大人になれなかった俺達

白餡

終わりの始まり

 俺は今まで楽をして生きてきた。

 学校を親の金の力で卒業し、働くか勉学の道に進むかという時期となった。

 真面目に人の下で働くなんてまっぴらだし起業するほど資金もない。勉強するなんてまっぴらだ。

 しかし寝ているだけでは金は手に入らない、金が無いと生きていけない。

 警察が優秀なこの国では盗みや脅迫などの犯罪では生きていけない、すぐに捕まってしまう。刑務所に入ればただ飯が食べれて寝る場所も確保できるが、規則正しい生活なんてめんどくさい。

 どうするか考えてる俺に仲間が提案してきた。

「国の中で犯罪をしたら捕まるが国の外ならいいんじゃねえか?」

 それだ。俺はこいつの意見を聞いた時にそう思った。

 早速家からある程度の食料、包丁、ライター、水、バケツなどを持ってきて国から出た。幸いにも入ることは厳しいが出ることは楽だった。

 近くにある山を拠点にし、そこで通りがかった商人を襲おうと考えた。

 一緒に来た仲間は4人、全員古い友人だ。体格がよく喧嘩ではいつも活躍していたA。体つきは少し不安だが頭の回転が速く、いつも相手の一手先を読んでいたB。小柄で足が速く、補給役をしてくれるC。空手の道場に通っていて、Aと組んでいた時は「最強」と呼ばれていた無口なD。

 変に人が多くなればばれやすくなる上に必要な食料も多くなってくる。少数精鋭が一番だ。

 川の近くにある洞窟で俺達は生活することにした。

 見張りは交代ですることにした。ただ毎日のように商人が通る。ただし、周りに「護衛」がいる場合は襲わないようにする。いない場合は無線で連絡するようにする。両方ともBの提案だ。

 俺達の武器は包丁が3本、カッターが1本と斧が一本だけ。ほかには食料やBが持ってきた無線や釣り竿がある。更にこん棒を作成した。

 家から持ってきた食料が切れかけたとき、ついにやってきた。

 国から出てきて4日後、無線に連絡が来た。

「来たぜ来たぜ!周りにそれっぽいやつのいない商人だぜ。○○のルートに行こうとしている」

 Cからの連絡がきた。護衛らしき人物のいない商人らしい。

「了解。速攻でそっちに行く」

 俺達は武器を持ち、Cから伝えられた場所へ行く。

 5分ほどして着いた。すでにいたCから説明を聞く。

「もうちょっとしたら商人どもが来る。まずはAとDがこん棒で脅し、俺が後ろから包丁で一人に傷を負わす。その後は乱戦だ、味方に攻撃しないように気を付けろよ」

 話ているうちに歩いてくる商人が見えてきた。馬車に乗っているため人数が分からないが、大きさからみて1~3人だろう。

「まずは御者を襲うぞ。馬を使って逃げられると困る」

 そうBが言う。しかし一つ 気にかかることがある。

「何故護衛がいないと言い切れる?馬車の中は見にくいぞ?いないとは言い切れない」

 するとCはにやけながらこう答えた。

「護衛ってのは守らなきゃいけないだろ?そんなら装備はつけているはずだ。それなら鎧を着ているはずだろ?国にいる番人とかは鎧を付けていた。それだと光が反射するんだ、それが見えなかった」

 なるほどと思った。

「じゃあ行くか」

 Bが小声で言った。

「よし・・・やってやるか」

 Aが少し緊張しつつ強がりをいう。

「…(コクリ」

 静かにDがうなずいた。 

「じゃあA任せたぞ。俺は先に行っておく」

 そういうとCは裏に行く。

「まずは俺が御者の頭をかち割る、後は計画通りに行くぞ」

 そうして俺達の最初の襲撃が始まった。


 それは恐ろしいほど綺麗に決まった。

 まずAが御者の頭を棍棒で殴った。そして御者は動かなくなった。

 中にいた中年の商人夫婦が逃げようとしたが計画通りAとDが入口に立ち、商人と話している隙にCが背中から男の心臓を一刺。

 あの時の女の悲鳴は恐ろしかった。

 後は女も殺し、食料を初めとする荷物を奪い拠点に帰った。

 馬車と死体はどうするか悩んだが焼いて近くの林に隠すことにした。馬は逃がした。

  Bの「蹴られたらたまったもんじゃない」という一言によって逃がすことになった。

「楽に稼げるぜ。やっぱ真面目に働くより奪う方がいいよなー」

 奪った物を見て言ったAの言葉に皆が頷いた。

 国が近いといいことで食料は少なかったものの金目のものがある程度あった。BとCが元いた国に行き金にして食料などを買ってきた。

 聞いた話ではかなり警備が厳重だったらしい。元国民なのに不思議だ。

 B曰く「一度出国した人は周りの国の犬になった可能性があるから再入国は結構厳しい」だそうだ。

 楽して金を手に入れたが油断は禁物だ。さっきの商人のように楽に襲えるのならいいんだがそうはいかないだろう。

 俺達は交代で道を見張り、護衛のいなさそうな商人や旅人を狙った。

 約8日後。買った食料の4割ほどが減った頃にDから連絡が来た。

「来た、旅人だ。腰にホルスターを2つつけている。中身は見えない。××のルートに進んでいる」

 武器を持ち、3分ほどかけDの言われたルートに行く。

 Bが言う計画はこうだ。まずはAがこん棒で頭をかち割る。それが外れたりガードされたりすれば後ろから接近したCが包丁で刺す。

「商人を襲った時とほとんど同じ作戦だな。分かった」

 そういうとCは林の奥へと進んでいった。

「そろそろ来るな。静かにするぞ」

 そういうとAは緊張した顔をして草に隠れた。

 少しすると旅人が来た。

 年齢は30代か。髭と髪がかなり伸びているから分かりにくい。長袖に長ズボン、ツバのついた帽子を被りパンパンのリュックサックを背負っている。Dが言った通りに腰の左右にホルスターがついている。

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 Aが声を荒げながらこん棒で殴りかかった。

 

 銃声が響いた。旅人が右腰のホルスターから速攻で回転式けん銃を抜き、Aを狙い一発撃った。

 Aの頭部に穴が開き、撃たれた衝撃で後ろに倒れた。

「おいおい、耳栓をしていないのに撃たせるなよ。耳がいてぇじゃねえか」

 ゆっくりとDに向けて拳銃を向けて続ける。

「変に動くなよ、動いた瞬間にお前の頭を飛ばす」

 そういうと旅人はゆっくりとDに近づく。

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ。ぶっ殺してやる!」

 泣き叫びながらCが包丁を旅人に刺そうと接近する。

 しかし旅人は冷静にCに向けて一発撃った。弾は右腕にあたった。痛みでCは動けなくなった

「おいおい、不意打ちするんだから声は出すなよ」

 そこで状況を理解したのかBが飛び出した。

「や、やめてくれ…もう手を出さないから殺さないでくれ」

 半泣きのBの言葉に旅人は。

「何言ってんだ、お前らは俺たちの命を取ろうとした。人の命を取れるのは自分の命を取られる覚悟があるやつだぜ」

 そう言うと旅人は左腰のホルスターから回転式けん銃を取り出し、Cの左腕を撃った。銃声はとても小さかった。

「まあ、こう見えて俺は無意味な殺生はあんまり好きじゃないからな。まあ勘弁してやるよ」

 そう言って旅人は右手のホルスターに回転式けん銃を直し、左手の回転式けん銃を俺達に向けて警戒しつつ去っていった。


 Aが死に、Cの両腕が撃たれ実質的に戦力外に。本来Bはそこまで喧嘩が強くないため、戦えるのがDだけとなった。 

 B曰く「銃創(撃たれた傷)は放置するのはまずい、早く国の医者に見せて治療しないといけない」だそうだ。

 しかし銃創の治療はかなり面倒だ。撃たれた理由を初めとし様々なことを質問される。

 どうするか考えつつ一旦休憩することにした。

「水が無いな。悪いが誰か水を汲んできてくれないか?」

 そうC が言うと。

「じゃあ僕が汲んでくるよ。戦いだとあんまり役に立たないからね」

 そういうとBがバケツを持って川に向かって行った。

「さて、これからどうするか?D」

 CがDに聞く。

「こうなっては仕方ないだろう。最悪お前を切り捨てないといけない」

 それにCが険しい表情で答える。

「この傷をどうにかしないといけねぇよなぁ。一応消毒はしたが放置するのはまずいだろう」

 B曰く銃創は放置すれば破傷風ということになるらしい。

「国に戻るしか選択肢は無いだろ。水を飲んだら街に戻るぞ」

 しかしDの提案をCは断る。

「あの平和な国で銃創ができるわけねえじゃねえか。確実にめんどくさいことになるぞ」

 少し間を空け、続けた。

「しかもあの旅人があの国に行っている可能性もある。旅人と会ってみろ、それこそまずい。治療して国を出たときに殺される可能性もあるぞ」

「銃創に関しては同意見だが旅人に関しては分からないぞ。俺達を殺したいならさっき襲ったときに殺している」

 俺も同意見だ。あの旅人が俺達を殺せる場面は多かった。

「確かにそうだがよ、銃創に関しては最悪捕まる可能性があるぞ」

 確かにそうだ。ただ友人の命を捨てるわけにはいかない。

 CとDが話していると、Dが少し警戒するようにに言った。

「B遅くないか?」

 確かに遅い、いくら非力なBだからといってここまで遅いのはおかしい。

「確かに遅いな、いくらBといってもここまで遅いのはおかしい。何かが起きた可能性がある」

 Cは俺と意見らしい。

「何かがあったに違いない。探しに行くか」

 そう言うとDが立ち上がろうとする。しかし途中で動きを止め、目を見開き指を指して言う。

「おい待て・・・あれはなんだ」

 Dが指した方向をCが見る。鎧を着けた、槍を持った人間が十数人歩いてきている。

「あれなんなんだ?」

 よく見ると先頭にいる数名の槍に血がついている。

「なんなんだお前ら!」

 Cが叫びながら聞くと先頭の人間が答える。

「貴様ら、数日前にここを通った商人を襲っただろ」

 最初に襲った商人のことだろうか。

「襲ってねぇよ!何言ってんだ!」

 Cは必死に隠そうとする。

「貴様らが9日前に国に入国し、商人から奪ったものを売り払たのは確認済みだ。更に近くに馬車と人骨が捨ててある。これで知らないと言い逃れはできんぞ」

 これはまずい、下手に出ればすぐに殺されるだろう。 

 今は洞窟の中にいて唯一の出口は兵士がいる。逃げきれはしないだろう。まずは落ち着いて話すべきだ。

「どうする?C」

 少し焦りながらもDはCに質問する。

「貴様ら、勝手にしゃべるな」

 そう言うと兵士が槍を向けてきた。 

 無理だ、これは詰んだ。

「貴様らが商人を殺したか殺してないかは正直どうでもいい。どの道この森にいる山賊は殺そうと思っていたからだ」

 そう言うと兵士は動けないCを狙い槍で突いた。

 槍はCの心臓付近に刺さり、すぐさま兵士は槍を引き抜いた。

「やめろ、やめてくれぇぇぇぇ」

 Cの叫びを無視し兵士は俺達を攻撃し始めた。


「はい、きちんと3人の始末は終わりました」

 俺達を攻撃した兵士は洞窟の外に出て連絡をしていた。

「はい、例の旅人のいうことが本当ならこれだけとなります」

 不思議だ、痛みを全く感じない。周りには動かなくなったCと死にかけのDがいる。

「よし終わりだ。撤退するぞ」

 そういうと兵士たちは引き返していく。俺は生き残ったのだろうか。

 兵士が見えなくなってから俺はDの手当てをしようとする。まずは消毒からだ。

 Bが家から持ってきた医療用の消毒液を取ろうとする。しかし触れない。

 もしかしたら血を流し過ぎたのかと思い自分の体を見るが傷が一切ない。不思議だ。

「う…うぐ…」

 いきなりDが声を出した。良かった、まだ生きているんだ。

「Eが生きていれば…こんなことにはならなかったのかもしれない…」

 どういうことだ。俺はここにきちんといる。

 ・・・いや違うな。そういえば俺は昔に信号無視してトラックに跳ねられたんだったか。今の俺は幽霊ということか。

「どこで道を間違えたのだろ…」

 しかしその言葉は最後まで言えなかった。Dはそのまま力尽きてしまったからだ。

 どうすればよかったのか、商人を襲った時の証拠隠滅か、それとも商人を襲ったところか。それとも国を出たところからか…まあ俺にはどうにもできないことだった。

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