罠迷宮の管理主
@kikupoti
第1話 始まり
人と魔が生きるこの世界。
その世界に存在する四つの迷宮、その一つの最奥にいる龍は悩んでいた。
目の前の画面を眺めると今日も探索者共は無残に迷宮の魔物へとやられている。
そう、ここには誰もやってくる者はいない。どうあがいても探索者共は途中で息絶えてしまうのだ。ここまでやってくるようなものがいれば我もまた楽しめるのだが。ここを離れる事も考えたが、我はここの宝を守らなければならない。それがあの方から承った命であるからだ。
我は暇であった。
時に、風のうわさで聞いた話だ。どうやら最近、地上では異世界人のいうものを呼び出しているらしい。地上の者ができると言うのであれば我でもできるであろう。そしてこの迷宮の管理を任せてみるのも面白いかもしれない。そうすれば我はここを放棄し、自由に出歩くことができるのではないか?
なんてことのない思いつき、だがこの龍はその思いつきを実行できるだけの力があった。そしてそれをすぐに行ってしまう実行力もある。うむ、そうしよう。それは面白い。思い立った龍は早速、黒く薄汚れた地面に召喚陣を描き始める。普段なら何かを呼び出すのにわざわざ召喚陣など描かないのだが、今回のように異世界から何かを呼び出すというのは長い時を生きた龍でも初めての経験であった。あっという間に描き終え、長い口上の呪文を唱える。
次の瞬間、狭い部屋の中に荒れ狂う雷。そしてその中心に立つ人物。どうやら召喚は成功したようであった。呼び出された人間は何が何か分からないのか周りをきょろきょろと忙しく見わたす。
「おい、人間よ。このファフニールに召喚されたことを光栄に思うがよい」
たっぷりと、これでもかと言うぐらいに尊厳をこめ、見下ろしながら龍は言った。だが、呼び出された男は
何が何かと分からないと言った様子で怯えたように龍を見る。
そんな男の様子はどうでもいいと言った具合に、龍は話し始める。
「お前はこれからここの迷宮を管理する者となってもらう、いいな?」
「は?」
「分かったか?」
「いや、分かりませんって! どういう事ですか!!」
我は呆れる。全く……これだから理解の遅いものは。仕方ない、一から説明してやるとするか。
「お前をここに呼んだのは、ここの迷宮を管理してもらうためだ、いいな?」
「いやいやいや! 何もさっきと変わっていませんって!」
全く、小うるさいやつだ。何故我がそのような面倒くさいことをしなければならないのだ。
そのようなことは下々の役目だと言うのに。首で迷宮(のモニターを指し示す。
異世界人も釣られて素方を見る。
何やら驚いているようだが、それを無視して話を続ける。
「そこでこの迷宮の管理をすることができる。構成から魔物の配置まで全てをだ」
ぽかんと固まる異世界人、ここまで説明してやったのに分からないのか?
「ええと……どうして俺なんかを連れてきたんですか?」
「む、お主を選んでわけではない。適当に他世界から呼んだら主が来ただけだ」
腑に落ちないという顔をしているが我には関係ない。
これでここの宝の事も気にしなくてよい。では、さっさとここを去るとしよう。
「では、人間よ。また会う時までさらばだ」
一方的に言い残し、龍は迷宮から出て行く。
取り残された男は呆然と立ち尽くしていた。
俺はいつも通り、大学に向かっていた。その日は確か大雨だっただろうか。振り込める雨、うっとおしいと思いながら傘をさして歩いていた時だ。途端に光る周囲、落ちる落雷。それは意識する間もなく、俺へと直撃した。光が消えた先、そこに広がるのは薄暗い、洞窟。俺は確かに通学路にいたはず。周りに広がるのは住宅街だったはずだ。
いきなり変わった周りに驚きながら前に顔を向けると……見るからに凶悪な顔をした龍が俺を見つめていた。
「おい、人間よ。このファフニールに召喚されたことを光栄に思うがよい」
なんとその目の前にいる龍は話しだす。理解が追い付かない。
龍? 人の言葉を話す? いやいや、龍なんている訳ないじゃないか、きっと目の前にいるのはでっかいトカゲ? いやいや夢だろう。
錯乱する俺を無視して目の前の龍、ファフニールは話を進める。
「お前はこれからここの迷宮を管理する者となってもらう、いいな?」
「は?」
「分かったか?」
「いや、分かりませんって! どういう事ですか!!」
更に疑問が重なる。当然だと言うように話し出す龍。何も分かるわけがない。必死に頭を巡らせる俺にやれやれといった顔をあらわにし、説明を始めるファフニール。
「お前をここに呼んだのは、ここの迷宮を管理してもらうためだ、いいな?」
何も変わってない。
「いやいやいや! 何もさっきと変わっていませんって!」
思わず口に出てた。そんな俺に面倒くさいなこいつと言った顔になる。
俺は何も悪くない……よな? 龍が首で違う方向を指し示す。
そっちを見るとそこには数々の液晶モニターがあった。宙へと浮き、ここと同じような薄暗い場所を映し出す。そこに映し出されるのは狭い、洞窟のような場所を歩く、見たこともない異形の姿をしたものだった。
俺の知る言葉では一つしか思いつかない、魔物だ。
ファフニールは話を続ける。
「そこでこの迷宮の管理をすることができる。構成から魔物の配置まで全てをだ」
大分理解が追い付いてきた。
という事はこのモニターが映し出しているのは”迷宮”とやらなのだろう。そしてそれを俺に管理して欲しいと。だが……
「ええと……どうして俺なんかを連れてきたんですか?」
「む、お主を選んでわけではない。適当に他世界から呼んだらぬしが来ただけだ」
脱力、適当に呼んだとは……
「では、人間よ。また会う時までさらばだ」
脱力している俺は止める暇もなく(たとえ脱力していなくとも止めれなかったであろうが)、あっという間に消え去ってしまった。
残された俺は……どうすればいいのだろう?
一人取り残され、一人で頭を抱える。
どうしたものかと悩んでいると突如、頭に響く声。
『人間よ、聞こえるか』
「うおわっ!?」
突然の声に驚き、周りを見渡すが声の主は見当たらない。
『我はここにはいない。今はただ、声を届けているだけである』
また、理解の追いつかないことが……と思いながらも必死で頭を巡らせる。
『単直に言おう。ぬしにはその迷宮の管理をしてもらいたいのだ』
「はい?」
ファフニールと全く同じことを言う。どうしてこうなった。
『何、ずっとと言うわけではない。我があいつを捕まえ、ここに連れ戻すででいいのだ』
それは一体いつになるんでしょう。それに俺がここにいる必要はあるのでしょうか?
『あるのだ。ここには宝、それこそ我ら神さえを脅かすものが眠っている。それが人間どもの手に渡ればとんでもないことになるのだ』
なんかさらっととんでもないことを言った気がする。
でもなんで俺がこの迷宮の管理なぞしなければならないのか。
『呼び出されたついでと思ってくれ。という事で頼んだぞ』
消え去る声。どうやら神、とやらも随分と適当な人らしい。
こうして何も分からないまま、俺の迷宮管理が始まった。
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