バンドマンの恋愛は障壁だらけだ

二風谷レオン

エピソード1 隔靴掻痒

 俺は相川レン。とあるバンドでボーカルを勤めている。


 そんな俺は、小さなライブハウスでライブ中だ。

 ほぼ満席のハコの眼下に見えるファン。

 男女の叶わぬ恋愛をテーマにしたオリジナルの曲を、失敗することなく歌い上げ、大きな拍手がやってくる。

 その爽快感は、何年間バンドをやり続けても飽和することはない。




 だが、そんな俺には大きな悩みがある。

 自分で作った曲の歌詞のように、高校を卒業してやむを得ず離れ離れになる男女が、キスを最後に別れてしまう。そんなドラマチックな話とはほど遠い。




 俺には、桐山ハルカと言う恋人がいる。非常に小さくて儚げな女性だ。

 ライブハウスに来ると、必ず後ろの方でちょこんと立ち、ファンの女の子にキャーキャー言われている俺を眺めている。

 言ってしまえばド草食系女子だ。




 バンドで飯を食うという俺の目標は、正直叶っている現在、都内のライブハウスを飛び回っては歌うのが俺の日常だ。


 毎日、ライブハウスの前方にいる女の子に囲まれながら歌う事が多いが、それが俺の悩みのだ。


 それは、ハルカが俺を信用しなくなる原因になっているからだ。




 言ってしまえば、ハルカは俺が浮気していると思っているのだ。


 当然、俺はハルカ以外に好きな人物などいない。ハルカだけを愛している。




 だが、確かに浮気を疑われても仕方がない節がある。


 ライブの後に、共に出場した他のバンドの人達と飲み会をすることがあるのだが、そこには必ず俺のファンやその他の観客が混じってくる。


 正直、勘弁してほしいと思っている。

 だが、他のバンドマンには悪気が無いのだ。

 他の人はバンドだけで生計が立てられるわけでもないので、コアファンとの交流が大変重要なのだ。だから、観客を連れてくるなとは非常に言いづらい。


 それに便乗して飲み会に混ざってくるのが俺のファンなのだ。


 俺は飲み会をするとき、昔は必ずハルカも呼んでいた。

 売れているバンドマンは、ライブハウス以外でファンとはなるべく関わらないようにしたいが、恋人であるハルカは別だった。

 未来の妻になるかも知れないから。



 それなのに、ハルカと話をしたい俺をファンの女の子はいつも邪魔する。

 本当に隔靴掻痒の思いである。


 ある時、彼女と話をしたいからとはっきり言ったときに、そいつらはハルカに罵詈雑言を浴びせ、俺の彼女であることを否定した。

 ハルカはその場で泣いてしまった。


 それ以来、ハルカを飲み会に呼ばないようにしていた。


 それが失敗だった。ハルカは、ファンの女の子と話したいから呼ばなくなったと思いこんでいるのだ。




 それ以来、ハルカは何があっても自分から物を言うことが無くなった。


 たまの休日に一緒に街へ出掛けても、申し訳無さそうな顔をするだけで全く笑ってくれない。




 そうして、俺とハルカの間には深い溝が生まれかけていた。

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