ギンギツネ「キタキツネ、ゲーム作ったわ!」キタキツネ「えっ!?」
こんぶ煮たらこ
ギンギツネ「キタキツネ、ゲーム作ったわ!」キタキツネ「えっ!?」
「あら…?何かしらこれ…」
それはいつものように温泉を掃除している時の事だった。
ゲーム機の後ろで埃被った眼鏡を見つけたの。
温泉にくぐらせ埃を洗い落とすと二つのレンズから陽の光が差し込み温泉をキラキラと光らせた。
それにしてもえらくぶ厚いレンズね…まるで瓶の底みたい。
せっかくだしちょっとかけてみようかしら。
「あら…これは意外と…」
温泉に映った自分の顔を覗いてみる。
凄い…ピッタリね!まるで私専用に作られたみたい。
サイズもさることながらこれ結構イケてるんじゃないかしら、ふふ。
「ギンギツネー、向こうの掃除終わったよー…って!?!?」
「どうかしら、これ」
フフン、とちょっと得意げに眼鏡をクイっと上げてみる。
「…似合ってない」
「コンッ!?」
「何その驚き方…。いきなり眼鏡までかけて…あ、もしかしてゲームのキャラの真似?でもボクそんなゲーム知らないなぁ…」
「…もういいわ」
キタキツネの正直で心無い一言に私は打ちのめされた。
まぁそういう素直なところがあの子の良いところでもあるんだけど。
と言うか私ってもしかしてズレてる…?
そう言えば前に博士達に料理振る舞った時も何かとんでもないものを作ってしまったような…まぁ正直あの辺りの記憶が何故か曖昧で殆ど憶えていないのだけど。
「ギンギツネ…?何かごめんね…?」
「いえ…いいのよ」
私はフフッと愛想笑いを浮かべるとぐったりとうなだれるようにゲームコーナーの椅子にもたれかかった。
眼鏡越しにはゲームスタートの文字が映っている。
「えっ…もしかしてギンギツネもゲームやるの!?」
「やらないわよ。そもそも私操作方法も分からな…」
あれ?私、このゲームの操作方法知ってる。
いや確かにずっとキタキツネの横で見てきたけどやった事なんて一度もないのにどうして…?
えーっとこっちがスタートボタンでこっちが決定ボタンでしょ、それでこっちが…
「おぉ…ギンギツネがゲームやってる…」
「確かここはこうで…この先にはボスがいるから準備は入念に…」ブツブツ
「す、凄い…!初めてなのに一回もこんてぃにゅーしないでボス戦まで来ちゃった」
身体が覚えている…?
いやそんな本能的なものじゃなく完全に頭で理解できている。
どうして…?
数時間後
「あら?これでもうゲームクリア?」
「…そんな…まさかギンギツネがボクよりゲーム上手かったなんて…ショック」ズーン
「ご、ごめんなさい。身体が勝手にというか物凄く簡単だったからつい…」
「物凄く簡単…ボクは初めてクリアするのに一ヶ月以上かかったのに…」ズーンズーン
いけない。キタキツネがショックで塞ぎ込んじゃった。
「と言うか…ギンギツネさっきから変だよ」
「し、失礼ね。私これでもこの眼鏡結構気に入って…」
「…見た目じゃなくて…いや見た目も十分変なんだけど…」
「もうっ!何回も変って言わないで!」
まったく…さっきから散々な言われようで参っちゃうわ。
いいわよもうそんなに言うなら外すから…。
「あれ…?」
「どうしたの…?」
「…外れない」
「ま、まさかそれは古より伝わる呪われたアイテム…!!」
キタキツネは何故か目を光らせながら言った。
いやいやそんなゲームじゃあるまいし…って本当に取れないわねこれ。
鼻と耳にピッタリくっついてもはや身体の一部みたいになっているんだけど…。
これ無理に引っ張ろうものなら確実に顔のパーツ毎持っていかれるわよ…。
「や、やっぱりそれは呪いのアイテムなんだよ…!」
「だから何でそんな嬉しそうなのよ…。大体眼鏡をかけたぐらいでそんな急に頭が良くなるなんて事…」
「…きっとその眼鏡を装備するとちのうは100上がるけどみためが100下がるんだよ」
「もう、何でもかんでもゲームに例えないの…って、え?これそんなにイケてない?」
「(やっぱり自分では似合ってると思ってたんだ)」
「呪いかどうかはともかく取れないのは流石に困るわね…どうすれば…」
「あっ…そう言えば」
そう言うとキタキツネは奥の方から古びた紙切れを持ってきた。
「これは?」
「…さっきお掃除してる時に見つけたんだ…。とっても古そうなものだしもしかしたらその眼鏡と何か関係あるかもと思って。今のギンギツネなら文字も読めるんじゃないかな…」
「そうね。どれどれ…えーっと…所々かすれていて読めない部分もあるわね…」
××ギツネの日記
ついに完成したわ!!名付けてアタマヨクナールZZ!!何とこの眼鏡、装備しただけで頭が良くなるの!ただオ××リサマから特殊な加護を受けたものだから一度かけると身近な者を満足させない限り外す事が出来なくなるから取り扱いには十分注意する事!
「アタマヨクナールZZ…」
「…ヘンな名前…」
「えっそうかしら?私は結構イケてると思うけど」
「(文字を完璧に理解してるのも凄いけどギンギツネのセンスも凄い)」
「と言うか身近な者を満足にってアバウト過ぎない…?」
私は今一番身近にいるキタキツネをじっと見た。
キタキツネも純粋な瞳でこちらを見返してくる。
はぁ…まぁこの子の為なら多少の無理でも聞いてきたし今回もいつもと変わらない、か。
「キタキツネ。あなた私に何かして欲しい事ってある?」
「…うーん…じゃあせっかく天才になったんだしゲーム作って欲しいな…!」
かくして私のゲーム制作の日々が始まった。
数日後
「ふわああぁ…よく寝た。さてギンギツネのいない間にいつもの朝一ゲームを…ってあれっ!?」
「ふふ…どうやら気付いたようね」
「ギンギツネ…!?これってもしかして…」
キタキツネは目をキラキラさせながら今にもゲームにとびつきそうな勢いで聞いてきた。
「そうよ…作ったのよ!!」
「ま、まさか本当に作っちゃうなんて…」
「その名も『スーパーけものシスターズ』!!今までの単調なRPGから一新して今回は横スクロールを取り入れた斬新なアクションゲームにしたの!これぞまさにゲームの革命!」
「おぉ…何かよく分からないけど凄そう…!」
「さぁ早速プレイしてちょうだい」
プレイ中
「どう?キタキツネ」
「…うん、面白い…!単純だけど奥が深くて誰でもすぐに遊べそうだね」
うんうん…評価は上々のようね。
いきなり難しくする事も出来たけど今回は初めてのジャンル、ならここはあえて簡単にして取っ付き易くする…我ながら名采配だわ。
キタキツネも満足してるみたいだしとりあえずはこれでこの眼鏡ともおさらば…
「ってあれ?取れない…何で!?」
「うーん…確かに面白いんだけどちょっと簡単過ぎるかも」
「えっ?…あっ!?」
思わず目を疑った。ゲーム上の表示には8-4の文字…つまり最終ステージ!?
この短時間で最終ステージまで来たという事は…まさかこの子初回プレイでワープを見つけたというの…!?
これがゲーマーの勘ってやつかしら…流石はキタキツネね。
「やった…!ゲームクリアー!」
「ま、まさかこんな短時間でクリアされるとは…」
正直キタキツネが生粋のゲーマー気質だって事を忘れていたわ。
どうやらこの子はもっとレベルの高いものをお望みのようね…。
ならば見せてあげるわ!天才発明家のこの私に作れぬゲームなど存在しないのだから!!
「…今度はワープしないでやってみよ」
そして数日後
「はぁ…けもシスも飽きてきたな…。ノーミスクリアもしたしタイムアタックもワープ無しで19分切っちゃったし…」
「ふふ…ちょうどそんな頃だろうと思ってたわ」
「ギンギツネ…!という事は…」
「えぇ!これが次の新作よ!その名も『フレンズフォーマー サーバルの謎』!!」
「おぉ…!サーバルの謎なのに主人公がサーバルじゃないのは何か理由があるんだね…!?」
「特に無いわ」
「(無いんだ)」
まぁ強いて言えばサーバルの謎なのにサーバルが主人公じゃないのが謎といったところかしら。
今回基本的なシステムはスーパーけものシスターズから流用しつつ徹底的な難易度アップを図ったわ。
そして何と言ってもこのゲーム最大の特徴にして最大の武器がこれよ!ポチッ
「あれ!?主人公のジャパリバスの形が変わったよ…!?」
「フフッ…驚いたでしょう。これトランスフォームって言うのよ」ドヤァ
「とらんすふぉーむ…格好良い…!ギンギツネ、ボクこれやりたい!」
「はいはい慌てないの。ほら、早速敵の攻撃が来るわよ」
「えっ敵?どこ…?あっやられた…」
「もぉ~ちゃんとよく見なさい」
「えぇ~…何か背景と敵の攻撃の区別が付かないんだけど…」
「そ、そそそうかしら…?ほ、ほら次来るわよ」
「…よぉ~し今度こそ…!」
一時間後
「うぅ…まさかこのボクが最初のステージすらクリア出来ないとは…。ギンギツネー、これ難し過ぎるよぉ…」
「ふふっそうでしょう。このゲームは調整に調整を重ねた結果絶妙なバランスで敵の攻撃が当たりやすくこちらの攻撃が当たりづらくなってるの」
「そんなバランスいらない…」
「更にコンティニューは隠しコマンドになっていて普通にプレイしてるだけじゃ分からないわ!」
「…ボク知ってる。そういうのをクソゲーって言うんだよ」
「コンッ!?そ、そんな事無いわ!」
「難しいのも好きだけど難しさの中に楽しさがないとただ理不尽なだけのゲームになっちゃうよ。もうちょっと遊ぶ側の目線で考えないと良いゲームは作れないと思うな…」
「―――ッ!?」グサァ
そ、その通りだわ…。
私は今まで何て自己満足なやり方でゲームを作ってきたのかしら…。
ゲームの良し悪しは難易度じゃない…あくまで楽しむのはプレイヤー、プレイヤーが楽しいと思えるものを作れなければ真のエンターテイナーとは呼べないわ。
でも今までのゲームの方向性は間違ってはいないはず…。
じゃあ何が足りないというの…?
ううん考えていても始まらない…とにかく行動あるのみよ!
「でも敵の動きとかパターンさえ読めれば進めそう…。よし、磁場を感じるんだキタキツネ…!」
そのまた数日後
「はぁ…サーバルの謎も飽きてきたなぁ。結局サーバルの謎も分からずじまいだったし…。でもそろそろギンギツネが…」
「出来たわキタキツネ!新作よ!」
「(来た…!)」
「その名も『チーターウーマン』!」
「おぉ…!主人公はチーターとキングチーターだね」
「そうよ。基本的な操作やルールは前回のサーバルの謎と殆ど変わらないわ。ただトランスフォームは出来ないから注意してね」
「そっかぁ…残念。チーターがとらんすふぉーむする所も見たかったな…」
「まぁまぁ。操作は一緒でも中身は傑作そのものよ」
「うん…分かった。じゃあ早速…」
プレイ中
「この曲前にセルリアンから逃げた時に流れてた曲に似てる…」
「また訳の分からない事を…ほらもうすぐボス戦よ」
「よぉーし…頑張って倒すぞ…ってあっ!飛び越えちゃった…あれ…?ボスがどんどん先に進んで…」
「消えちゃった…」
「「………」」
「この裏ワザを見つけるとはやるわね」
「…これ裏ワザじゃないよね?」
おかしいわね…プログラムミスかしら。
さっきから処理落ちも酷いしステージクリアに至っては何の前触れもなくて何かアクション以上にシュールさが目立っているのだけど…。
「確か次のステージからキングチーターだっけ…?」
「そ、そうよ。キングチーターはチーターと違って棍棒を持ってて…あれ?」
「…何か次のステージに行かないんだけど………あ」
「タイトル画面に戻った」
「「………」」
「…ギンギツネ…さっきからずっと気になってたんだけどこのゲームちゃんと自分で遊んでみたの?」
「うっ…それは…」
「自分で遊んでもいないものを傑作だと言って他の子に遊ばせるのはよくないと思うよ」
「はい…」
確かに今回は急ぎ過ぎる余り作りが雑になってしまったのは否めないわね…。
まさか一度ならず二度までもキタキツネからクソゲー認定されるとは…いやここで諦めちゃ駄目よギンギツネ。もっとこう…それこそキタキツネがまじになっちゃうようなげーむを作らないと駄目だわ!!
「…何か日に日にクオリティが落ちていってる気がするけど大丈夫かな…」
またまた数日後
「…で、出来たのがこれ…?」
「え、えぇ…」
「『ギンギツネの挑戦状』…」
「…一言言ってもいいかな…」
「…やめて」
「(もはや批判すら受け付けなくなった)」
「はぁ…」
「…まだ続けるの…?」
「…勿論よ!ここまで来たら何としてでもキタキツネが満足してえらいって言ってもらえるような神ゲーを作るんだから!」
「(ここまでで三連続クソゲーを連発したギンギツネも十分えらいっと言うか凄い)」
そして一週間後
「…ついに完成した…」
これぞ今までの全てのRPGを過去のものとする最高傑作…!!
間違いない、これならキタキツネも納得するはずよ。
「完成したわ」
「おぉ…ギンギツネから今までにない自信を感じる…」
「そうよ!その名も『フレンズファンタジー』略してFF!!」
「…その略し方はやめた方がいいと思う」
プレイ中
「…凄い!これ面白いよギンギツネ!今まで遊んだどのゲームより面白い…!」
「…良かった」
キタキツネはいつになく興奮した様子で感想を語ってくれた。
良かった満足してくれたようね。これでようやくこの眼鏡とも…
「あれ…?」
「…どうしたの?」
「………取れないんだけど」
おかしいわ…何故取れないの。
呪いを解く方法は確かに…いや待って。
「…これって確か身近な誰かを満足させない限り呪いは解けないのよね…?」
「う、うん…」
「つまり、キタキツネはこのゲームの出来に満足していない、と?」
「そ、そんな事は無いけど…でも欲を言えばもっと面白いゲームが出来るんじゃないかなって…」
「やっぱり満足してないじゃない!!もぉ~ゲーム制作なんて懲り懲りよぉーーー!!!!!!!」
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