その破壊力は確かなものだろう。

ただし羊角は抱きしめて寝るとおそらく気絶すると感じ、手を握る程度が丁度良いらしい。

どっちにしろ意識が無くなるのは変わりが無いが、本人には少し違うようだ。


「んー、角っこちゃん、着いたよー?」


彼女もまだ少しぽやーっとした表情なまま、少女に優しく声をかける。

だが少女はむにむにと口元を動かすだけで起きる気配が無かった。


「私が運んで行く」


既に車を降りていた女は起きない少女を彼女から受け取り、しっかりと抱きしめる。

すると少女はスンスンと匂いを嗅ぐ様な動きをした後、女に猫の様にすりすりと顔を擦り付け、みゅひゅーと妙な声を出しながらきゅっと抱きついた。

きっと無意識の行動のそれは、女の眼光を深く鋭い物にさせるには十分だった様だ。

偶々その視線の先に居た少年が「ひっ」と、思わず声に出して怯える程の眼光である。


「・・・ベッドに寝かせて来る」


女は短くそう言うと、少女を抱えて屋敷に入っていった。

表情はとても険しい物だったが、それ故に皆微笑ましい物を見る様子で見送っている。


「暫く角っこちゃんの部屋から出て来ない一票」

「同じく、それに一票」

「私そのまま天使ちゃんと一緒に寝るに一票」

「あはは、有りそう」


使用人達も車から降り、楽し気に世間話をしながら荷物を片付ける。

単眼は留守番であったのだが、それでも皆の土産話を聞くだけで楽しそうだ。

そんな単眼の様子を見て、今日は話し相手になってあげればよかったかな、等と少年は反省していた。

とはいえ別に誰も気にしていないので、少年の気にし過ぎでは有るのだが。


「やべ・・・ねむ・・・運転終わったら一気に眠気が来た」


そんな全てがどうでも良くなる程、男は眠気に負けて荷台に体を投げ出していた。

どうやら集中力が切れたとたん、一気に疲れが襲って来た様だ。


「はいはい、じゃあパパを運んであげてねー」

「父親としてのお勤めお疲れさまでした」

「お父さんもうちょっとだけ頑張ってねー?」

「あはは、小さくて可愛いお父さんだぁ」


彼女達は単眼に男を運んで貰う様にお願いし、男は「パパって言うな」と言いつつもひょいと無抵抗に抱えられてしまう。

単眼にとっては父親はもっと大きい物なので、男が父親だと考えると可愛いと感じるらしい。

ちょっと楽しそうに「お父さん今ベット迄連れて行くからねー」と言いながら運んでいる。

どう見ても父親を連れて行くというよりも、息子か弟でも抱えていく様子だ。


「は? え? パパ?」


少年は彼女達が楽しく喋っているのは見ていても、何を話しているのかよく聞いていなかった。

故にパパ発言に目を丸くしながら、一体どういう事なのかと混乱している。


「さって、じゃああたし達は可愛い弟とお片づけしますか」

「そうだね。取り敢えずさっさと運ぶだけでも終わらせようか」

「ホラホラ、ポーッとしてないで動きましょうねー?」

「え、あ、は、はい」


海でのノリが余程気に入ったのか、彼女は少年を弟と呼びながら片づけを続ける。

複眼と羊角も海に居た時のテンションが残っている様で、彼女の言葉にそのまま乗った様だ。

どう反応すれば良いのか解らない少年であったが、羊角に手を引かれた事で少し赤くなりながら片づけを終わらせ、その後も弟と呼ばれた事で先程のパパ発言の意味を理解したのだった。









因みに少女が起きたのは翌日の朝であり、いつの間にか自室に居る事に驚き、更に何故か女に抱き締められている事で尚驚く事となる。

良く解らずキョロキョロとする少女だが、起きようとすると寝ている女にキュッと抱き締められたので、無抵抗で二度寝するのであった。

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