願望








「もう……さすがに大丈夫か?」


「……みたいですね。

もう、追ってくる足音もないですし」


聖と龍一の二人が、

ゆっくりと顔を見合わせて――


風船の封を解くかの如く息をはいた後、

示し合わせたように壁に背を預けた。


それからさらに壁伝いに腰を下ろし、

汗を拭って呼吸を整えるのに専念する。


満身創痍の様相だった。


そうなるほどに、アーチェリーの仮面――レイシスは、

苛烈な攻めで二人を追い詰めていた。


薬が切れかけてきたぼんやりとした頭で、

聖が先の戦いを思い返す。


驚異的な連射速度。

針の穴をも抜きかねない正確無比な射撃。


分かっていたことでも、

やはり隠れる場所のない通路ではどうしようもない。


数的有利の状況であれば――

もしくは、ダイアログを飲んだ自分ならあるいは――


そういった認識が、

甘すぎるものだったと痛感させられた。


仮にアーチェリーを持っていなかったとしても、

苦戦を強いられるに違いない。


いや、むしろあの身体能力を考えると、

弓を持たないほうが強いまであり得る。


潜在能力は十中八九、自分以上。


逃げ切れただけでも、

好運だと思うしかなかった。


「仮に勝負をするなら、広い場所か、

十字路で待ち伏せて、前後からの挟み撃ち……かな」


「それ以外だと勝負にならないのは、

もう十分に分かってしまったんで」


「……せやな。あれを取り戻すんは、

死ぬ気でいかなアカンやつやわ」


そんな龍一の返事を、

二日目終了の放送が掻き消す。


発表内容は脱出成功者なし、死亡者なし、


そして、新たな脱出条件として、

“世界”の大アルカナの使用が提示された。


放送が終わり、静かになったところで、

聖が再び龍一へと顔を向ける。


「もう一度聞きますけど、

本当に、あれが妹さんなんですか?」


「……ああ、間違いないよ。

一目見て分かった。あいつが美里や」


項垂れるとも頷くとも分からない首肯の後に、

龍一はぽつりぽつりと語り出した。


自分と妹とが、

親の意向で新薬の被験者であったこと。


龍一はほぼ全ての薬に適合せずに、

すぐに試験が打ち切られたこと。


妹は新薬の適合性が認められ、

その後すぐに引き離されたこと――


「新しい薬……ですか?」


「ああ。薬の名前はよく覚えとるよ。

ちゅーか、忘れるわけがないんやけど」


神妙な顔で龍一が口にした

薬の名前は――“アビス”。


確かにそれなら、忘れようもない。


「飲めば願いが叶う薬らしいけど、

俺の聞いた限りやと、そんな甘いもんやない」


「飲んだやつの願いを叶えるために、

命を使って壊れるまで動かし続ける薬や」


「適合するしないでまた違うらしいんやけど……

その辺はよう分からんかな」


なるほど――と頷く聖の脳裏には、

変貌した丸沢の姿が思い浮かんでいた。


適合しなかったらああなるということは、

原形を留めている龍一の妹はだいぶマシなのだろう。


それに、彼女は間もなく死ぬと聞いていた丸沢と違って、

聖の知っている限りでも数年は生きている。


「きっと、どうにかなりますよ。

今川くんが、彼女を助けてあげられれば」


「……だとええんやけどな」


龍一は、悲しげな笑みを浮かべて――


それから、聖に深々と頭を下げた。


「えっと……今川くん?

どうしたんですか、いきなり?」


「ここから先は、

俺一人で行動しよ思います」


「……妹さんを助けるためにってことですか?」


「はい。手伝う言うたのは俺なのに、

勝手に約束破ってホンマごめんなさい」


「そんでも、妹のこと見つけてしまったら……

じっとしてられないんです」


「もちろん、ちゃんと全部終わったら、

また森本さんのこと手伝いますから」


お願いしますと、

再び頭を下げる龍一。


その、見下ろせる高さに降りてきた茶色い頭を、

聖はしばし無言で眺めて――


『ああもう仕方がないなぁ』と聞こえて来そうな、

元副会長的微笑を浮かべた。


「分かりました。

今川くんは妹さんのほうに集中して下さい」


「……ホンマごめんなさい」


「謝らなくていいですよ。

私も私で、高槻良子を追ってますしね」


「私が止めようかなって迷ったのは、

危ないことに一人で行かせていいのかどうかです」


「でも……もし危ないって言っても、

今川くんは止まらないでしょう?」


「……そですね。止まりません」


「だったら、お互いに頑張って、

先に終わったほうがもう片方を助けましょう」


『それでいいですか?』と聖が微笑すると、

龍一はもちろんとばかりに深く頷いた。


「それじゃあ、カードの分配はどうしましょう?

四枚ありますし、半分ことか?」


「俺は13をもらえれば、それでええですよ。

9は三枚セットのほうが役に立つでしょうしね」


「でも……いいんですか?

今川くんの脱出が厳しくなるんじゃ……」


「俺は妹を助けるんが最優先なんで。

もしもの時に使えるぶんだけあれば十分です」


「もしかすると、うちの妹が大アルカナを持ってて、

それが“世界”かもしれんですしね」


「……分かりました。

どのみち終わったら合流ですし、預かっておきます」


「そうして下さい。

まあ、俺も一杯集めて来ますよ」


龍一が笑って、刀を手に立ち上がる

/それを見て、聖も腰を上げる。


「それじゃあ、今川くん。気を付けて。

絶対に死なないで下さい」


「森本さんも。

鬼塚の仇、絶対取って下さい」


お互いの目を見て、頷き合う。


それから、

二人でT字路まで歩き――


最後に握手をして、

それぞれ別の道へと踏み出した。


足音が遠ざかっていくのを聞きながら、

聖がそういえばと目を閉じる。


ABYSSと関わったあの夜からずっと、

誰かと違う道ばかり進んでいるな――と。







二日目が終わった。


けれど、さっきの放送でも、

佐倉さんと温子さんの名前は呼ばれなかった。


須藤さんによれば、

初日の放送でも名前が出なかったらしい。


つまりまだ、二人は生きている。

それだけは救いだった。


「……っと、大丈夫?」


ベッドで上がった呻き声を聞いて、

須藤さんの様子を確認する。


けれど、話しかけても返事はなし。

まだ眠ったままらしい。


「こうして見る限りは、

普通の女の子なんだけれどな……」


いや、普通っていうより可憐って感じか――と、

その静かな寝顔をこっそり眺める。


一緒に迷宮を歩いている時の須藤さんは、

ひたすら毅然としている人だった。


隙がなくて、

何事も一人で完結してるイメージ。


僕はいてもいなくても大差がなくて、

使えるから使うといった感じ。


でも、少し踏み込んでみると、

話し好きの世話焼きさんだった。


知り合いらしい黒塚さんに対しても、

積極的に傷つけることはしなかった。


何より、寝ていた僕から携帯を取らないで、

色々と面倒を看てくれた。


……多分、本当の須藤さんって、

優しい人なんだろうなぁ。


本人に言ったら『あ、はい』なんて、

適当に流されてしまいそうだけれど。


まあでも、須藤さんが起きたら、

ダメ元でその辺を言ってみよう。


「……起きるまでに、

僕は僕で、できることをやっておくか」





迷宮を慎重に探索する中――


少しずつだけれど、

体の痛みが増してきていることに気付いた。


にも関わらず、体調は戻ってきていて、

既に怪物との戦闘くらいならこなせそうだった。


体は治っているのに、

痛みは増しているという矛盾。


それに答えを付けるとすれば――


「感覚が鋭敏になってきている、

ってことなんだろうな……」


これも、僕がずっと忘れていた

人殺しの記憶のせいなんだろうか。


この状況では、

ありがたい影響なのは間違いない。


ただ……同時に、

やっぱり僕が人殺しなんだと意識させられる。


佐倉さんや温子さんを助けに行ったとしても、

僕は二人を殺そうとしてしまうんじゃないか。


僕みたいな血に穢れた化け物を見て、

二人はどんな顔をするんだろうか。


どっちも想像するだけで、

足が止まってしまいそうになるほど恐ろしかった。




「……落ち着け。大丈夫だ」


高鳴る胸元を押さえて、

ゆっくりと深呼吸をする。


恐ろしいけれど――

前に進んでいる間は、大丈夫。


やるべきことをやっている間は、

余計なことを考えずに目的だけを見ていられる。


悩むのは後だ。


今は須藤さんのために/佐倉さんたちのために、

部屋を見つけて小アルカナを回収しないと。





「えっと……これでいいんだったよな?」


部屋を巡ること、三つ目。


ついに見つけた手つかずの部屋で、

携帯をカードリーダーへと置く。


と、硬貨――ダイヤの6のカードが、

携帯に入ってきた。


それ以外の収穫は、食料と水、

そして一振りのナイフ。


さすが殺し合いを前提にしているだけあって、

ナイフの強度は十分に戦闘に耐えうるものだった。


これがあれば、また黒塚さんが出て来ても、

一方的な虐殺なんてことにはならないはずだ。


「……今度こそ、

須藤さんをちゃんと守らないとな」


須藤さんと黒塚さんとの間に、

何か関係があることは間違いない。


それが原因で動けないんだとしたら、

代わりに僕がやらないと。


いや――黒塚さんだけじゃない。

他の怪物でもだ。


僕が辛い時は須藤さんに助けてもらったんだから、

今度は僕が彼女を支えなきゃ。


こんな僕でも、きっとそれくらいは

役に立てるはずなんだから――








休憩時の恒例となった絵のモデルを務めながら、

那美はぼんやり物思いにふけっていた。


彼女の頭の中に浮かんでいるのは、

先ほどまで一緒にいた、丸沢の悲しげな顔。


なぜ自分の所に来たのか。その姿はどうしたのか。

どうして那美のことを見逃したりしたのか。


色々と話かけてみたものの、

結局、彼は何も答えてくれなかった。


ただ、ちらちらと那美の顔を見ては、

目を伏せて涙を零していた。


誰かにやられたらしい怪我だけは手当てしたものの、

果たしてあのまま置いてきてよかったのか分からない。


丸沢は今後、

どうなるのだろうか。


那美にはまだ脱出という希望はあるが、

彼に希望はあるのだろうか。


那美なりに色々と考えてみるも、

暗い未来しか想像ができなかった。


――彼は、ABYSSだ。


それは、丸沢が自分の悦楽のために、

人を傷つけ、殺しているということに等しい。


実際、片山の儀式においても、

丸沢は那美たちを生け贄として狩ろうとしてきた。


そこは否定できないし、

那美も許されないものだと思っている。


彼が変わり果てた姿になろうとも、

同情の余地なんてどこにもないだろう。


なのに――悲しげな彼の顔を思い返すだけで、

那美の内に可哀想という気持ちが湧いてくる。


何故だろうか。


「……知ってるから、なのかな」


思いつくままを言葉にしてみたら、

何となくそれらしく感じた。


那美の記憶にある丸沢は、

ABYSSの彼ではない。


接触はたった二回、見かけたのを含めても

片方の指に満たない数だったが、その時の丸沢は――


「――できた」


ぽつりと呟いた深夜の声に、

那美の思考が断ち切られた。


目を向けると、深夜は顔を伏せて絵を見つめたまま、

鉛筆を握り締めた手の甲で目元を擦っていた。


「完成したんですか?」


「そうですね……もう描くのは終わりです。

仕上げは残ってますけど」


「仕上げっていうのは……?」


「忘れないようにする感じですね。

きちんと記憶に残るように」


ああ――と納得する那美。


深夜がじっと絵に目を落としているのは、

目に焼き付けるためなのだろう。


「私も見せてもらっていいですか?」


那美がベッドから立ち上がって、

深夜の座る壁際へと近づく/横に回り込む。


『可愛く描いてくれてますよね』と冗談を交えつつ、

膝に手をついて腰を屈め、自身の肖像を覗き込む。


――その顔が、一瞬で凍り付いた。


「……えっ?」


何がどうなっているのか理解できず、

その意味を求めて、深夜の顔を覗き込んだ。


けれど、深夜は顔を上げず、

じっと絵に目を落としたまま。


「あの……深夜さん?」


「……何でしょう?」


「何って……何なんですか、これ……」


「佐倉さんの絵です」


「私の絵って言われても……えっと、

あんまりこういうのは笑えないっていうか……」


那美が作り笑いを浮かべて、

『やめて下さいよ』と冗談にしようとする。


が――顔を上げた深夜を見た途端に、

那美の頭の中は真っ白になった。


無意識のうちに、胸元のリボンを握り締める

/仰け反って、そのままよろよろと後方の壁に背をつく。


上手く息が吸えず、

喉が引きつった音を出す。


じわりと目に涙が溜まっていき、

深夜の顔がぼやけ出す。


けれど、どれだけ視界が滲んでも、

那美の目にはハッキリと見えていた。


彼は――深夜拝は、

自身の首を絞めた幼馴染みと全く同じ形相をしていた。


「……逃げなくてもいいですよ」


深夜が床に付けていた腰を浮かせて、

ゆっくりと立ち上がる。


彼の手が摘んだ紙の中で、

胸元を刺し貫かれた那美の死体がだらりと首を垂れる。


そこにある自身の虚ろな瞳を見て、

那美の体中が粟立つ/ぶるぶると震え出す。


まるで死体を見て描いたような、

異様なリアルさ。


この人の目に自分はこんな風に映っていたのかと思うと、

傍に立つことさえおぞましい。


怖気に歯を鳴らす那美――それを見て、

深夜がゆっくりと手を伸ばす。


怖がらなくていいよとでも言うように微笑を浮かべ、

しずしずと那美に向けて足を踏み出す。


その足が地面に触れると同時に、

弾かれるように那美が走り出した。


あ――と声を上げる深夜の手をすり抜ける。

勢い余って壁に体をぶつける/転んで膝を擦り剥く。


危ないよという深夜の声――

無視して地面を手で掻き、転がるように前へ。


荷物も全て置き去りに、

とにかく部屋の出口へ一直線に突っ込んだ。


「……どうして、女の子はみんな、

僕から逃げていくんだろうなぁ」





辛うじて部屋を飛び出したところで、

那美の体から汗が一気に噴き出してきた。


だが、まだ部屋を出ただけ。

ここから逃げ切らなければ意味がない。


どこをどう目指すといったことは考えずに、

とにかく姿を隠すために走り出す。


恐怖で強張った体が動き続けているのは、

那美のこれまでの経験のおかげだった。


そして――その経験が、

深夜は間違いなく自分を殺しに来ると直感していた。


部屋の中は暴力禁止であるとかは関係ない。

そんな理屈の通じる相手ではない。


彼は、首輪の痛みなら平気で我慢するし、

例え自分が死のうとも那美を殺すだろう。


記憶が何度も死んでいる彼が、

今さら自分の命にしがみつくとは思えない。


とにかく逃げなければ。


「佐倉さん、一人で歩くと危ないですよ。

心臓も悪いんですよね?」


後ろから深夜の声が聞こえてくる。

/その真実味のある声に怖気が走る。


どうしてこの人は、これから殺そうとする人を、

そんなに真剣に心配できるんだろうか――


理解できないまま、

那美が息を荒げながらひた走る。


が、足音の出所を正確に把握できているのか、

迷わず的確に那美を追ってくる深夜。


幾ら分岐を経ても同じ。


二択三択を潜り抜けて、

着実に確実に、那美へと近づいてくる。


「大丈夫ですか?

無理しないほうがいいですよ」


「もうすぐ追いつきますから、

そのまま待ってて下さい」


最初は目一杯叫んでいたその声も、

今では少し遠い相手に呼びかける程度でしかない。


那美は全力で走っているつもりなのに、このままでは、

もう一分も経たないうちに追いつかれてしまう。


なのに、もうそろそろ、

那美の限界が近づいてきていた。


しばらく運動はしていなかった上に、突然の事態。

ここ数日の疲れも溜まっている。


足が重くなり、苦しくて顎が上がる。

唾液の鉄じみた味が気持ち悪い。


それでも気力で前進するが、

徐々に走る速度が落ちるのが自分でも分かった。


そんな折りに、十字路が目の前に。


どれも選んだ先は数メートルも進めば角に当たり、

簡単に隠れられそうだった。


これならば、深夜が道を間違えさえすれば、

逃げ切れる可能性はある。


真っ直ぐか、右か、左か。


迷った末に――那美が選んだのは左。


もはや深夜を引き離せることはないだろうと、

覚悟を決めて息を殺し、角の向こうへと隠れる。


それとほとんど入れ違う形で、

深夜が十字路へとやってきた。


「……佐倉さん?」


深夜が那美へと呼びかける。


まるでこの近くにいると分かっているかのように、

足を止めて、十字路の突き当たりをじっと見つめる。


真っ直ぐ――次に右、最後に左。


そこでもう一度、

深夜は『佐倉さん』と呼びかけた。


声が自分のほうへと向いたことで、

那美の喉が引きつりかける。


泣きそうな心境――

“どうしてこっちにいるって分かるの!?”。


それでも、息を殺して/胸元を掴んで、

那美が身を縮こまらせる。


目を閉ざして、深夜が何かの気まぐれを起こすことを、

ひたすらに祈り続ける。


お願いだから、こっちに来ないで――


「……やっと追いつきましたよ、佐倉さん」


そんな那美の祈りの上から、

深夜の不気味なほど淡々とした声が降ってきた。


那美の体がびくりと跳ねる。


自分を殺そうとしている男が目の前にいるのは、

間違いなかった。


けれど、顔を上げられなかった。

恐ろしくて目を開けられなかった。


そんな那美に、深夜が何事もなかった風に

語りかけてくる。


「よかった、僕のことを待ってくれていて。

きっと佐倉さんならそうしてくれると思ってました」


「僕の好きだった人も、何となくですけど、

僕のことをよく待ってくれていた気がするんです」


「やっぱり、佐倉さんを描いてよかった。

これで僕はまた彼女に触れられる」


笑うとも泣くともつかない声で、

しみじみと『ありがとう』を口にする深夜。


恐怖と嫌悪が身を包んでくる感覚に、

那美がひっと鋭い悲鳴を上げる。


同時に、閉じていた目が開き、

ぽろぽろと涙が零れた。


その眼前で、

深夜が壊れた笑顔を浮かべていた。


けれど、逃げ出そうにも、

今度こそ体が固まってどうしようもない。


それは、小動物が

蛇に頭から食われる様に似ていた。


深夜拝という人殺しの臭いと温度が、

毒液のように那美の体を麻痺させていた。


深夜が、為すがままになっている那美の頭を撫でて、

絵画を愛でるように微笑む。


そして、那美の荷物から、

小振りのナイフを取り出し――


突然の横からの衝撃に、

思い切り吹っ飛ばされた。


唖然とする那美――

何が起こったのか全く理解できず。


いきなり深夜が消えた?

どうして?


今度は何が起きるの?


恐怖と混乱とで引きつった喉が、

那美の呼吸を大きく乱す。


次々と押し寄せる不測の波濤に溺れかける。


そんな那美の手を掴み取り、

引き上げる者があった。


那美が動転して何かと身を縮こまらせる。

今度は何かと目を向ける。


はっと息を呑んだ。


そこには、目に光の灯った、

丸沢の姿があった。


「佐倉さン、逃ゲて!」


丸沢が引き上げた那美を立たせ、背後に庇う

/ひび割れた声で怒鳴る。


それに戸惑いを浮かべる那美――

自分を引き上げてくれた手にもう一度触れる。


“何で丸沢くんがここにいるのか?”

“どうして、自分のことを助けてくれるのか?”


色々と訊ねようと思うよりも早く、

丸沢は手を払って那美を撥ね除けた。


「丸沢くん……」


「いいかラ早ク!」


「あ……ありがとう、丸沢くん!」


全ての疑問は差し置いて、

那美は丸沢の好意だけを受け止めた。


そして、深々と頭を下げて、

再び迷宮を駆け出す。


その足音がだいぶ遠ざかった辺りで、

深夜が丸沢に殴られた頬を押さえながら起き上がった。


「痛てて……酷いなぁ、いきなり殴ってくるなんて。

ま、どうせ佐倉さんはすぐ捕まるからいいんですけど」


「それより、どうして怪物が、

佐倉さんを逃がしてるんでしょ?」


手の中のナイフをくるりと回して、

深夜が丸沢と向かい合う。


「君、さっき佐倉さんのところに来ましたよね?

怪物って意思がないと思ってたのに、違うのかな?」


「もしかして、

お話もできちゃったりします?」


「もしよかったら、そこをどいてもらえると

ありがたいんですけどー……」


「お前に佐倉さンは殺させない」


「あー、お話はできるみたいですねー。

微妙に噛み合ってないですけど」


「それじゃあ、一つ教えて下さい。

あなたはどうして佐倉さんに関わるんですか?」


「……佐倉さンガ、

僕のコとを助ケてクレたカラだ」


「助けた……?」


『何ですかねそれ?』と眉を寄せる深夜に、

丸沢は敢えて答えることはしなかった。


何故ならそれは、

大切な思い出だったからだ。







片時も忘れたことはない。


それは、丸沢が学園に入ったばかりの頃――

まだABYSSに入っていない頃の話。


入学以前にも虐められていた彼は、

新しい環境ではそれがなくなると期待をしていた。


しかし、彼の雰囲気がそうさせるのか、

彼が再び虐められるのにそう時間はかからなかった。


幸い、以前よりはマシなイジメの内容だったが、

それでも辛いことには変わりない。


何より、頑張って朱雀学園に入っても無駄だったことが、

彼にとって途轍もなく苦しかった。


自分では何も変えられなかったことが、

彼を酷く追い詰めていた。


そうして、自殺も真剣に考え始めた頃――


いつものように虐められていたところで、

見知らぬ女生徒が止めに入ってきてくれた。


これまで彼が見てきた周囲の人間は、

虐めに加わるか、見て見ぬ振りをするかだ。


なのに、その子は女の子であるにも関わらず、

周りの男子生徒に止めるように言ってくれた。


初めての経験だった。


何が起きているのかも分からず、虐めていた男たちと

その子のやり取りを、ぼんやりと見ていた。


そうして、男たちが消えた後――


小突かれて転んでいた丸沢に、

その子は『大丈夫?』と手まで差し伸べてくれた。


一瞬、それも理解不能で混乱したものの、

丸沢は何とかその手を取って立ち上がった。


年頃の女の子の手を握ったのも、

初めての経験だった。


顔が熱くなった。


真っ赤になっているだろう自分の顔が恥ずかしくて、

慌てて女の子の手を離した。


驚く少女。

その反応がまた、丸沢のパニックを呼んだ。


驚かせてしまった/変なヤツだと思われた

/相手の好意を拒絶したように見えたに違いない。


様々な思考が浮かび/けれど言葉にできず、

不思議な顔をする少女の前で丸沢は完全に固まった。


何をしようと相手を不快にさせる気がして、

どうしようもなくなった。


そうして、彼はとうとう、

その場から謝りながら逃げ去った。


一人になってからは、

自己反省と自己嫌悪の中に埋もれた。


お礼を言い忘れたこと、パニクったことを思い出し、

本気で頭を抱えて後悔した。


――それから、

丸沢は少女を探すようになった。


虐めは根本的な解決には至らず、翌日以降も続いたが、

以前のように死にたいとは思わなくなっていた。


何も変わらないと思っていた学園生活に、

以前とは明確に違うものを見たからだ。


それからすぐに、彼は、

初めて希望を与えてくれた少女の名を知った。


佐倉那美。

違うクラスだけれど、同じ学年の少女。


彼女を調べていくと、どういうわけなのか、

いつも一人でいることが分かった。


一応、彼女の幼馴染みが声をかけていたものの、

それも相手にしていないらしい。


話しかけるチャンスだと思った。


下心も当然あった。


けれど、それ以上に、

助けてもらった件のお礼を言いたかった。


そうして、台詞の準備に二日、心の準備に十日かけて、

ついに丸沢は那美へと話しかけた。


「あ、あの……この間は、ありがとうございました。

あなたのおかげで、助かりました」


話しかけた時は浮かない顔をしていた彼女も、

先の件を思い出したのか、にっこり笑ってくれた。


絶対に忘れられていると思っていただけに、

覚えてもらっていただけで叫びそうになった。


笑顔が可愛くて、ドキドキして、

それだけで幸せな気持ちになれた。


「あのっ、僕、丸沢って言います。

あのっ、えっと……」


「う、嬉しかったです。

あ、あとっ、ありがとうございましたっ」


話しているうちに、

どんどん頭が真っ白になってしまった。


最後にはとにかく頭を下げて、

また逃げ出してしまった。


色々と話したいと思っていた用意した言葉も、

全て無駄になってしまった。


それでも、満足感で一杯で、

一人になった後はずっとニヤニヤが止まらなかった。


こんなに勇気を出せる人間だったのかと、

自分自身に驚いていた。


それを教えてくれた女の子に、

彼はますます感謝した。憧れが募った。


自分なんか相手にされるわけがないと思っても、

また彼女に話しかけようという目標を持てた。


虐めてくる連中にだって、

頑張ればきっと抵抗できると思った。


けれど、現実はそう甘くない。


勇気はあっても力が足りず、

丸沢は結局、虐めを跳ね返すことができなかった。


話しかけようと思っていた那美にも、

結局、ずっと話しかけられなかった。


きっともう、彼女だって、

自分のことなんか忘れてしまったに違いない。


仮に覚えてくれていたにしても、

弱い自分に興味を示してくれるはずがない。


丸沢の心に再び影が差し、

あれだけあった勇気は呆気なく萎れてしまった。


彼が片山信二と――ABYSSと出会ったのは、

そんな折りのことだった。



「……んー、まあよく分からないですけど、

好きだったってことでいいんですかね?」


丸沢の沈黙を自分なりに解釈して、

深夜が推論を口にする。


それに、丸沢は目を細め、

きつく睨むことで不快を顕わにした。


彼の心の奥底に触れるには、

その物言いは余りにも不躾だった。


「あー、怒っちゃいましたか。

すいません」


「でも、あなたってABYSSなんですよね?

ここにいるってことは」


「そんなに佐倉さんが好きなら、

力で自分のものにできたんじゃないんですか?」


懲りずにずけずけと、

効率論で丸沢に踏み込んでいく深夜。


しかし、丸沢が更なる不快感を示すかと思えば、

そんなことはなかった。


「……どうして、

驚いてるんですかね?」


目の前の怪物の不思議な反応を見て、

深夜がぽかんと口を開ける。


その顔を見て、丸沢が笑った。


“どうして片山くんは、

その朝霧温子を襲っちゃわないの?”


かつて、自分はこんな間抜けなことを、

あの人に言ってしまったのかと。


“片山くんはABYSSなんだから、

欲しいなら幾らでも手に入るでしょ?”


ああ、自分はこんな風に見えていたのか――と。


丸沢が自分の横へと目を向ける。


今はもう、片山はどこかへ行ってしまったが、

きっとどこかで見ているに違いない。


そう思って、ごめんなさいと謝り、

彼の言葉を思い出した。


“あー……このクソ野郎。

バッドだ丸沢。だからお前はダメなんだよ”


“お前に惚れた女はいねぇのか?

いるならよく覚えとけ。いなくても忘れるな”


“いいか、暴力は金と同じだ。

それで手に入るのは、基本的に外側だけなんだ”


“外側は整形だってできる。年を食ったら劣化する。

刹那的なものでしかねぇ”


“お前は惚れた女の一瞬だけを手に入れればいいのか?

ずっと側に置きたいと思わねぇのか?”


“惚れた女ってのは一点物だ。

神のオーダーメイドなんだよ”


“見てくれがいいだけの量産品と違って、

中身まできっちり作り込んであるんだ”


“それを、外側だけ食って捨てるだなんて、

そんなもったいないことしてられねぇだろう?”


“だからな、丸沢。

もし、お前が本当に女に惚れたら――”


「もし……お前が本当に

佐倉さんを好きになったなら……」


「はい?」


聞き返してくる深夜に、

丸沢が澄んだ声で続きを口にする。


「その人のことは、

絶対に暴力で手に入れようとするなよ」


「それで手に入るのは、外側だけだ。

本当の意味での佐倉さんは手に入らない」


「……」


“逆に、他のクソに女を力で奪われそうなら、

その時はそいつを全力で潰せ”


“お前が女を守るんだ。いいな?”


分かったよ片山くん――と、

独りごちる丸沢。


ようやく、あの時の片山が言おうとしていたことを、

心の底から理解できた。


片山が温子を襲う計画を立てた時、

丸沢は密かに疑問を覚えたが――今は違う。


片山は、温子と勝負をしただけだった。

浚って犯すだけのようなことはしなかった。


きっと、彼女に実力で勝つことが、

片山にとって手に入れるということだったのだろう。


そう思い至った際、ふと丸沢は、

自分が那美を手に入れるということについて考えた。


自分は、那美をどうしたかったのか。

那美と何をしたかったのか。


ぱっと出て来たのは、

“もう一度、彼女の手を握りたい”だった。


他にも考えれば色々出てくるだろうが、

一番にやりたいことはそれで間違いない。


そして――今さっき、

その願いを叶えてしまっていた自分に気が付いた。


丸沢が声を上げて笑う。


死にたくなる地獄のような現状だと思っていたのに、

きっちり自分の願望が叶ってしまっているとは。


“アビス”が服用者の願いを叶えるという話は、

満更嘘でもないのかもしれない。


そう思うと、初めて那美と会った翌日のように、

丸沢を苛んでいた絶望の影がスッと引いていった。


どうにもならないという気持ちが消え失せて、

現状を何とかしようという勇気が湧いてきた。


改めて、佐倉那美のことを好きになっていた。


そんな丸沢の変化を見て、

深夜が眉をひそめる。


だが、すぐに丸沢の出血を思い出し、

何かの薬が切れかけているせいだなと結論付けた。


そうでなければ、怪物が意思を持つどころか、

希望まで抱くなんてことはあり得ない。


自分がどんどん落としてしまっているものを、

こんな怪物が持っていていいはずがない。


「もういいです。

そろそろ佐倉さんを追いかけないとなんで」


深夜がナイフを逆手に持って、

笑顔で眼前の怪物へと突っ込む。


それに、丸沢は両手を広げて立ちはだかり――


死闘が始まった。







「幽はね、私がパートナーとして

ずっと組んでた子なんだ」


目を覚ましてから一通りの現状を説明すると、

須藤さんは目を伏せて、ぽつりぽつりと語り始めた。


「須藤さんって、

プレイヤーじゃなかったの?」


「プレイヤーだよ。

プレイヤーもパートナーもどっちもやってるんだ」


「プレイヤーほどじゃないけど、

パートナーも報酬があるから。情報も集めやすいし」


……っていうことは、須藤さんも、

ABYSSと関わってる理由があるんだな。


恰好いいからプレイヤーになったって言ってたけれど、

やっぱりそんなことはなかったか。


「まあ、組んでたって言っても、

向こうは私の顔を知らないんだけど」


「へぇ……そうなんだ。

パートナーっていうのに意外だね」


「画面越しでのやり取りだからな。

それに、こっちの情報を隠してたのもあるし」


「チャットでは男っぽく振る舞ってるつもりだから、

幽は私を男だと認識してると思う」


「須賀……って言ってたのも、それ?」


「……そう、それ。よく覚えてたね」


まあ仕方ないか――と、

須藤さん改め須賀さんが額に手をやる。


「名前に関しては須賀が本当だよ。

このゲームでは、面倒を避けたくて偽名にしてたんだ」


「じゃあ……須賀さんに恨みを持つ人間が、

参加者の中にいるってこと?」


「恨みとはまたちょっと違うけど、

喜んで殺しに来るやつはいそうな感じだな」


「そういう連中のせいで、

幽がプレイヤーになったようなもんだし」


……須賀さんと黒塚さんは、

共通の敵に狙われていたってことだろうか?


「私がパートナーとして動いてたのは、

幽の手助けをしたかったってのもあると思う」


「それが全部じゃないけど、知ってるやつだし、

死なれたりしたら嫌な感じだし」


「後はまあ、幽は戦闘はできても、

情報収集とかは最低最悪のバカだったから」


「そのまま放っておいたら、

あっという間に死んじゃいそうだったのもあるかな」


「鬼のような言いぐさだね……」


でも、無関係な僕を襲って来たりしてたし、

黒塚さんが危なっかしかったのは事実なんだろう。


しっかりした須賀さんの協力は、

黒塚さんにとってかなり有意義なものだったはずだ。


「でも……それが正しかったのかって考えると、

今は自信ないかな」


寂しそうに呟いて、

須賀さんはお腹の辺りを撫でた。


そこは、さっきの様子のおかしかった黒塚さんに、

思い切り蹴りつけられた場所だった。


「……黒塚さんがどうしてああなったのか、

須賀さんは心当たりってない?」


前に屋上で戦った時、黒塚さんが薬を飲んだら、

身体能力が上がって雰囲気が変わったことがあった。


あの時もその変貌にかなり驚いたけれど、

さっき見た黒塚さんは、あの時よりもずっと強い。


それに……“判定”があそこまで変わるだなんて、

相当なことがない限りはあり得ないはずだ。


変わるとすれば、そう――

丸沢みたいに、化け物になるとかだろうか。


「もしかして、ああいう変化を引き起こす

ABYSSの薬があるの?」


質問というよりは確認というニュアンスで、

須賀さんの目をじっと見やる。


ほんのり嘘と沈黙を抑制を狙ったその直視は、

きちんと効果があったらしい。


「……“アビス”っていう、薬があるんだ」


観念したように溜め息をついて、

須賀さんは都市伝説の名前を口にした。


「その薬を飲むと、

丸沢みたいになるっていうこと?」


「断言はできないけど。

心当たりがあるとしたら、それだっていう話」


「あーっと……それじゃあ、

ABYSSの薬ってどういうのがあるの?」


「もし、それを知ることで戦闘が有利になるなら、

色々聞いておきたいんだけど」


ダメかな――と訊ねてみると、

須賀さんは面倒そうにしつつもきちんと教えてくれた。


ABYSSでゲーム向けに扱われている薬は、

基本的に二種類。


主にABYSSが使う“フォール”と、

プレイヤーに服用者の多い“ダイアログ”だ。



フォールは、

人を超えることができると言われている薬。


常用することで少しずつ服用者の身体能力を高め、

都市伝説の超人を生み出すことができる。


反面、副作用として精神面への作用が大きく、

暴力的な人格へと徐々に変わってしまう。


もっとも、残忍な儀式を行うABYSSにとっては、

その副作用も好都合なんだろう。


一方、ダイアログは、

人間の限界を引き出すと言われている薬。


フォールとは違って速効性がある代わりに、

効果時間が短く、体への負担も大きい。


また人を選ぶらしく、

相性次第では思い通りの効果は得られないとのこと。


副作用は催淫効果。これは薬効が消えた後に来るらしく、

数時間は無力化してしまうらしい。


つまり、ダイアログ使いは短時間しか戦えず、

かつ戦闘後は数時間のインターバルが必要、と。


「何て言うか、プレイヤーに不利な感じだね。

付け入る隙が大きい感じ」


「いや、そうでもない。ダイアログは上手くハマれば、

フォール使いなんて目じゃないくらい強くなるから」


「『フォール使いはダイアログ使いには勝てない』

っていうのが定説だな」


薬を開発した人間の言葉らしいけど――と須賀さん。


そういうことなら、プレイヤーとABYSSの間で、

割とバランスは取れてるのか。


「ここまではオーケイ。

それで“アビス”っていう薬は?」


「一番最初に開発が始まった薬らしいんだけど……

話を聞いても、何それって感じだと思うよ?」


「……どういう薬なの?」


「願いを叶える薬」


何だそれ?


と、そんな内心が顔に出ていたのか、

須賀さんは『やっぱりね』と口を尖らせた。


アビス――

曰く、人の願いを叶える薬。


具体的な効果や、その効果の幅は、

情報としてアクセスできる場所に出ていないらしい。


風の便りによれば、

服用者は願いを叶えるための機械になるとのこと。


これに関しては、合う合わないの適正ではなく、

願いの強さが適合するか否かを決める。


願いが強くなければ、

そのまま廃人のようになってしまうとか。


「どこまで本当かは分からないけどね。

でも、確実にそれは“ある”と思う」


「……ちなみに、他に薬はないの?」


「あっても不思議じゃないけど、

あるなら噂話くらいは流れてくるはず」


「私が情報を集められないっていうことは、

少なくともゲームには使われてないと思っていい」


だとすると――黒塚さんのあの変化は、

アビスの服用でほぼ確定か。


ダイアログを使った彼女との戦闘は、

屋上で既に経験済み。実力も把握している。


それから一ヶ月も経たないうちに

あれだけ化けるとしたら、アビスの服用だけだろう。


「須賀さんは黒塚さんの願いって、

何だか分かる?」


「ああ。復讐だよ。

幽のお兄さんの仇を殺したがってる」


「……アビスがその願いを叶えようとしてるなら、

厄介だね。かなり」


仇討ちが目的なら、

目に付くものを皆殺しにすることでも叶ってしまう。


仮にそのつもりがなくても、黒塚さんの前に立てば、

復讐を止めようとしてると見なされる可能性もある。


事実、さっき僕らは、

黒塚さんに襲われてしまったわけだし。


「何とか止められればいいんだけれど……

安全だけを考えるなら、もう二度と遭遇したくないね」


「……うん。私もそう思う」


項垂れる須賀さん――その様子を見るだけで、

遭いたくないというのは嘘だと分かる。


けれど、僕らの現状を見れば、

黒塚さんを押さえられる気はまるでしなかった。


生半可な戦力で行っても、殺されるか、

殺してしまうかになるだろう。


黒塚さんを止められるとすれば、

それはきっと――




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