最終話 本当のはじまり
三日後、とある研究所の一室でラブと真紀はモニターを見ていた。個室で監禁されている谷村太郎は、虚ろな目で遠くを見つめていた。
ラブは退屈な画面から隣に立つ真紀に視線を向ける。すると、一人の黒ずくめの男が研究所を訪れた。
「ラブ様。東様と吉川様の全ての臓器を摘出しました。黒墨様は人体実験を行う別の研究所に移送中です」
「そう。蒼乃恵美様は東様に食い殺されてしまいました。彼女が生きていたら、もっと資金が集まったんですけどね。残念です。臓器摘出後は、マニア受けする眼球をくり抜くんでしたっけ? そして、残った体を防腐加工して人形にして売る。一切無駄にしないエコ精神。素晴らしいでしょう?」
想像しただけでグロイ話を近くで聞き、真紀は吐き気を催した。
黒服の男は頭を下げて、研究室から去った。その直後、ラブのスーツの中でスマートフォンが震える。ゲームマスターは画面に表示された画面を見て、覆面の下で頬を緩めた。
「もしもし。結構遅かったですね。事情聴取で警察に呼ばれていましたか? 森園さん」
『そうですよ。こっちは色々と大変です。これが最後の電話ですよね?』
電話から漏れて来た声に、椎名真紀は聞き覚えがあった。それは通り魔事件の被害者、森園薫子だったのだ。森園さんとラブが繋がっていたという事実に真紀が驚く。
「はい。そうです。あなたが復讐しようとしていた五人が、あなたの前に現れることはありません。もちろんあなたが捕まることもありませんので、ご安心ください」
『ありがとうございます』
ラブが電話を切ると、真紀はジド目でラブの顔を見つめた。
「森園さんも計画に関わっているの?」
「そうですよ。最もプレイヤーの選別の段階で利害が一致したから協力しただけ。例外の三人は、こっちが選んだけどね」
何となく真相を知った真紀は、再びモニター越しに監禁されている谷村太郎の姿を見つめた。
「谷村君と明美は、いつになったら会えるの?」
真紀からの問いを聞き、ラブは首を捻る。
「そうね。無機質な空間で会うだけだったら、数か月後かな? それまで生きていたらいいけど」
「そう。最後にもう一つだけ質問。東郷深雪って誰?」
「愚問ですね。東郷深雪はあなたです」
「そうじゃなくて、なんで東郷深雪というもう一つの名前があるのか? この謎の答えが知りたいの。ただの影武者なら偽名なんて必要ないでしょう」
そういうことかと理解できたラブは、隣に立つ少女の洞察力を称賛した。
「そこまでの洞察力があるとは思わなかったわ。でも、今は内緒。最低でも谷村君が仮想空間で明美と再会するまでは話せません。だけど、ヒントをあげる。あなたは計画のプロトタイプ」
覆面の下でニコっと笑ったラブは、モニターに映る谷村太郎の姿を瞳に映した。
二年後、桜の花びらが舞う季節、椎名真紀は高校の校門を潜った。一人娘の入学式だというのに、両親は彼女の隣にいない。もっとも本物の両親なら、自分が偽者であるとすぐに見破るだろうから、いないほうが好都合。
本当の椎名真紀は計画実行のため暗躍を続けている。偽者の少女は、入学式くらい出席すればいいのにと、ため息を吐く。
その時、彼女の携帯電話にメールが届く。
『シニガミヒロイン、始めちゃうよ♪』
送り主ラブの短いメールを読み、少女は頬を緩める。
これから行われるのは、多くの人々の夢や希望を奪い、人生を狂わせるデスゲーム。このゲームを続けていけば、目的が達成される。
光を失った少女が笑みを浮かべた時、真紀の後ろを二人の同級生が通り過ぎた。
黒色のショートボブに低身長の少女は、黒色ベリーショットの少年の手を引く。
「恵一。早く教室に行こう」
恵一と呼ばれた少年は、少し照れながら少女の手を振りほどく。
「美緒。そんなに急がなくてもいいだろう」
椎名真紀は二人に関心を示すことなく、昇降口に向かい歩き始めた。
一年後の高二の春、入学式で初めて出会った二人が引き裂かれてしまうとは、この時の真紀は知らなかった。
シニガミヒロイン~プロトタイプメモリー~ 山本正純 @nazuna39
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