僕の傘

けろよん

第1話

 雨の降る夜、僕はひとり、街路樹の下で佇んでいた。そのとき、「きゃー!」という女性の悲鳴が響いた。

 何かあったのだろう。僕はすぐに現場に駆け付けた。

 マンションのすぐ近くの空き地で女性が何か困った様子でオロオロしていた。僕は走り寄って訊ねた。


「何かあったんですか?」

「あれを……」


 女性が震える指でさす方向を見て僕はすぐに事情を理解した。

 巨大な怪獣がマンションに向かってタックルしていた。最近のマンションは耐震構造がしっかりしているから大きな衝撃や揺れでも簡単には壊れたりしないが、さすがにこの状況が続けばまずいかもしれない。あの怪獣はパワーがありそうだ。女性が不安になるのも無理はないことだった。


「どうすればいいんでしょう。自衛隊はまだ来てくれないんでしょうか?」

「今日はゴールデンウイークで道が混んでますからね。自衛隊はすぐには来られないでしょう。でも、安心してください。僕はアイアンのメンバーなんです」

「まあ、あの公的な機関とは独立した権限を持って設立されたあの特別部隊の!」

「そうです。じゃあ、ロボットを呼びますからね。来い! 僕のロボットー!」


 アイアンはあらゆるしがらみから独立した特別な部隊だ。そこでは自衛隊が公的なしがらみから未だ実戦配備に至っていないロボットをすでに運用していた。

 僕が指パッチンするとロボットはすぐに飛んで来て着地。胸から不思議なビームが照射され、僕はそれに包まれてロボットに乗り込んだ。


「敵はあの怪獣だ。行くぞ、アンブレラカイザー!」


 僕のロボット、アンブレラカイザーの武器は傘である。これは別に意味の無いことではなく、最先端の技術であるロボットは精密であるが故にわずかな水滴による故障でも全身に狂いが生じやすく、そこで今日のような雨の日にはすぐに傘を差せるように傘を装備しているのだ。

 ともあれ攻撃だ。傘を開く時の衝撃波を利用した必殺技ソニックハリケーンショットでは威力が大きすぎて後ろのマンションにまで被害を出してしまうだろう。まずは軽く一撃だ。


「傘をそっと押し出しながらボタンを押す」


 僕は、小さな笑みを浮かべながら、傘を差し出した。

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僕の傘 けろよん @keroyon

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