第5話

 告白はすとんと嘘のように口からこぼれ出た。

 いつものお茶の時間に、アルトラの唇から言葉はこぼれた。

 ベルフェゴールの顔は見れない。指に触れているカップは父のサタンが天界で作らせてさきの戦いでの功労にベルフェゴールに下賜したものだ。見慣れたそれの花模様が歪み始めて、アルトラは自分の心が昂ぶりすぎていることに気づいた。

「ごめん、泣いたら困るよね」

 ベルフェゴールは無言で優しくぎこちなくアルトラの美しい髪を撫でた。

「アルトラ様、お嬢様はすこし……すこしはき違えたのだと思います」

「なに? どう……気持ち悪かった?」

 地底では同性のカップルももちろんいたが、父がそれらをよく思っていなくてアルトラはそういう恋を気持ち悪いと思うものがいると知っていた。しかしベルフェゴールは首を横に振っていいえ、気持ち悪くないです、と澄んだ声で言う。

「ただお嬢様は、わたしに恋していらっしゃらない」

 顔を上げてベルフェゴールの顔を見ると、彼女は見たことのない落ち着いた顔をしていた。まるで子供に何か言い聞かせる母親のように穏やかな。

「ひな鳥が初めに見た……母とまでは言いませんが、こんなことおこがましいんですがわたしを姉上の一人の様に慕ってくださっているのはわかります。

 少し距離のある、でもなんでも聞いてお話して時にはアドバイスのようなことも致しました、そうしたことと少しの距離感を、恋に勘違いなさっていらっしゃる」

 うまく言えないのですがそういうことです。

 ベルフェゴールは落ち着き払った様子で言い終わると席を立ち実験道具の山の前に立った。

「そろそろお帰りになられる時間です、アルトラ様」




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