不幸なんですけどなんとかなりますか?

フスマ

00、プロローグ

 とある町のとある病院。そこで僕、東雲海斗しののめ かいとは幸せ・・な家族の元に生まれた。


  いや、言い換えよう。僕が生まれる前まで幸せだった家族の元に生まれた。


 事実。僕と双子の妹が生まれる予定日、僕の兄になるはずだった男は交通事故で死んだ。そして出産時、医者の不注意で妹になるはずだった女性も死んだ。家族になるはずだった母親は事実を受け止めきれず自殺。父親も僕を残してどこかへ行ってしまった。

 その記憶は僕にはない。当たり前だろう、僕も産まれたての赤ん坊だったのだから。


 ではなぜそのことを知っているのか。


 ーーー時は少し遡るーーー



「ただいま!帰ったよ、ばぁちゃん!」


 ばあちゃんとは僕のことを拾って育ててくれた孤児院の院長、相川あいかわともえ(73)である。とっても優しい親代わりだ。


「あら。かいちゃん、もう帰ったのかい。おかえりなさい」


 僕は『かいちゃん』と呼ばれている。ちなみにこの時僕は17歳だった。少し気恥しい気もするが別にそう呼ばれることになんの抵抗もなかった。


「そうそう、かいちゃん。みんなと一緒にお鍋の具を買ってきてくれないかい? 今夜は寒いそうだからねぇ、お鍋にしようと思うんだよ。みんなが帰って来てからでいいからお願いできるかねぇ?」


「うん!わかった!」


 鍋が大好きだった僕はすぐに返事をしていた。あ、ちなみにみんなというのは孤児院にいる子供達である。最年長は僕、そして最年少は6歳で合計6人いる。みんなとてもかわいく、友達の少なかった僕と仲良くしてくれた。


 まぁ余談もこの辺でいいだろう。僕はこの日はこの通りにとても幸福感で溢れていた。夜ご飯の事で、だ。けれど不幸は僕から離れようとはしなかった。買い物に行っている間に孤児院が火事になったのだ。


「ばぁちゃん!!!」


 僕はその光景を目にして叫んだ。しかし声は帰ってこない。

 これまで世話になってきた孤児院、ばあちゃんを放ったらかしにしたくなかった。だから、僕は火の中に飛び込んだ。


「ばぁちゃん!どこにいるの!返事して!」


 ーーバキバキバキッ ドドォォォン!


 返事とは他所よそに違う音が後ろから聞こえた。

 退路も塞がれてしまったのである。そして僕の身体を炎が覆った。


「熱い... 熱いよ... 僕、死んじゃうのかなぁ… ばぁちゃん。

 僕を育ててくれてありがとう。不幸なことを忘れさせてくれてありがとう...」


 僕の運命はここで終わるはずだった。

 しかし、目が覚めた。熱くない。それどころか身体が軽い。


「...あれ。僕生きてた?」


「いいえ?死んでしまいましたよ?」


 ーービクッ!


 突然声が聞こえてきた。びっくりするのは当然だと思う。けど恥ずかしい…


「そこまでびっくりすることないじゃないですか。」


 どこかからとてつもないジト目を向けられている気がする。そう。気がするのだ。僕がいる空間?は声の主どころか物1つない。


「あ、あ、あの! こ、ここはどこなんですか!」


 僕は質問した。めっちゃテンパってたんだ。こうなるのはしょうがないと思う。うん。


「そうビクビクとしないでください。まずは質問に答えましょう。ここは私の所有区域です。後、私は神です!」


 ドヤ顔をしながら喋っているのがわかった。でも、他は全く理解ができない。


「まぁ、あなたは死ぬ思いをしたが今ここに生を実感できる身体がある。それで私が神という証拠は十分だと思いますのでその辺の質問はしないでください。」


 質問をしようか迷っていたところ見透かされたかのように先に言われてしまった。なんだか悔しい。


「まぁ、他の質問は今でなくても構いません。とりあえず...

 あなたの人生を振り返って見ましょう!」


 そして僕は最初に語ったこと出来事を知った。ばあちゃんが死んでしまったことも知った。僕が不幸なのはずっと知っていた。そのせいでたくさんの人に迷惑をかけた。僕は罪悪感に押しつぶされ泣き崩れた。


「ぐすっ... ごめべんなざいぃ... ぼぐがぁぼぐがばあちゃんをぉ...」


「あなたは死んでしまっていますので泣いてもどうにもなりませんよ? けど、ここでひとつあなたに提案があります。」


 神は空気が読めない。そう認識した瞬間だった。


「なんですか。神様なのはわかりましたがKY神なんですか?僕は罪悪感に押しつぶされてるんですよ?」


 僕は涙を拭き、冷静を保って言い放った。


「そうです!私はKY神!『かよわい神!』でKY神です!なので、あなたに頼みがあるのです!」


(くっ!なんなんだこいつ... 本当に神なのかも怪しくなってきたよ。けれど僕は本当に死んでしまったのか。ばあちゃんにも過去は振り返るなとよく言われたな。)


 気持ちの整理は着いた。神が言う頼みの内容を聞いてみることにした。果たして死んでしまった僕がどういうことをすることになるのだろう、という好奇心を持ちながら。


「気持ちの整理はつきました。ところで提案、頼みとはいったいどういったことなのですか?」


 神は答える。


「はい。簡単に言えば転生して世界を救って欲しいのです。」


 ポカン。。。

 まさに僕はそういう状態だ。ついさっき気持ちが沈まったのにそれをさらに沈めてきた。まさに底なし沼にでも落とされたような気分だ。まぁ落とされたことないけど。


「ど、どういうことでしょう」


「そのままの意味です。あなたが元いた世界とは別の世界は今世界を滅ぼそうとする悪魔と私の手先である天使が人間たちに協力して戦っているのです。どうかその戦いに終止符を打って世界を救っていただきたいのです」


 神は淡々とそのことに関する事を述べた。

 まとめるとこうだ

 1、世界を滅ぼそうとしている悪魔の暴走を止めて欲しい。

 2、天使は自ら戦うことができないので人間に力を与えている。

 3、新しい世界では新しい人生を送ってもらう。

 4、もし世界を救うことができたら一つだけ願いを叶えることが出来る。


 とても魅力的だ。特に願いを叶えることが。それに今まで不幸のせいで人に頼られることがなかった。頼られることが素直に嬉しかった。


「そろそろ新しいあなたが生まれる頃でしょう。どうしますか?」


 答えは決まっていた。たった一つの疑問がある以外では...


「一つ聞いていいですか?」


「はい。なんでしょう?」


ーーーふぅ〜〜。

 ここで軽く深呼吸をする。神は早く用件を言ってほしそうだ。空気でわかる。僕はどこぞのKY神とは違うからね。うん。


 そして僕は言い放った。


「不幸なんですけどなんとかなりますか?」


 神は即答した。


「はい。なんとかなります。」


 僕は神の満面の笑えみを見た気がした。そして光の渦へと巻き込まれたのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」


「これからもよろしくね。私たちが守ってあげるからね。」


「ああそうだ。俺達の息子だからな!絶対に守ってやる!」


 近くから声が聞こえる。目は開けることが出来ない。きっと転生できたのだろう。それにしても、なんだろう…


ーーーとても暖かい。



 そうして僕、いや、俺の、ロイツ=シングラーデの新しい人生がはじまった。

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