ハッピーエンドには程遠いエピローグ

 …………ルルーには、言葉が見つからなかった。


 オセロはなんて言って欲しいのか、なんて言われたら傷つくのか、考えても、何も思い浮かばなかった。


 いつもなら参考に思い出すねえ様の言葉も、今回ばかりは何も出てこなかった。


 ……オセロは熱々になってた鉄棒を踏んで転がしている。


 時折指を当てて熱を見ている。世話しないのは武器が持てないのは危険だから、こんな場面でも警戒を解いてないからだろう。にしては熱くて持てないなんて酷い笑い話だけど、それを話題に、笑える空気でもなかった。


 ……ただ、嫌だな、とは思った。


 オセロが辛いままで、それに何もできなくて、こうしてるだけの自分が、酷く嫌いだった。


 助けられたら、と思った。


 助けたい、と願った。


 そう思い、感じる無力感、何でこう思うのか、自問する。


「ぁ」


 何でかわかって、小さく声が出た。


 あぁそうか、私はオセロが好きなんだ。


 …………だから何?


 その後が続かない。


 別に人を好きになるのは初めてじゃないし、ねえ様や、さっき分かれた道化集のみんなも好きだった。


 だけど、オセロの好きとは違う気がした。


 これは、恋愛との違うと思う。


 胸のトキメキとか、熱を上げて暴走とか、殺してでも傍に置くとか、そういったものとも違うような気がした。


 なんというか、助けたいと思ったのが一番しっくりくる。


 一緒に冒険して、助け合う関係、がいいんだろう。


 それこそ、七つの試練を超えるための仲間、みたいな感じが、理想なのかな?


「……どうした?」


 オセロに聞かれて慌てて下がってた顔を上げて笑って見せる。


「いえ、七つの試練の最後を思い出してたんです」


「最後?」


「第七の試練、夢の終わり。ずっと話してた通り、これまでの試練は引き返すことができません。それは最後の最後も一緒で、一番奥に都合よく出口があるわけではないんです。だから願いを叶えた後に出るには」


「ちょっとまて、もうそこまで話してたか?」


 オセロに言われて、思い出す。


 話は第一の試練辺りで止まってたはずだ。


「まだ荷物準備できてないだろ? すぐ用意するからちょっと待て」


 慌てて手をかざして止めるオセロ、その様子はいつも通りで、思わずルルーは微笑んでしまった。


「……あー、でも今日は時間かかるから、明日でいいか?」


「いいですけど、なんでですか?」


「いやこれ」


 言ってオセロは小瓶を、解毒ポーションを取り出し、開けて飲み干した。


「にげぇ」


 言って空き瓶をしまう。


「これってよぉ、別に毒を無効化するわけじゃねぇんだ。要は外に全部出す薬なんだよ」


「全部、ですか?」


「そう全部、上からも下からも」


「それって、下剤ってことですか?」


「まぁそうっ!」


 あっという間にオセロの顔に大粒の汗が噴き出てくる。そして立ち上がって、冷めた鉄棒を抱えると、小走りに外へと向かった。空いた手はお尻をしっかりと抑えている。


「あの!」


 出ていくオセロの背中、それどころじゃないと頭でわかってる筈なのに、思わず声をかけてしまった。


 それに、律義に立ち止まって振り返るオセロ。


「……大丈夫ですか?」


「まぁな」


 苦し紛れに出た質問に、オセロは応えてくれた。


「初めてじゃないし、トイレもあっちの方に見つけた。それにほら、尻を拭くのもちゃんとある」


 言って懐から取り出したのは、藁の束だった。


「だから大丈夫!」


 言い残し逃げるようにオセロは外へと飛び出て行った。


 ……その背中に何かが思い出される。


 藁、麻薬、尻、拭く、大変だぁ!


「オセロ!」


 ルルーは慌てて立ち上がり、荷物からトイレットペーパーを引っ張り出すと慌ててオセロを追いかけた。


 ……酷い顛末、だけどまだ終わりじゃないと、ルルーは思えた。

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