第4話
その後ハンターギルドに引き返した俺達は、先程の受付嬢に力説するも力及ばず。受付嬢に対するストーカー行為で屈強なハンター達に取り押さえられ、牢屋にぶち込まれる寸前でショッキングピンクに毛色を変えたヤマザキが姿を現わす事によりなんとか誤解が解けた様だ。
やはり精霊術師はかなりレアな様で最初は腹話術師を疑われたが、俺の口の中に熱々のチクワを五本突っ込んだ状態でヤマザキに事情聴取が行われる事により腹話術師の疑いも晴れた。
「申し訳ありません。面と向かって死ぬまで一緒とか言われたので普通に命の危険を感じたもので……」
受付嬢のお姉さんは悪くない。悪いのはどうでも良い笑いに人の命を賭ける精霊だ。
明日から宜しくお願いしますとの事で再度ハンターギルドを後にして、この世界に来て漸く野宿を卒業だ。
「ヤマザキ、何処か良い宿屋はあるのか?」
「うーん……精霊は基本。みかん箱か縁の下で寝るからニャ」
「精霊の話か?それ」
せっかく町まで来たんだから野宿は避けたいところだ。
ここは精霊魔法を使って切り抜けるか。
「精霊術師カタイシが命ずる」
「む?精霊魔法かニャ?」
「ヤマザキお金貸して」
「だから大精霊に向かって物納を要求するニャよ」
ショッキングピンクの子猫は俺の肩の上で憤慨している。
「おれは山菜採りの最中に遭難したから財布の中に二千八百円しか無いんだよ」
俺は三つ折り財布のマジックテープをバリバリとはがしてヤマザキに見せつける。
「リアルな数字が生々しいニャ」
「明日から宜しくお願いしますってギルドを出て来たのに、宿屋に泊まるお金が無いので取り急ぎ何か仕事を下さいって、言いにくいだろ?しかも本日三度目のギルドのお部屋探訪だぞ?」
「カタイシは変な所で繊細だニャ、実は僕はお金を持って無いニャ」
酒やツマミは大人しく出すクセに金を渋るとは大精霊の風上に置けん奴だ。
「酒を仕入れる金はあるんだろ?」
「酒は無料ニャ!昔から酒が多少無くなっても精霊の分け前と言って多目に見られているニャ」
「それは醸造所の樽に蓄えられている酒の話だろ?小売店の商品が丸々一瓶無くなるのは分け前とは言わん!しかもツマミまで失敬してるなら飲兵衛の万引きって言うんだ!」
「お礼の品をキチンと置いて来てるニャ……」
「何を置いて来た?」
「ドングリとか……」
「ふむ……なら仕方ない。それならほぼ等価交換と言っても良いかもしれんな、次からは俺の分も忘れないようにな」
「話の解る契約者で助かったニャ」
俺達は熱い握手を交わす。
「それで今夜の宿なんだが……」
「理解ある契約者の為に無料で宿屋に泊まる方法を教えるニャ」
ヤマザキは良い奴。
「まずはこのショッキングピンクの毛色を装いも新たに茶トラにするニャ」
今まで目に突き刺さる様なショッキングピンクの毛色が不思議な精霊力により愛らしい茶トラに変わって行く。
「そして頭髪を整えるニャ」
ヤマザキが自分の肉球に唾をタップリと着けて頭の毛をゴシゴシと擦り着けると、額に埋め込まれた青い精霊石が毛に埋まって見えなくなる。
「む?カモが来たニャ」
高級宿屋の前でマントの埃を叩き、身なりを整えている大剣を背負う女性冒険者が今まさに宿屋に入ろうかと、足を踏み出そうした所に茶トラヤマザキが走り込み女性冒険者を見上げる。
『みぃ……みぃ……』
女性冒険者はギョっと目を剥くと周りを見渡してからヤマザキの前にしゃがみ込む。
「君も……一人なのかな?」
『みぃ……』
女性冒険者は何処か寂しそうに微笑むとヤマザキを抱き上げてビキニアーマーの胸元に忍ばせた。
「怒られちゃうから静かにしてるんでちゅよ?」
『みぃ!』
女性冒険者が宿屋の入り口をくぐる瞬間、ヤマザキがこちらに向けてウザい位の笑顔でサムズアップをする姿がこの日最後のアイツの姿だった。
俺はその宿屋の裏手にある馬小屋で猫の嫌がるスキルを取る為に、一晩中ポイント交換目録と睨めっこをしてすごした。
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