パンサンド。

「先ずコッペパンを用意します」


つい先日に似たような光景が有ったなと思いつつ、彼女の言葉を聞く少女。

その手にはコッペパンが一つ。彼女に手にも一つ有る。

因みに焼いた物ではなく市販品である。当然買って来たのは彼女だ。

少々小さめのコッペパンなのだが、少女の小さな手では普通サイズのコッペパンに見える。


「これをこうやって、手でこじ開けます」


コッペパンの色が変わっていくあたりの所に指をつっこみ、雑に割っていく彼女。

ナイフも何も使う気はない様だ。割り口は勿論、中もがたがたな感じにパンは割られて行く。


少女も素直に従い、小さな指をパンに突っ込み割り始める。

ただ上手く割れずに四苦八苦しており、段々と変な体勢になっていく。

パンを横にするのではなく体の方が傾いているが、少女は全く気が付いていない。

それをクスクスと小さく笑いながら彼女は説明を続ける。


「そしてこんな感じにパカッと開く状態にします」


彼女は指を入れた部分とは反対側が繋がっているのを見せる様に、パンをパカパカさせる。

だが少女はそれを確認して、驚愕の表情を彼女に向けた。

見ると少女の両手には半分に割れたパンが。繋がった所など無く完全に割れている。


少女はどうしようと顔に書いてあるような顔で、自分のパンと彼女のパンに視線を往復させる。

彼女はこの程度の事に本気で焦っている少女を可愛く感じるが、それと同時におかしくて盛大に吹き出しそうなのをプルプルと震えながら我慢をしている様だ。

暫く無呼吸で何とか吹き出すのは抑え、ニコッと笑って口を開いた。


「へーきへーき。これはこれでまた別に使おう。取り敢えずはもう一回やってみようか」


少女の手からパンをひょいっと取り、代わりに新しいパンを渡す。

手渡されたパンを見て今度こそと気合を入れ、また体を斜めにしながらパンを割る少女。

むー、んー、と変な唸り声が漏れている。


彼女は「吹き出しては駄目だ」と思いながら必死に堪えていた。

だが今度こそちゃんと繋がった状態で割る事が出来たので、ぺかーっと笑顔を見せてパンをパカパカさせる少女。

頑張って堪えていた彼女は少しだけ「ぷくっ」と吹き出してしまい、少女は不思議そうに首を傾げる。


「んっ、んんっ、何でも無いよー? 上手に割れたねー」


誤魔化す様に咳ばらいをし、少女の頭を撫でる。

そのまま一緒に角も撫でると、にへーっと笑う少女。

簡単に誤魔化されている様子がまた可愛くて、彼女も同じ様に二へッと笑う。


「よっし、じゃあこれで下ごしらえは終わりです」


その笑顔のまま宣言した彼女の言葉に笑顔が消え、ほへっと間抜けな顔で驚く少女。

だが先日の事を思い出し、もしかしてという雰囲気の顔をし始める。


「調味料は~・・・・でーん。マヨネーズー。以上です」


そこで少女は気が付いた。あ、これこの間のと同じ展開だ、と。

もうこの時点で何となく予想はつき始めているのだが、少女は彼女の行動を大人しく待つ。


「割ったパンの中にマヨネーズをこう、ぐーっと出します」


彼女は説明通り、マヨネーズを豪快に割ったパンの中に流し込んでいく。

少女はその最中口が開いたままになり、ああ~っと、どこか困った様子の声を上げていた。

結構な量を流し込んだところでマヨネーズを置き、パンをぱたんと閉じる。


「かーんせー! マヨネーズコッペパンの出来上がっ!?」

「おーまーえーはー!」


ニコニコ笑顔で完成を告げる彼女であったが、言い切る事が出来なかった。

途中で複眼が乱入し、彼女の頭をガッと掴んでギリギリと力を入れ始めたせいだ。


「いだっ、ちょ、マジ痛いって! いだだだっ!!」

「煩い! 何だその余りに雑な物は!」

「いだっ、マ、マヨネーズなら、普通に何かにつけたりするじゃん!」

「付けるだけならするかもね! 何その山盛りのマヨネーズは!」


彼女は複眼の腕を掴んで引きはがそうとするが、完全に力負けしているようだ。

じたばたともがいているが、その手が離れる様子が無い。

だが複眼は途中でペイっと投げ捨てる様に放し、スタスタと冷蔵庫に向かう。


そして中からトマト、レタス、ベーコン、チーズを取り出し、手際よく薄切りにしていく。

次にマスタードを取り出して少女の割ったパンに軽くかけ、マヨネーズも軽くかける。

そこに先程切った材料を綺麗に乗せていき、パンを閉じて彼女に付きつけた。


「せめてこれぐらいやりなさい」

「えー、それじゃ普通にサンドイッチじゃんー。この雑な感じが良いのにー」

「そう、それじゃちみっこに判断して貰おうかしら?」


彼女の言い分を聞き、複眼は二つのパンを少女に渡す。

少女は渡されたパンを両手に持ち、キョロキョロと顔を動かしている。


「それを食べてどっちが美味しいか、ちみっこが判断してみて」


複眼にそう言われ、恐る恐るマヨネーズパンを食べる少女。

その味は予想を全く裏切らず、当然ながらマヨネーズ味である。

だがこれはこれで美味しいと思い、笑顔でもむもむと口を動かしていた。


口にした分をごくんと飲み下したところで複眼が水を飲むようにとコップを口元に持って行き、そのままコクコクと飲ませる。

ぷはーっと口を放したら今度は複眼のパンを食べ、すぐにぺかーっと光る様な笑顔になった。

どうやらとても美味しかった様だというのがそれだけで解る笑顔だ。


「で、どっちが良かった?」


まだ飲み下す前の少女に複眼が問うと、少女は一瞬悩んだもののすぐに複眼のパンを掲げる。

複眼のほうが美味しいという意思表示らしい。

もっきゅもっきゅと口を動かしながら、彼女に少し申し訳なさそうな顔を向けていた。


「えー・・・いやまあ、そりゃそうか・・・」

「当たり前でしょうが。この子に今迄どんな料理食べさせてきたと思ってんの」

「へーへー、胃袋掴んでる方は強いっすなー」


納得しつつも項垂れる彼女に対し、複眼は自信満々に告げる。

少女は彼女の作る雑な料理も嫌いではない。嫌いでは無いがやはり味が大雑把すぎる。

複眼の作る料理に慣れている少女には、やはり普段の味がお好みの様だ。

色んな味が口の中でするのがとても嬉しくて、にっこにこしながら残りをもっきゅもっきゅと食べている。


「という訳で、あんたまた暫く食事抜き」

「そんなご無体なー!」

「やかましい。二度目だから絶対に許さん」


懲りない彼女はまた暫く複眼の料理を食べられない日々が続くのであった。






だが偶に少女が複眼に作って貰った料理をこそこそと持って行き、彼女と一緒に食べていたりする日が見受けられた。

当然複眼は気がついていたが、少女がする分は致し方ないかと目を瞑るのだった。

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