お出かけ先の事件。

「うっそでしょー・・・」


 彼女は少女を抱きしめながら、現状を嘆いている。

 今日はお使いのついでに少女と楽しくデートをする予定だったのにと。


 珍しく街で少女と二人っきりなので、目一杯可愛がれると思っていた。

 具体的には少女に似合う服やアクセサリーを一緒に見に行ったり、一緒にスイーツを食べに行ったり、ペットショップに行って可愛い生き物を愛でたりして楽しむつもりだったのだ。

 だがそれが、目の前で起きた出来事で完全に潰れてしまった。


「動くな! 動いたら撃つぞ! 座れ! 座れって言ってんだよ! 変な動きを見せたらその場で撃つぞ!」


 女の指示でお金をおろしに来た彼女と、もうそろそろ自分以外に付いて行っても大丈夫だろうと付いて行かせた少女が向かった銀行。

 そこで銀行強盗が、それも集団の銀行強盗がやってきた。

 強盗達は銃器で武装しており、拳銃ではなく小銃や機関銃の類なのが性質が悪い。

 あっさりと人が大量に殺せてしまう兵器故に、皆怯えて蹲っている。


 こんな場に居合わせるなんてどういう確率だと思いながら、彼女は少女に危険が無い様に抱きしめて、なるべく人の集団の後ろに隠れる。

 少女は皆の恐怖が伝播してしまったのか、泣きそうな顔で彼女にぎゅっとしがみついていた。


「大丈夫、大丈夫。大人しくしてれば帰れるからねー。あたしの傍に居れば大丈夫だからねー」


 強盗達を刺激しない様に、小声で少女を宥めながら頭を撫でる。

 勿論その言葉はただの気休めで何の保証も無いが、それでも少女は笑顔でそう言ってくれる彼女の言葉に安心感を覚えた。

 少女は彼女に一層強く抱きつくが、その顔は少し涙目ながらも笑顔になっている。


 彼女はその事にほっとしつつも、角が突き刺さって痛いけど今は言えない事に悩んでいた。

 少女は彼女のお腹に顔を押し付けてぎゅっと抱きついているのだが、肋骨に角が突き刺さっていて、強盗よりもそっちの方が彼女には大変な事になっている様だ。

 時折少女の頭が動き、骨の隙間に突き刺さるのも中々にえぐい。


「おせえぞ! 早く金を入れろ!」


 彼女が角の痛みに耐えていると、お金を詰める段になっていた様だ。

 強盗達が焦った様子で銀行員達に銃を突きつけている。

 その辺りで、警察車両の警報音が聞こえて来た。


「くそっ、誰だ! 誰が通報しやがった!」


 警察が来た事に苛つき、強盗の一人が受付の奥に向かって銃を乱射し始めた。

 銃弾で様々な物が砕け、銀行員も客も悲鳴を上げて蹲る。


「ああもう、本当に性質悪いなぁ!」


 彼女は状況の悪化に愚痴りながら、少女に覆いかぶさる様に身を伏せる。

 少女はいきなり鳴り響いた銃声とそれに伴う悲鳴でまた泣きそうになっていた。

 彼女としては怖いなら泣かしてあげたい所では有るのだが、泣いて騒ぐと目立ってしまうので頭を撫でて宥めている。


「大丈夫、この状態になったらもうあいつ等は詰みだから。逃げ出した後ならともかく、警察に完全包囲されてる状態で逃げられる強盗なんかいないって」


 彼女は小声で少女にそう語り、少女も彼女の言葉を信じて涙目になりながらコクコクと頷く。

 その際少女の角が肋骨をごりごりと抉っていき、危うく呻き声を出すところだった。


 だが彼女の言った内容には、口にしていない事が有る。

 確かにこの包囲された状況であれば、強盗の捕縛は時間の問題だろう。

 ただその時間がどれだけかかるのかは解らない。

 何よりもその間に、癇癪を起した強盗達が銀行員と客を皆殺しにする可能性だってある。


「おい、てめえ、こっちにこい!」

「げっ」

「おい、サツども! こっちには人質が居る事を忘れんなよ! 下手な真似したらこいつ等の頭撃ち抜くからな!」


 そしてこうやって、人質にとられる事も有りえなくはないのだ。

 とはいえまさかピンポイントで自分が人質になるとは、今日は厄日だろうかと彼女も泣きそうになっている。

 強盗は出入り口で人質を見せつけた後、室内に戻って銀行員に作業を急ぐように指示

 少女は彼女からいきなり引きはがされ、彼女が危険な状態になってしまい、緊張感に耐えきれなくなって泣きだしてしまった。


「おい、そこのガキ! 泣くな! うるせえんだよ!」


 少女はワーワーと泣いている訳では無く、泣き声を噛み潰す様にヒックヒックと泣いていたのだが、強盗の一人がそれでも泣いている少女に目を付けてしまった。

 そして少女に小銃が突き付けられ、銃口が頭を捉えている。


「おい、一人ぐらい殺しておいた方が、連中突撃し難いんじゃないか?」

「そうだな、これだけ居るんだ、一人ぐらい良いだろ。その後外に投げ捨ててやれ」

「そんな小娘じゃ最悪楽しむ事もできねえしな。そういう趣味の奴は居ねぇだろ?」

「ちがいねえな。煩いのも居なくなるし丁度良い」


 なんて、世間話をする様な気軽さで、強盗達は少女の命を奪う事を決めた。

 その事を理解して少女から離れる他の客達と、目を大きく見開く彼女。

 そして状況を把握しきれず、ただ泣いて銃口を見つめる少女。


「運が悪かったな。じゃあな小娘」


 男がにやつきながら引き金を引こうとし、乾いた音が鳴り響いた。


「なっ、があっ・・・!?」


 だがそれは男が引き金を引いた音ではなく、むしろ男は腕から血を出して銃を落として呻きを上げていた。

 少女も男も何が起こったのかを理解出来ていない。だが、更に何度もパン、パンと乾いた音が鳴り、タタタ、タタタ、タタタ、と小刻みにリズムを刻む様な音もなっている。

 その音が鳴り止む頃には強盗達は皆銃を取り落として、どこかしらを撃たれて蹲っていた。


「クソ共が、誰に手を出してやがる、殺すぞ。てめえ等みてえなクズが気軽に手を出して良い子じゃねえんだよ。動くなよ。急所はわざと外してやったんだ。動いたら容赦なく頭ぶち抜くぞ」


 そしていつか見た拳銃を左手に、強盗から奪った小銃を右手に持ち、凄まじい形相で銃を構える彼女の姿がそこに在った。

 普段の軽いノリとはかけ離れた口調で、少女すら怯えてしまう迫力を持っている。


「そこのアンタ・・・強盗抑えたの警察に言ってきて」

「ひっ、あ、あの・・・」

「早く行けつってんだろうが!」

「ひぃ、はいぃ!」


 彼女は苛ついた様子で銀行員の男性に指示を出し、男性は怯えながら外に出て行った。

 暫くして警察が突入し、強盗達は捕縛されていく。

 全員肩や足を撃ち抜かれているので、捕縛はあっさりと終わりそうだ。

 それを確認して、彼女は少女の下へ近づいて行く。


「えっと、ごめんねー、あたし、怖かったよねー?」


 先程の雰囲気は完全に消え、何時もの調子で少女に話しかける彼女。

 もしかするともう前の様に接して貰えないかなと怖がりながらだったが、少女はフルフルと首を横に振り、涙目になりながらも笑顔を彼女に向ける。

 何も怖くなんてないと。そう言う様に。


「・・・ありが―――」

「銃を下ろせ! 少女から離れろ!」

「銃を捨ててその場に伏せろ!」

「―――はい?」


 少女の優しさを嬉しく思い、礼を言って撫でようとした所、警察に銃を突きつけられている現状に気が付く彼女。


「え、ちょ、待って待って、何か誤解があると思うんですよ」

「良いから銃を捨てろ! 早く!」

「うえー! あたし強盗退治したがわなのにー!」


 彼女は嘆きながらとりあえず銃を捨て、警察が確保のために動こうとする。

 だがそこで少女が彼女を庇った為、詳しい事情を聞いて貰える状態になった様ではあったが。



 その後は事情聴取を受け、最終的に彼女は正当防衛という事で収まったのだが、その頃には日も落ちていた上に金も引き出せていないのだった。

 尚少女は既に屋敷から女が迎えに来て帰っており、彼女は一人寂しくトボトボと帰る事になる。

 一応少女は待つ気だったのだが、何時になるか解らないからと強制的に連れて帰られた様だ。


「やっぱ厄日だ・・・」


 ただ屋敷に帰った後、少女が満面の笑みで抱きついて迎えてくれたので、とりあえずそれで良しとする彼女であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る