第13話 地獄の買い物競争

 ニュース番組が終わり、ラブはカーラジオのスイッチを切った。

「皆様。あと五分程でゲーム会場に到着します。その前に後半戦のゲームについての説明をしますね」

 プレイヤーたちは待っていたと言わんばかりに耳を傾ける。その反応を受けたラブは説明を続けた。

「後半戦で行っていただくゲームは、地獄の買い物競争です。ルールはとっても簡単です。ゲーム会場でお題に沿った物を購入して、三十分後駐車場に戻ってくるだけ。ゲーム終了時点でゴールにいなかったらゲームオーバーです」

「お題?」

 真紀が疑問を口にした後で、ラブはスーツから封筒を取り出し、中に入っている手紙を読み上げた。

「気になっているようですので、早速お題を発表します。黒髪短髪の十四歳の女の子。前髪はヘアピンで止めてある。そのヘアピンは毎日のように変えている。利き手は左で、趣味でベースを演奏しているようです。カワイイ文房具に目がない。以上、こちらのお題の女の子が喜びそうな物を買ってきてください」

 お題を聞いていた椎名真紀以外の五人は動揺した。だが真紀はアイマスクをされているため、他のプレイヤーたちの異変に気が付いていない。

 間もなくして自動車は屋外の駐車場に停車した。運転手の男がラブに耳打ちした後で、ゲームマスターは一回だけ手を叩く。

「皆様。アイマスクを外してください。そして、右をご覧ください。今回のゲームの舞台、御馴染みのショッピングモールが見えることでしょう」

 窓とドアが開き、見えて来た建物に真紀は見覚えがあった。そこはプレイヤー全員が最低一回は行ったことがある大型商業施設。楕円形の四階建てという特徴的な建物。この馴染み深い店でお題の女の子が好みそうな物を買う。それだけで賞金が貰えるというのは、いささか上手すぎる話だと真紀は思った。

「皆様。車を降りて結構ですよ。その前にお金を差し上げます。この予算内でプレゼントを買ってください。尚、お釣りは自由に使って構いません。誰か他のプレイヤーに差し上げても良しとします」

 ラブが説明を続けた後、運転手の男はスーツのポケットから六つの小銭入れを取り出した。どれも同じ手のひらサイズの小さな長方形の財布で、色は黒い。

「皆様。財布はこちらの物を使ってください。どれも同じ金額しか入っていません」

 運転手の男に促され、六人は財布を受け取った。予算が気になった東大輔は、早速財布のチャックを開け、中身を取り出す。

 財布の中には、千円札が一枚だけ入っていた。

 六人全員が車から降りた後、ラブは車の窓を開け、彼らに声をかける。

「皆様。これから私達は地下の駐車場に車を停めに行きます。ゴールは地下駐車場ですので、お間違いなく! それでは、地獄の買い物競争スタートです。午後一時までにゴールに来てくださいね」

 そう言い残し、プレイヤーたちを乗せていた自動車は動き始めた。

 自動車が遠ざかっていくのを見ていた池澤文太は、ガッツポーズを取った。

「このショッピングモールなら何度か来たことがあるからな。楽勝だ」

 豪快に笑う池澤の顔をジッと見ていた真紀は疑問に思った。今回のゲームは簡単過ぎる。

 プレイヤー全員にとって馴染み深いショッピングモールで、千円以内の買い物をするだけ。制限時間内にゴールに到着したら、賞金一千万円と願いを一人一つだけ叶える。

 やることが簡単過ぎて、ゲーム要素も感じ取れない。この中に山吹日奈子を殺した犯人が混ざっているとしても、ここはショッピングモールだ。問題の殺人犯が第二の殺人を決行したら、警察が来てゲームどころではなくなる。仮にそれが狙いだとしたら、他にも方法はあったはずである。ゲームを開催する必然性はない。

 殺人犯がショッピングモール内で誰かを殺して、ゲームを中断させるという仮説以外に考えられるのは、前回のゲームでプレイヤーたちをかき乱した黒墨凛が何かを仕掛けてくるから。だとしたら、凛は何をするのか?

 真紀が簡単過ぎるゲームの裏に隠された真意を考えていた間、東大輔と池澤文太、吉川敦彦と黒墨凛の四人はショッピングモールの入り口に足を踏み入れた。

 一方で谷村太郎は、椎名真紀に声をかける。

「椎名さん。ちょっといいですか?」

 そう呼びかけられ、真紀は首を傾げた。

「何でしょう」

「あのお題を聞いて、どう思いましたか?」

「質問の意図が分かりません」

 椎名真紀は谷村の質問を聞き返す。すると谷村は意外なことを口にする。

「僕はお題の女の子に心当たりがあります。お題が示している女の子は、森園薫子さんの特徴と似ているんですよ」

「森園さんって通り魔事件の被害者?」

「そうです。森園さんの特徴に酷似したお題。移動中の車内のラジオで、彼女の安否を知らせるニュースを聞かせた理由。そしてニュースの後のラブのコメントは、ここで森園さんを襲った犯人が捕まるという趣旨の物でした。ここまで言えば、僕が何を言おうとしているのかが分かりますね?」

「ゲームが開催された理由と森園さんの事件には繋がりがある」

 真紀の推測を聞き、谷村は首を縦に動かした。

「そういうことです。僕の知る限りでは、森園さんの関係する人間が、ゲームの参加者の中に四人いるんですよ。僕は森園さんと同じクラスで、時々話をしていました。東君と彼女は幼馴染。池澤君は彼女をイジメていて、黒墨さんとは親友。ゲームのプレイヤーは森園薫子さんに関連する人物から選別されたと考えられるけれど、どうでしょうか?」

 参加者の繋がりが見えてきたが、椎名真紀は腑に落ちないような顔を見せた。

「でも、私と森園さんは関係ないと思います。覚えてないだけかもしれませんけど」

「そうかもしれません。それならば黒澄さんと合流して聞いてみませんか? もしかした椎名さんを含む四人と森園さんの関係を知っているかもしれませんよ」

 谷村の提案を聞き、椎名真紀は頷いた。


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