好縁相愛-こうえんそうあい-

じゃー

第1話 何でも叶えてくれる

ある後輩との出会いが俺の周りの環境を大幅に変化させた。

それは良くもあり、また悪くもある。

実際、俺は今のままの環境にある程度満足していた。

移り変わるものも多いが、変わらないままのものにも居心地を感じていた。


―――――それでも彼女との出会いは、当時の俺にとって心地の良いものだった。






俺はある先輩から受け継いだ廃部寸前の部活に所属していた。

部員は俺のみで、活動内容も不明。

そんな部活でも、この学校では1人でも部員がいれば廃部にされることはない。

なんとも緩い校則なのだろうか。

そのおかげで存続していられるのだから、文句はない。


俺がここに所属しているのは、備品を自由に使えるとか私物を置いておけるとかそういった邪な理由だった。

決して大義名分で、先輩から受け継いだから守り切るとかそんな信念はない。

半ば強制的に押し付けられたので、なくなったらなくなったでいいと思っている。

大抵、放課後はここに入り浸る。

どこよりも落ち着く環境が整ってしまっているので、必然的に来てしまうのだ。

滅多に邪魔も入らない、俺の憩いの場所だった。


そう、過去形なのだ。

何故なら、今日からその邪魔が入るからだ。




「失礼します」


ノックも無しに突如ドアが開く。

惰性的に過ごしていた俺はドアの音に少し驚く。


「・・・・・・・」


「あ、いました!」


ドアを開けた女子生徒は、椅子に腰かける俺を見つけるや否や近寄ってきた。

見たことはないが、スカーフの色を見る限り後輩だということだけはわかった。


「あなたが結城くろ(ゆうきくろ)先輩ですか?」


「・・・・・・まあ、そうだが」


彼女の方には目をやらず、歯切れ悪く、できるだけ鬱陶しそうに呟く。


「えーっと・・・・」


困ったような顔をしても俺は決して助け船は出さない。

本当に困りきったのならここから出ていけばいいだけの話だ。

そして俺はそれを望んでいる。

だが、その俺の望みは叶わず、彼女が覚悟を決める。




「私の告白を手伝ってください!」


「・・・・・・は?」


驚いた俺の精一杯の冷静な対応だった。





彼女の方を向き直し、質問をする。


「一応聞くけど、なんで俺に頼むんだ?友達とかに手伝ってもらうか自分でどうにかするもんだろ」


少なくとも俺はそう思っていた。

ちょっとぐらい誰かに助力を頼むことがあったとして、初対面のましてや先輩男子に頼むことではないであろう。


「噂を聞いたので・・・・」


「噂・・・ね・・・・・・」




俺の学年では俺は少し有名人なのだ。

俺自身、特に優秀というわけでもない。

が、相談の解決率に関してはずば抜けている様で、他の学年にまで噂まで流れてしまっている。

『的確なアドバイスのおかげで悩みが解決した』、『絶対無理だと思っていたことが成功した』、そんな実例まであがってきている。

何故俺がこのような言い方なのかというと、アドバイスはなんでも正直に言ってしまう性格が良い方向に転がっているだけで、

俺の力などではなく、すべては元々の個人の力だと俺は思っている。

それでも噂は独り歩きを重ね、次第に膨れ上がり、今では『何でも叶えてくれる』とまで広がっている。


だから、たまにこういう訪問者がやってくる。



「『何でも叶えてくれる』なんてのはただの噂だ。そんなのは存在しない」


「流石に私もそこまで信じていませんよ。ただ・・・」


「ただ?」


「少し手助けをしてもらえればいいんです」


「・・・・・・」


どこか彼女の目は真剣で邪険に扱いにくく感じた。

あまり面倒なことはお断りなのだが、何故か彼女の依頼は受けてもいいと思えてしまっていた。

だからといって前向きに手伝いたいという感情ではなく、後ろ向きに暇つぶしの範疇だった。






「はあー、とりあえず話を聞いてやる。そこに座れ」


「はい」


指さした椅子へと彼女は腰かける。

その正面へと俺は座り直す。


「で、相手は誰なんだ?」


「サッカー部の光輝(こうき)先輩です」


「あぁ・・・。あの書いて字の如く、光り輝いているあいつか・・・・・」


俺の知り合いの中で最もイケメンで爽やかな人物だった。

女子は一度は惚れるであろう絵に描いたような完璧超人。


「どこに惚れたんだ?」


「だってイケメンじゃないですか!?彼氏だったらステー・・・・・嬉しいなみたいな」


「・・・・・・」


今ステータスとか言いそうにならなかったか?笑顔超怖いんだけど・・・。


「それって好きなのか?」


「いいなと思ったら手を・・・・・出したくなるんです」


「・・・・言い直さなくていいのか?」


「先輩はこういうの効かなそうなので・・・・」


「むしろ正直な黒い方が好感を持てるな」


「こんなので黒いなんて、そんなに女の子は甘くないですよ。私なんてまだましですよ」


「そんな現実を俺に教えずに、少しは夢を見させてほしかったな・・・」


「思ってないですよね?」


「まあな」


これぐらいの方が話しやすいので正直助かった。

内気な子はどうしたらいいか対処に困る。




「それで、俺に何をしてほしいんだ?」


「私と光輝先輩の接点になってほしいんです。あとは何とかします」


「・・・・・それだけでいいのか?」


「はい。私可愛いので余裕です」


「・・・・・・」


こういう奴ホントにいるんだなと思い、言葉を失う。


「先輩も惚れないでくださいね」


「それだけは自信あるわ」


自分で言うだけのことはあって、事実整った顔立ちをしている。

それだけで惚れる理由にはならないし、イラっともする。




「なので、連絡先を教えてください」


「あー・・・・そういう接点でもいいのか」


そう言いながら登録の中から『渡辺光輝』の名前を探す。

あまり本人の計り知れない所で連絡先を教えるのは気が進まないが、今回はいいだろう。


「これが私の連絡先です」


そう言って彼女は画面を俺に向けてくる。

そこで初めて彼女の名前を知った。


「・・・・・??」


俺には彼女の行動が謎に思えて首を傾げて固まる。


「どうかしました?」


また、彼女からしたら俺がなぜ首を傾げているのかわからないらしい。


「それを俺に見せてどうしろと?」


「私の連絡先を登録してくださいよ。可愛い私の連絡先ですよ」


「お、おう・・・・?」


まだ俺には彼女の意図がわからない。

が、とりあえず登録しておいた。




「霜乃あかり(しものあかり)っていうのか」


「あかりって呼んでいいですよ」


「気が向いたらな」


適当にあしらいつつ、次は俺が提示する。


「ほらよ」


「では・・・・・って何で光輝先輩の連絡先なんですか!?」


「そりゃあ、連絡先教えてって言ったから」


「先輩の連絡先に決まってるじゃないですか!!光輝先輩のは直接本人から聞きますよ!」


「あぁ、俺のだったのか・・・」


連絡用に交換しとこうってわけね。

やっと俺の中でも合点がいって納得した。


「先輩ってモテないですよね」


「ほっとけ!!」






「今は鈍い系男子より無言の了解系男子の方がモテますよ」


「それはただの都合のいい男子だよ」


「先輩は都合が悪すぎます」


「お前の言いなりになる義理はねーからな」


「私に好かれませんよ?」


「それでいい。むしろ、『それがいい』まである。大人しく光輝だけを狙っとけ」


「なにか釈然としませんが、今はそれでいいです」


納得はしていない様子ではあったが、今回は食い下がったようだった。




「だいぶ話が逸れてたが、接点って具体的にどうするんだ?」


「それは先輩の方で考えてください」


「丸投げかよ・・・・」


こっちを上目遣いで覗き込んできたかと思うと、ニヤッとして「頑張ってください」と一言。

頑張るのは本当はお前だけどな。

そんなこんなで後輩の告白アシストが始まった。

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