机仕事《ホワイトカラー》の仕事中毒者《ワーカーホリック》

@rurudo

第1話オーバークロック

 時計の針が重なった。

 窓からの景色は光を失い、街は静まり返っている。

 多くの建物から人気がなくなる中、私の職場だけが昼間と変わらない。



 深夜0時。もう終電すら無くなっていく時間だ。

 私の稼働時間も48時間を超え、朦朧とする意識をエナジードリンクだけが支えてくれている。

 もうそろそろ返事も「うー」とか「あー」とかしか言えなくなってきているし、床には死体みたいに寝ている同僚が転がっている。

 それでもキーボードを叩く手だけは軽快な音を奏でる。

 その一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくがコンピュータに命を吹き込んでいく。

 アプリケーションが次々に仕様を満たしていく。もう眠さも感じない。こんなに絶好調なのは初めてかもしれない。

 謎の全能感と納期に間に合いそうという期待感で心臓が鼓動する。



 ドクン。



 いや、何かがおかしい。動悸が激しい。激し過ぎる。

 心臓が痛い。

 一瞬病院も考えたが雑念を振り払った。

 目の前に仕事があるのに逃げ出すわけにはいかないだろう?



 視界がぼやける。コードが頭に入ってこない。

 これは少しだけ仮眠をとった方が良いな。

 体に力が入らない。もう床で寝よう。幸いまだ暖かい。

 私が崩れ落ちた音で同僚が集まってくる。

 仮眠するだけだから仕事に戻れと言ったつもりだが、声が出ない。



 ああ、新人の森本くん。君には特に厳しくあたってしまったね。君は叩けば叩く程伸びる素晴らしい素材でつい熱中してしまったんだ。許してくれ。君くらい優秀だったらもっと自分に自信を持って良いんだよ。泣き虫なのが玉にきずだが、ほら今も泣いている。



 同期の川島まで来ているじゃないか。お前は仕事が遅いんだからさっさと机に戻れよ。私は完璧主義だからお前が仕事しないと終わらないんだよ。ブーブー文句を言う私を妥協させるのがお前の仕事だろ?お前がそんなに大声で文句言っても私には何もしてやれないよ。



 小林社長まだ帰ってなかったんですか。貴方がいても仕事には何の役にも立たないだからさっさと帰ってゆっくり寝てください。どうせいつもみたいに納期を伸ばしてもらうために奔走させてしまうんですから。どうしました?いつもみたいな冷静さがないですよ?トップがそんなんじゃ社員は困ってしまいますよ。



 これだけ働いたのだから少しくらい休んでも良いだろ?

 でも、できるなら今作っているサービスが社会に溶け込んでいくのを見たかった。

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