第26話 盗聴・盗撮相談②

 法明寺事務所


「ただいま戻りましたー」


「おー、お疲れ」


 東野万理案件や暁美の母、真美に探偵アルバイトがバレて了承をもらってから4ヶ月。

 暁美は、その後は遠征とかも無く、たまに学校を休むくらいで済んでいて、テストもしっかり勉強した甲斐もあり、真ん中よりももちろん上。その間に法明寺から振ってもらえた探偵の助手の仕事もしっかりこなし、そこそこ、ツーと言えばカーくらいまでの仕事をこなせるようになった。


「はい。これ。奈々さん、今日も相変わらずでしたよ」


「おー、そーか」


「ハァー、疲れた・・・・・」


 法明寺に新型カード盗聴器を渡して、暁美はソファに倒れこむ。法明寺は渡されたカードのスイッチを押して、テストなのか、パソコンをいじりながら、あー。とか、うー。とか言っている。


「そういえば、次の案件の盗聴器、盗撮器の調査、手伝ってくれるみたいですよ」


「おー、さんきゅ」


「っていうか、そういうのを普通、奈々さんに頼むようなことでなかったら意図を先に伝えてくださいよー。奈々さんが、法明寺さんでも見つけるのが大変なのか、設置した意図を読み取りたいのか。って言っていましたよ」


「あー、まーそうだよな。後者だな。それ次第では受けないとは言って無いよな?」


「まー、言ってないですけど」


 暁美の注意をあまり気にしていないような法明寺からは奈々のリアクションだけを求められた。まだまだ法明寺の中で暁美を半人前扱いしているのか、大事なところをあまり話してくれない癖は相変わらずである。


「了解。それじゃ、俺のほうから当日、大盗(だいとう)には伝えておくよ」


「はーい。法明寺さん、お茶飲みます?」


「おー、頼む」


 しょうがないんだろうけど、ちょっとムカつくなー。プンスカプンスカ。

 少しだけふてくされてみるが、法明寺は気づいていない。女性の細かいところに気がつかない男性はモテないぞ。と心の中でツッコミをいれておきながら、暁美はソファから起き上がり、台所に向かう。


「そういえば、今回は、どんな調査依頼なんですか?」


「あ、今回はだな、ストーカー被害の相談だ」


「そうなんですね。ストーカー被害で盗聴器、盗撮器を探すのって、いつものと何か違うものなんですか?」


「いや」


「いや?」


 そのまま法明寺との会話が止まってしまう。

 ちっくしょー。また教えてくれない。

 お茶ができたので、暁美は追加の言葉を聞き返すのはやめて、お茶を法明寺に渡したタイミングで続きを聞くことにする。


「はい」


「お、さんきゅ」


「それで、何がいつものと違うんですか?」


「まーちょっと色々あるんだが、簡単にいうと、ストーカー被害の相談で家の調査ではあるものの、思い当たる人が今のところ思いつかないって話でな」


 法明寺とのやりとりで思ったことは、本人はそこまで秘密主義でないということ。ただし必要と思っていないことはほとんど教えてくれないし、教えて。教えて。とせがむと場合によっては嫌がられて教えてくれない。その辺の空気感はこの4ヶ月でそれなりに覚えてきたので、自然なタイミングで聞き出すのが、大事である。

 秘技、お茶を出しながら、雑談がてらに聞いてみる。そのままの名前。

 暁美は自分のお茶を持って、ソファに戻る。


「家の中の盗聴器、盗撮器の調査なのに、思い当たる人がいないんですか?」


「そうなんだよ。後な」


「後、なんですか?」


「なんで盗聴、盗撮されていると思うのかって聞くと、そんな気がするからしか言わないんだよな」


「それ、相当怪しいですね」


「まー、そういうことなんだよ」


「そんなことってよくある話なんですか?」


「よくある話ではないが、まったく無い話でもない。一人暮らしの爺さん、婆さんだと実はたまにあったりする話なんだよ」


「一人暮らしのお爺さん、お婆さんにしかない話なんですか?」


 プリンターから紙が出てくる。その紙を持って法明寺は、暁美が座るソファの向かいに座り、紙を裏にしておき、たばこに火をつけて吸いはじめる。


「嬢ちゃん、勘が鋭くなってきたな」


「いえー、まー、えへへ」


 全力で照れる暁美に対して、特にリアクションすることもなく法明寺は続ける。

 ここまでの会話の流れで持ってきたら多分この後は説明してくれるはず。よかったよかった。

 説明してくれるなら最初からしてくれい。


「まーオチだけでいうと被害妄想だな」


「被害妄想?」


「要するに寂しいんだよ。老人ホームに入っているわけでもない、身寄りが要るのか、居ないのか分からんが、一人暮らし。

 その思考から生まれるのかどうか分からんが、被害妄想だな。探偵は仕事だから当たり前だが、調査依頼がくれば真剣に話を聞いてくれる。被害があってから動く警察とは違ってな。

 結果出てこようが出てこなかろうが、盗聴器、盗撮器の調査をしてくれと言われればするしな。その時間は一緒にいられるわけだよ。一緒にいれば他愛のない話もするし、ご飯を振舞われることだってある。

 そういうおもてなしを嫌がる探偵も多いけどな。俺は別に仕事だし、基本はその時間内に食事が出されるなら食べたりもするしな。そういった時間が癖になって指名制で頼んでくる。っていうケースは実はたまにだがあったりする」


「へー、そうなんですねー」


 ニヤニヤする暁美に、たばこを吸い終わり、灰皿で火を消す法明寺が少しだけ不機嫌な顔をする。


「嬢ちゃん、今の話の何が笑えるんだ?」


「あ、ごめんなさい。別に笑ってたわけじゃなくて、法明寺さん、口ではなんだかんだ言うけど、優しいなって」


「あ?俺が優しい?」


「優しいですよ。お爺さん、お婆さんが寂しいのを分かっててご飯に付き合ってあげたりしているんですよね。別に盗聴器、盗撮器探している時だって他愛のない会話していない探偵や調査員の人もいると思いますよ」


「ったく、、、、、。皆、同じようなもんだろ」


 少し恥ずかしそうに目をそらして、再びたばこを吸いはじめる法明寺。


「まーまー」


 恥ずかしがっている法明寺を見れる機会も中々ないので、暁美は楽しみながら法明寺をなだめる。


「まーいいや。とにかく、話はずれたが、結構引っかかることの多い相談内容ってのもあってな。もちろん、相談者は爺さん、婆さんじゃない」


「そうなんですね。いくつくらいの方ですか?」


「ん」


 そう言うと、法明寺はさきほどテーブルの上で裏にしていた紙を暁美に投げる。暁美はテーブルの自分の手元に来た紙を手に取り見てみる。


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〇相談者

西田理沙(にしだりさ)


〇年齢

30歳


〇相談内容

自分の家での行動を盗聴か盗撮されているのでないかと思い、相談。

ストーカーの可能性があるので、警察に相談したいが、ニュース等で何の被害もないと警察は相談にすら乗ってくれないと言うのをよく聞くので、先に証拠集めをしたくての依頼。

ストーカーかもしれないと思い当たる人は今のところ思いつかない。

なぜ盗聴、盗撮されていると思ったのかについては、そんな気がするという曖昧なコメント。


〇見積

実施工項目

室内電波点検(100KHz~4GHz)

電話機及び回線上電波点検

MDF、IDF、PBX点検

電力線搬送波点検

目視点検(赤外線発信機点検を含む)

埋蔵型マイク点検

埋蔵型盗聴器点検

で34~66平方メールで55,000円

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「ほほー」


「まー色々言ったが、全容としてはそんなところだ」


「まとめると、法明寺さんとしては、ストーカーの思い当たる人物も盗撮や盗聴もすべて具体例がなく本人の自作自演の可能性があると?」


「いや、これが一人暮らしの爺さん、婆さんならわかるが、一応、一人暮らしとは言え、それなりに社会とのつながりがあるだろ?もちろん仕事だけの人間関係で繋がっていて、仕事以外ではほとんど人間関係がない人もいるにはいるが、それだってコミュニティチャットとかあるだろうし」


「からの、奈々さん同席の調査なんですね」


「そういうことだ」


「いつから調査開始ですか?」


「今週末の日曜で依頼人とは調整させてもらっている」


「あのー」


「わかってるわかってる。嬢ちゃんも同席だろ」


「やったー。盗撮器、盗聴器調査の案件やるの初めてなので、参加したかったです」


「今回は、本当ただの同席だから予算はやれんぞ。大盗にも依頼するしな」


「わかってますよ。私を守銭奴だと思ってませんか?」


「思ってない思ってない。一応な」


 法明寺はたばこの火を灰皿で消して、デスクに戻る。暁美は最近の案件では自分の担当しているものもないし、今回の謎案件の概要情報をゲットできたので、このへんでおいとましようかと思う。


「それじゃ、私、特にやることもないし、帰りますね」


「おー、じゃあな」


 暁美が準備して、玄関口まで言ったところで


「あ、嬢ちゃん」


「はい」


「あ、なんでもない」


 暁美は、小走りで法明寺の元に戻る。問い詰める。


「なんですか?」


「あ、いや」


 暁美は耳に手を当てて、法明寺の顔に自分の顔近づける。


「やめてください。恋人同士の言いたいことあったけど、やっぱいいみたいなシュチュエーション。しかもそれやるの女の子のほうですからね。いいから早く言ってください。」


「いやいや、そんなんじゃねーから。もしかしたらだが、色々大人の事情が絡んでいたりする場合は、嬢ちゃん、この案件途中で絡むの無しな。って言おうと思ったんだが」


 法明寺は耳に手を当てて顔を近づけてくる暁美に一切の反応を示さずに会話を続ける。

 またきたこれだ。東野さんの事件以降、母が法明寺に会いに来てからかもしれない。厳密にいうと母が法明寺に会いに来る前に暁美が担当した事件は東野万理案件しかないのもあるが、どうも情報がすべて出てこなかった利することが多い。

 母と裏で内通して、この情報は暁美に出していいけど、この情報はダメとか言っているのではないだろうかが疑ってしまうほどに。


 暁美はちょっとムッとしつつ、目の前を仁王立ちでたち、


「え?なんでですか?大人の事情ってなんですか?東野さん時に思いっきり大人の事情で私も絡めてますよね」


「まー色々あんだよ。東野さんって。。。。。嬢ちゃん根に持っているのか?あれは大人の事情じゃない、男と女の情事だ」


「は!!何言ってんのこのエロおっさん」


 ニヤニヤしてドヤ顔する法明寺に、顔が赤くなってるんがわかるくらい顔が熱くなって、恥ずかしくなってしまう暁美。

 このおじさん・・・・・・。エロ言葉遊びしやがって・・・・・・。


「なんにせよ、途中で抜けるとか無理です」


「だろ?そういうと思ったんだよ。けど場合によってはそうなるかもな」


「いやいやいや、絶対無理ですから。私が逆に法明寺さんのストーカーしてでも無理ですから」


 全力で否定する暁美に法明寺は呆れるほうにため息をつく。


「まー、検討しておくよ」


「検討じゃないですよ。これは確定です。それじゃ、今度こそ帰りますよ」


 法明寺に指をさしながら宣言し、そのままフンフンと歩きながら玄関口に向かう。暁美。玄関口でもう一度。


「絶対ですよ。お疲れ様でした」


 玄関を閉めるタイミングでもそう言って玄関を閉める。

 この4ヶ月で法明寺の信用を勝ち取るくらいの助手としての仕事はしてきたはずだから、この間も確かに暁美にはちょっと荷が重いと法明寺には思われたような案件をならせてくれなかったこともあったけど、今回の盗聴器、盗撮器の案件は最初から付き人で予算の中に入っていないし、途中で外される理由が思いつかないから、絶対に食らいついてやろうと暁美は息巻いて帰っていった。

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