笑い草

@rinahio

暑い日

「今日は暑かね。」

とっても暑い日やね。


僕らは真夏の外でついさっき寄ったコンビニで買った棒アイスを食べている。僕はインドア派なのに、彼女のせいで外に駆り出されてしまった。


「僕を外に駆り出した君がそんな事言うんだ。だったら外にでなければ良かったじゃないか。」


彼女はきょとんとした顔で数秒だけ 僕を見つめてから、可笑しそうにだはははと笑った。失礼だけど、彼女の笑い方は女の子のくせに全く品がない。


「なんば言いよるとね。こげな天気がいいとよ。うちら子供は外に出て楽しむもんやろ。」


なお笑いが止まらないみたいな。いや、止まらなくて含み笑いでそう話された。


「けど、僕はインドア派なんだ。もう疲れたよ。」


「しゃーしか。東京のモンはだめやね。もっともっと外ば出て遊ぶごたせんとおじいちゃんになったときよぼよぼになるんやない。」


「けど、福岡のほうが平均的に体力ないんじゃなかったかな。」


「そ、それとこれとはべつやし。」


あからさまに動揺する彼女を見て、僕は少し笑ってしまった。

彼女は話していると表情がコロコロ変わる。見ていて飽きないし、おもしろい。


「そんなうち見てどうしたと?

ま、まさか…うちが好きになって…」


「実は30年前から好きだった」


「あっははは

うちらそげんと生きとらんやろ!

やっぱおもしろかー。」


「君ほどではないよ。」


「それってうちがばかって言っとるみたいやん!」


「あっ…まぁいいか。」

彼女の悪ふざけには基本的に乗ることにしている。


僕は東京から来た転校生だからクラスでも浮いてる。


彼女はクラスの中でも人気者だ。

鼻が高く、目はパッチリと大きい。唇は薄い桜色。そこまで高くもない、背の順に並べば真ん中くらいの身長に童顔。すらりとした手足。

美人で、それでいて少しあどけない可愛さがある。

顔だけではなく、性格もいい。

困っている人がいたら助け、人が嫌がることを率先してやり、わからないことがあったら教えてくれる。


どこか有名な奉公人の生まれ変わりなのじゃないか、と思うくらいに優しい。

そんな僕と彼女が仲良くしてくれる理由はわからないが、好意は貰っている。

誰かに(この場合は考えるまでもなく先生と思うが)頼まれて仲良くしてもらっているのかもしれない。


それほどまでに、人気があるのだ。



「ねぇー!おーい!」

でも、一緒にいるのも嫌いじゃないからこれで良かったのかもしれない。


「どうしたの?話終わった?」


「そうじゃなか。うちの話聞いとった?」


「…露草」


「あはは。こわいこわい。君本当に露草好きやね。うちは」


話を聞いていなかったから不機嫌になると思っていたら、予想外に期限が良くなっていた。僕の回答はある意味あってたのかもしれない。


「うん。好きだよ。」


「おぉ。君もそんなに率直な意見を述べるのか。」


「君は僕をなにと思ってるの。」


僕は、好きなものは好きと言わないほど自分の意見を持っていないわけではない。うーん…宇宙人?などと笑いながら言う彼女に冗談を言えなかったら、僕はもう家に引きこもって、この世の終わりを見届けるだろう。


「宇宙人は冗談やけど、実はなんとか族の生き残りーとか?」


「実はそうなんだ。騙しててごめんね。」


「うそやん!うち殺されるー」


また女の子にしては品のないだははという笑い声をひとしきり出した後、彼女は足をプランプラント揺らし始めた。



君と出会って、まだ3ヶ月なんよね。と独り言のような、僕に言っているような感じで彼女は言った。


「そうかもね。」


「そうかももどうかももなかろうもん。やっぱりきみはおかしかね。」


目を細くして白い歯を出して笑っている彼女はとても楽しそうだ。


蝉の必死な鳴き声と、棒アイスから時々垂れてくる。


僕と彼女の首からは汗が伝っている。


今日は熱い夏の日だ。

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