角持ち奴隷少女の使用人。

解らない悩み。

最近の少年は生き生きとしていた。仕事は順調だし、皆も評価してくれている。

だからこそ仕事を頼まれれば、やる気満々で仕事に臨める。

前の様に自分はここに居て良いのか、なぜここに居るのか、等という悩みを持つ必要など無い程に充実している様子であった。

「ん、終わった？　ありがとねー。良い子良い子」

数少ない悩みが有るとすれば、こうやって子供扱いな事であろうか。

単眼に頼まれた用事を終わらせて報告に行き、優しく頭を撫でられている少年。

別に嫌な訳でないし、むしろ何とも言えない心地良さが有るのだが、まだまだ子供と思われているのだろうなという残念な気持ちが有る様だ。

これが単眼だけであれば少年も余り悩む事は無かったかもしれない。

だが残念ながら屋敷の住人は皆少年の頭を撫でる。男ですら撫でる。

それが少年に自分が子供扱いだと認識させる事になってしまっているのだ。

とはいえそれには一つの要因が在り、それが原因で少年は良く撫でられてしまっている。

少年はそこまで身長が高くない。そして少女もさほど変わらない。

撫でられるのを喜び、時に撫でて撫でてという様子で近寄って来る少女に慣れた住人達は、半ば反射的に少年の頭も撫でてしまう様になっているのだ。

因みに単眼はあんまり関係ない。多分少女の事が無くても撫でている。

ただ少年は残念な気持ちが有る物の、だからといって手を払いのける気にはならない。

こうやって褒められる事が嬉しいと思ってしまっている。

相変わらず少年は子供にも大人にもなり切れない微妙な状態な様だ。

まあ世の中の大人には、こうやって撫でられたい大人も居ない訳では無いだろうが。

そこに少年を見つけた少女がパタパタとやって来た。

少女の手には籠が在り、収穫したらしい野菜が乗っている。

お疲れ様という感じで、どれかどうぞと籠を前に差し出す少女。

単眼に褒められている所を見て一仕事終えたのだと判断したらしい。

「あ、はい、ありがとうございます」

少年が素直に小さめの物を一つ貰って礼を言うと、ぺかーっと笑顔を返す少女。

ただそれだけなのに少年は少し顔が熱くなるような気分になり、理由も解らず少女から目を逸らしてしまう。

その様子に少女は小さく首を傾げ、どうしたのと覗き込みに行った。完全に逆効果だろう。

「うわぁ！？」

ふたりの身長はそこまで大きな差は無く、そうなると必然顔は近くなる。

鼻が触れる程に近づいたせいで少年は慌ててのけぞり、そのまま後ろにこけてしまった。

少年の行動が良く解らない少女はびくっとして驚いているが、傍で見ている単眼は微笑まし過ぎて笑みを殺せず、手で顔を覆って震えている。

「いつつ・・・」

少年は頭は打たない様にはしたが、盛大にこけたので結構痛かった様だ。

痛そうにゆっくり起きようとしている少年を見て、少女は籠を置いた。

そして倒れた少年に近づくと傍で膝をつき、少年を前からキュッと優しく抱きしめてから軽々と持ち上げて立たせた。

「ふえっ！？」

少女が近づいて来た事、いきなり立たされたこと、今も少女が抱きついている事、どれに驚けば良いのか解らない様子の少年。

おそらく一番少年の心音を大きくしている理由は抱きつかれた事だと思うが、本人は良く解っていない。

顔を赤くしながら少年が顔を下に向けると、まだ抱き付いたままの少女がにこーっと優しい笑みを向けていた。

「・・・あ・・・う」

湯気が出るのではないかという様子の少年だが、反応が返ってこない事を不思議に思った少女は笑顔のままくいっと首を傾げる。

それだけならまだ良かったのだが、そのままずいっと顔も近づける少女。

今は抱きしめているので少年は後ろに下がる事が出来ず、少女の顔が近い状態が保たれている。

少女は全く意識していないし、解らずやっているが、それは少年に対しては破壊力が高すぎた。

「きゅう・・・」

少年は変な声を出してだらんと気絶してしまった。許容量の限界を超えたらしい。

少女は突如気絶した少年に驚き、あわあわとした様子で単眼に助けを求めている。

単眼はもうお腹が痛いといった感じで声を出さずに笑っており「ちょ、ちょっとまって」とだけ答えて息を整えていた。

「この様子じゃいつ起きるか解らないし、自室に連れて行ってあげよう」

単眼は何とか笑いを殺し、ふうと息を吐いて少女にそう伝える。

少女はコクコクと力強く頷くと、少年を確り抱きかかえて少年の自室までパタパタと向かう。

その様子を見届けながら、おそらく少年で頭がいっぱいになって忘れたのであろう野菜を持ち、クスクスと楽しげに笑いながら台所に行く単眼であった。

因みにこの後、寝てる時は楽な状態が良いんだよという、前に教えて貰った知識から少年の服を剥ぎ、楽な格好でベッドに寝かせた少女。

そのせいで起きた時に自分が半裸だという事に先ず驚き、そうしたのが少女だと知りこれ以上ない程に驚く事になる少年。

また少女に色々見られたと言う事実に、少年は暫く少女の顔を真面に見れなくなってしまう。

だが少女はそんな少年を心配して構うので、顔を見ずにというのは不可能だろう。

少年の一番の悩みは間違いなく少女の事だと思うが、本人が良く解っていないので相変わらず解決の糸口が見えないようであった。