03、旅立ちの前はやっぱり不幸?
村のはずれにある平原、そこには何もないように見える。しかし、何も無かったはずのところから3つの人影が現れた。彼らのうちの1人金髪の少年が何か喋っているようだ。
「ロイツ!チーク!明後日から俺達はついに村を出てアスフィア王国に行くことになるんだぜ!すごい楽しみだな!」
それに別の少年と少女が答える。
「ああ。というかマイク、今日何回それ言ったんだよ。」
「そうだよ、マイク... 休憩の間にもそれ言ってたよね。でも、ほんとに楽しみなのはわかるよ! なんといっても村から出て王国で過ごすんだからね!」
彼らは新年度の中学生なのだ。中学校は小さな村にはなく王国にしかない。中学では小学校では無かった魔法の授業があるのだ。
けれど彼ら、ロイツ、マイク、チークの3人はそんなことはどうでもいいのだ。何せ彼らはもう魔法は特級魔法までをもいくつかマスターしているからである。
「明日は荷造りをしないといけないから訓練は今日で最後...か。」
ロイツは少し寂しそうにそう言った。それに2人も寂しそうに答えた。
「ああ、そうだな。」
「そうだね…」
3人で6年間ずっと一緒にお互いを高めあって来たのだ。その期間が終わるともなると寂しいものである。しかし、ロイツは気付いた。
「いや、でも、アスフィアにいっても『転移』を使えばいつも通りに訓練できるか!」
それを聞いた瞬間、チークとマイクも思い出したかのように空気が一気に晴れやかになった。3人とも顔を合わせて笑いあっている。
『転移』は空間魔法を極めた者しか使えないのだが彼らには造作もないことであった。それでも一度行ったことがあるところしか行けないだが。
「それじゃあそろそろ帰ろうか。また明後日、馬車の出る時間に遅れないようにな!」
そんなことを言ってロイツはその場に立ち上がった。
「ああ!お前こそ遅れるんじゃねぇぞ!」
「マイク!ロイツが遅れるわけないでしょ!あなたぐらいしか遅刻するような
そんなやり取りを1通りしてみんなそれぞれ家に歩いて帰ったのであった。
タイト村からアルゲディン王国までは約4日かかる。なので入学式の5日前に出発するのだ。寝泊まりはテントを張って野営を行うんだとか。
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ーーー翌日
「ふぅ〜。これで全部かな。結構疲れたなぁ〜。」
荷造りが終わったロイツはベッドに寝転んだ。部屋の中はベッドと本棚、机しか残っていなかった。中学は寮がありそこで過ごすことになる。自分の部屋ともしばらくお別れだ。
「ロイツー!荷造りが終わったらリビングにいらっしゃーい!」
母のサミーが呼んでいるようだ。今更だが俺の家は平屋であり貴族であるチークの家のように大きくはない。
リビングの前まで行き、扉を開けた。
「なに、母さん。なにk...」
パァン!
何かよう?と言おうとしたところクラッカーの音がリビングに響いた。
母と父は2人とも微笑んでいた。
「ロイツ。お前は明日村から出ていってしまう。これはお前の
父であるモイが自慢げにそんなことを言った。
「ロイツ。今まで本当によく育ってくれたわね。たまに何をしているからわからないこともあったけど… けど、あなたは私達に何の心配もかけないように心がけてくれていた。母さん達はあなたみたいな息子がいてくれて誇りに思うわ」
サミーも目をうるうるさせながら俺にそう言うとそっと抱擁を交わした。
俺は何も言えなかった。ただ俺の目からは前世でも滅多に流したことが無かった涙が溢れんばかりにと出てきた。
これは幸福の涙だ。
前世では不幸なことになれてしまい泣くことが無かった。孤児院の院長のばあちゃんが死んでしまったことぐらいだ。それも彼が死んでしまってからのこと。彼は今、体験したことがない感覚に包まれていたのであった。本当の家族のぬくもり。
彼は転生をしてよかったと心から思うのであった。
「ロイツ、ご飯が冷めてしまう。涙を拭いて早速母さんのご馳走を食べよう。」
父が俺の肩をさすってそう言った。
「ゔん!食べどぅ!」
声を震わして俺は涙を拭き母が作ってくれたご飯を食べた。とても暖かい時間を過ごしていた。脅威が迫っているのにも気付かずに...
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ここはタイト村から距離にして約40kmの場所
「旦那!今日はこの辺で野営しようと思いますがいいですかい?」
馬車の中を覗き運転手はそう言った。しかし返事はない。
中にいる男、キーンは鼻息をたて熟睡していた。
「はぁ。この人ずっと寝てるけど... 起きてる時間なんてあるのか?」
運転手はそう言ってテントを張り眠りについたのであった。
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ーーー翌日
「ふぁぁ~。よく寝たぁ!」
ロイツはベッドから勢いよく立ち起き、伸びをしていた。
そしてリビングへ行きサミーが用意してくれた朝食を食べ昨日準備した荷物を持ち玄関の扉に手をかけた。
「それじゃあ、母さん!行ってくる!」
サミーにそういい外へ出た。父は兵士なので朝早くから仕事へ行っていて既に家にはいなかった。だが問題はない。昨晩に父はロイツと別れを済ましていたからだ。
母は俺が見えなくなるまで手を振っていた。俺は少し泣きそうになったが泣き顔を見られてはマイクに笑われてしまうと思い我慢した。
ーーー馬車に着いた
「あ、ロイツ!おはよう!」
声をかけてきたのは俺の彼女であるチークである。既に馬車に乗っていた。マイクはまだ来ていなさそうだ。
「ああ。チーク、おはよう。やっぱりマイクはまだ来てなかったかー。」
「そりゃそうだよ〜。マイクが最後に来ないなんてありえないよ〜」
そんな風に喋っていると後ろからマイクが歩いて来た。
「おう!マイ...ク!?」
泣いていた。号泣していた。
「マイクどうしたの!?」
チークがすごい驚きようで聞いた。それもそうだろうマイクが涙を流していることなんて見たことがなかったんだから。
「な、泣いてねぇよ!あ、あくびしただけだ!」
言い訳にも程がある。あくびをするだけで号泣なんて毎日身体の水分がどれだけ抜けてしまうことか。
(まぁだいたい予想はついているが… まさかマイクが親を離れるのに泣くなんて予想外だった...)
「チーク。察してやろう。」
「そ、そうだね。」
俺はチークにそんな耳打ちをした。
ーーードォォォォオン!!!
俺達が和気あいあいと会話をしているた時、なんの予兆もなく村の方から爆音と共に黒煙があがった。
「な、なんだ!?」
俺は思わず叫んだ。そして空から数多の黒い物体が降って来た。俺は目を疑った。
「な、なんなんだ... あの数... 全部悪魔、だよな?」
マイクがそう呟いた。俺も同じことを考えていた。本当に数が多いのである。軽く50体はいそうであった。しかし、それだけでは無かった。
「まだあれはいい、それよりだ。なんなんだあの大きな悪魔は…!」
俺は指を指し周りの悪魔より1回り大きな悪魔を指さした。
「...なんていうんでしょうか、とても強そうです... 村が崩壊してしまいそうですね...」
そんなチーク言葉俺はようやく気付いた。村が壊滅の危機にあることを。
俺は馬車に荷物を起き、震えている運転手に隠れているように指示するとスキル:創造神によって村を全体を囲むほどの大規模な結界を展開した。
「これで村は大丈夫だ。マイク、チーク、俺達はあの悪魔どもを全滅させるぞ!絶対にできる!大丈夫だ!俺達はあいつらを殺すために特訓してきたんだからな!」
俺はそう指示を出すとチークは力ずよく頷いた。しかし、マイクの様子がおかしい。
「な、なぁ、ロイツ。お前らが言っているでかいヤツはどれだ。俺には全く見分けがつかねぇ。」
ロイツはマイクが何を言っているのか一瞬理解できなかった。あの巨体と周りの悪魔の見分けがつかないなんて何かの冗談かと思った。しかし、幼い時に読んだ本を思い出した。魔王が見える者と見えない者がいることを。
(あれが魔王だってことか...?いや、それよりも...マイクが見えない側だったなんて!)
「マイク、見分けがつかなくても大丈夫だ。お前は全部やるつもりで悪魔共を倒せ!チークもそうしてくれ!」
ロイツは内心反省しながらマイクを誤魔化した。
「そうか。わかった!任せろ!」
「わ、わかった!」
2人は大きな声で返事をした。そしてそれぞれ悪魔と戦いに行ったのであった。
「だ、誰か!こっちに来てくれ!娘がこの下にいるんだ!」
「火が回るまでに水を!早く!」
「助けてくれぇぇぇえ!」
村の中は大混乱だった。急に起きた爆発によって火事が多発し家が崩壊している。
「くっ!俺の結界が無かったらヤバかったな...」
悪魔達は結界に向かって攻撃(魔法)を放っているが傷一つ付かない。
悪魔達もまた混乱しているのであった。
「なんなんだ!この結界!おかしいだろ!全く壊れねぇ!」
「こんなちっぽけな村になんでこんな結界があるんだよ!意味がわかんねぇ!」
「おい!敵襲だ!女のガキと男のガキにどんどん消滅させれてる!あいつら特級魔法が使えるぞ!気をつけろ!」
「ア、アダン様!どうしましょう!」
すごい焦りようだ。俺は自分に不可視の魔法をかけていたので相手には見えないはずである。つまり2人のガキとはチークとマイクのことであろう。
そうして俺がアダンと呼ばれている魔王に向かっていた時、その魔王は結界に近づいていった。
(何をするつもりだ?)
壊そうとしているのは分かっていた。しかし俺は壊すことなどできないと思っていた。
魔王アダンは結界に手をあてた。次の瞬間『バリバリバリ』という音と共に結界をこじ開けたのだ。
俺はあまりの驚愕にその場に止まった。特級魔法でも破れない結界なのに素手で開けられたのだ。
「おい。そこのお前。この程度の結界で魔王であるこのアダン様を止められると思うなよ?」
アダンは俺に顔を向けてそう言い放った。不可視の魔法も見透かされているのであろう。俺は不可視の魔法を解いた。
俺は魔王を舐めていた。下位悪魔を初めて倒したのが3歳の時だからだ。悪魔など恐れるに足らないと思っていた。しかし現実は違った。他の悪魔などくすんで見える程の実力があったのだ。
ーー俺は震えていた。
しかしなんでだろう、何故か恐怖心はない。それどころか嬉しい。こんな強者にやっと出会えたことが。この震えは武者震いなのだと気付いた。
俺は口元をにやけさせながら魔王アダンと目を合わせていた。
「お前、俺とあったの不幸だよ?」
ロイツはそう言ってアダンとの戦いを始めた。
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