第7話 再会-5

だいぶ怒っていた彼は少し落ち着きを取り戻したようだけど、金髪さんはいつまた噴き出して彼を怒らせないかと、俺は冷や冷やしていた。



「は~…笑った笑った…まじで崇おもしろすぎ」

「千夏てめぇいつか殺す…」

「…」



やっぱり怖い。なぜ俺がこの場にいるのか甚だ疑問で仕方がない。不釣り合いすぎて完全に俺は平凡な生徒Aでしかない。

この派手な二人に挟まれていると、完全にモブすぎて泣けてくる。



「あの…俺、帰っても…?」

「だめだ!」

「ひぃぃ…っ!」



俺がおずおずと帰宅したい旨を伝えると、全力で拒否された。なんで!?俺なんか帰っても問題あるはずないだろうに。


あれ…そもそもなんで俺はここに呼び出されたのだろうか。そこからお聞きしたい。けれど、怖くて聞くに聞けない。




「あ、いや…怖がらせるつもりはねーんだ!怖がるな!」

「うえぇっ!は、はいぃぃい!!」

「…も~…超怖がってんじゃん、きょーやちゃん」



崇の馬鹿~、となじる金髪さんはやや呆れ気味である。俺がビビり過ぎるから呆れているのだろうか。

というか、ビビるなという方が無理です。俺は前この人に、不良様に絡まれたあの日から…目の前のこの人が復讐しに来ないかとびくびくしてたんだから。




「ビビるな…お願いだから…」

「はいっ!も、申し訳ございません!!」



ひぇええっ!ウザイからビビるなと仰るんですね、不良様は!

俺は無我夢中で頭を下げて謝った。俺みたいな軽い頭なら何回でも下げるわ!それでこの方の機嫌が収まるならね。



「おい、そーじゃなくて…あー…」

「崇、お前が態度変えなきゃだろ~」

「…そう、だな…」




次の瞬間、俺は平凡の癖に非凡な経験をすることになる。



「怖がらせて、すまねぇ…悪かった。頼むから、そんな目を俺に向けないでくれ」

「…へ」



頭を上げると、おそらくは俺様な不良様がどうしたらいいのか分からないというような困惑した顔が俺に向けられていた。


そして、俺に…謝罪したのだった。



先程まで怒っていたのはどうやら俺に向けてではなかったのだろうか。けれど、俺が彼に不快な思いをされたわけではないので、謝られる義理はないように思う。

まあ…怖がらせてるのは間違いないけれど。



「あの…謝らないで…ください」


語尾がか細くなったのはご容赦願いたい。だって怖いんだよ、すごく!

俺が言葉を発したら、頭を下げていた不良様はゆっくりと頭を上げて、俺の顔をじっと凝視した。

その視線がまっすぐに俺を捉えていたものだから、少しばかり照れてしまった。



「お前…怖がってたんじゃないのか」

「こ、怖いものは怖いですけど…」



あ、なんか彼の雰囲気がしょぼんと落ちてしまったような気がした。そう、なんか…落ち込んだ?みたいな。気のせいだとは思うけど。


「その…崇、さん…?は、俺に、何もしてないので…謝らなくて、い…?!」



俺は最後まで言葉を紡げなかった。決して俺が怖がってたからではない。まあ、別の意味で怖かったんだけどね。

だって、…




「あっはっは!!崇鼻血出てんじゃん!!だっせー!!!!」


「…」




そう、俺が青ざめたのは超絶イケメンな不良様の綺麗なお鼻から…真っ赤な鮮血が流れ出ていたからなんです。

え、ええ?!なんで??の疑問符で俺の頭の中はいっぱいだ。




「だ、大丈夫ですか!」


「…あ、ああ…」



全然大丈夫そうじゃないんですけど。

鼻血って急にそんな出るもんなのか? この屋上が暑かったのかな…顔も少し火照ってる気がするし…

美形な人が無表情で流血している光景はなんとも言い難い。けど、だらだら血を流してる人をほうっておくのも気が引けた。



「その…俺のハンカチでよければ使ってください…」



勇気を出して俺の持っていたハンカチを差し出してみた。ちゃんと洗濯はしてきたし、今日は一度も使ってないから別にいいだろう!!

文句があるならどうぞ使わないでくださいっていうことだしな。



「…お前の、ハンカチか?」

「はい、どうぞ…」

「…須永の…ハンカチ…」

「そ、そうですけど」



彼は素直に俺の差し出したハンカチを受け取ると、しばらくじっとそのハンカチを握りしめて何かぶつぶつ言っていた。

そして俺に向き直って、一言。



「ありがとう」

「…は、はい。ど、どういたしまして…」



流血しながらだったけど、彼は…おそらく俺が今までに見た美形たちの誰よりも美しくかっこいい笑顔でそう言ったのだった。

そんな笑顔に、俺は図らずとも鼓動が早まったように感じた。男の俺だってそうなんだから、きっと女の子なら、今の笑顔でいちころなんだろうなあ。


俺はその動揺が伝わらないように目を背けた。



彼はそのハンカチをそっとポケットにしまうと、自分のポケットからティッシュを取り出して鼻を拭いた。ティッシュ持ってたのかよ!と…じゃ、じゃあ俺のハンカチいらなくないか?…という突っ込みは、まあ、したかったけど、できなかった。




「崇ティッシュ持ってたの~? じゃあきょーやちゃんのハンカチいらないじゃん!」



崇相当舞い上がってるね~うける!と笑う千夏、さん…?は、俺の思った通りの突っ込みを言ってくれて、相変わらず涙を流しながら笑っていた。



そんなカオスな状況の中、下校時間を知らせるチャイムが鳴り響いたのだった。

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