第2話 窓がない校舎と集められた八人
椎名真紀は、窓がない教室の中で目を覚ました。どうやら椅子に座らされ、机の上に顔を伏せて眠っていたらしい。顔を上げ、周りを見た真紀は目を大きく見開く。教室の中で真紀と同じような体勢で眠っていたのは、見覚えのある七人。
六人の同級生と一人の男性教師は、麻酔が切れたかのように同時に目を覚まし、状況を理解できず困惑していた。
その中で最初に動いたのは、吉川敦彦だった。彼は最初に教室のドアを開けてみる。しかし、ドアは施錠されているようで、押しても引いても開かなかった。
「東君。池澤くん。蒼乃さん。黒墨さん。椎名さん。山吹さん。聞かせてほしい。ここがどこか分かる者はいるか?」
その問いかけの後、スルーされた七人目の生徒が咳払いする。
「吉川先生。スルーしないでくださいよ。隣のクラスでも、同じ十条中学校の生徒じゃないですか?」
地毛らしい茶髪の髪に細い目という特徴の男子生徒、谷村太郎が抗議する。
「ごめんな。谷村君。スルーして」
古川は頭を下げて謝った。しかし、誰も古川の質問に答えようとしなかった。
なぜこの場所にいるのか分からないという苛立ちが徐々に高まっていく。そんな中、黒墨はスピーカーの右横に備え付けられたアナログな針時計を目にした。それによると、今は六時らしい。だが、この部屋は窓がないため、午前か午後という概念は分からない。
それならと東は学ランのポケットを漁り、携帯電話を取り出そうとした。だが、ポケットは空っぽだ。ここに連れて来た誰かが、回収したのだろうと思い、東は舌打ちする。
間もなくしてスピーカーから、静かな曲調のクラシック音楽が流れ始めた。音楽は1分間続き、ボイスチェンジャーの不気味な声が響く。
『皆様。おはようございます。4月27日。土曜日。午前六時を迎えました。今から4分後、説明のためにそちらへ向かいます。一時的に教室の黒板側のドアが開きますが、逃げないでくださいね』
「黒板側か」
池澤文太は、腕を鳴らしながら黒板側の教室のドアの前に立った。
「池澤君。何をするつもりだ?」
古川が尋ねると、池澤は白い歯を見せ笑った。
「決まっているだろう。これから来る奴を殴る」
池澤は決意を固め、ドアを睨み付けた。後五秒で説明のために誰かが現れる。そう思いながら、池澤は握り拳をつくる。この暴力的な行為を、黒板の周りに集まっている七人は止めることができなかった。
しかし、時間になっても黒板側のドアは開くことがない。そんな時、黒板とは反対側のドアが開き、額にハートマークがプリントされた覆面を被った人物がアタッシュケースを抱えて姿を見せた。
その人物はニヤニヤと笑い、黒板の近くに集まっている八人を笑った。
「皆様。正直ですね。裏をかいて黒板の反対側のドアで待ちかまえる人はゼロですか? 無駄話はここまでにして、説明でも始めましょうか。早速ですが、皆様はゲームのテストプレイヤーに選ばれました。今朝、この場にいる八人にそれを知らせるメールを送ったからご存じだと思うけど」
そう説明され、山吹が啖呵を切った。
「お前か。あんな変なメールを送ってきたのは」
「山吹様。そうなんですよ。あの予告メールの通り、あなた達を拉致しました。ゲームのルールは簡単です。二日間行われるゲームを全クリできたら、解放します。その際、貴重な三連休を浪費してしまったお詫びとして、生存者一人当たり賞金一千万円をお渡しします。さらに、生存者に皆様のお願いを一人一つだけ叶えてあげましょう。もしもゲームに負けたら、命を保障しません。ということで、皆様、ゲームに使うアイテムを手にしてください」
説明しながら、覆面の人物は教卓の上にアタッシュケースを置き、それを広げてみせた。そこには人数分の黒色の端末が収められている。
「それでは皆様。端末を手にしてください」
一方的に話を進める覆面に椎名真紀は、怒りの矛先を向ける。
「いきなり拉致して、ゲームに参加しろ? ふざけないで! 大体私は、あなたを信用してないから」
「信用できない? そう来ましたか。でも、周りを見てくださいよ。真紀……じゃなかった。椎名様以外の皆様はゲームに参加する気満々みたいですよ?」
賞金と願い。どちらの欲望に反応したのかは定かではないが、椎名真紀以外の七人は、覆面の指示に従っていた。それでも真紀の決意は揺るがない。ゲームの主催者はそれを想定していたようで、真紀の耳元で囁く。
「あなたには昨日の記憶がない。そうでしょう? 真紀ちゃん」
一瞬だけ真紀の瞳は虚ろになった。そして気が付いたら、彼女は他の七人と同じようにゲームに使うアイテムを手にしていた。
こうして八人がゲームの参加を決めた。覆面は当然の結果だと言わんばかりに腕を組み、改めて自己紹介を始めた。
「皆様。ゲームマスターのラブと申します。以後お見知りおきを。ということで、早速ですがゲームを始めます。今日と明日で違うゲームをやっていただきますので、ご了承ください。一日目に行っていただくゲームは、マニフェストゲームです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます