おじさんと嬢ちゃんのリアル調査探偵

帝尊(ミカドミコト)

第1話 出会い

「ほら、法明寺さん早く起きてください」


「うーーー、ふぉーーー、ふぁ」


 ゆさゆさ暁美に揺らされて起きる法明寺五郎。


 いつもこんな形で始まる法明寺探偵事務所。

 高校1年生の筧暁美は、朝起きて、母と自分の朝食を用意し、学校に行き、特に問題を起こすこともなく、特にすばらしい生成優秀な勉強をすることもなく、普通に5,6時限目までの授業を終わらせ、その足で、法明寺事務所に向かい、特に鍵も閉まっていない不用心な玄関を開けて、布団とソファとテーブルのセットとデスクが並んている1Rの部屋に入り、法明寺を起こす探偵事務所の助手女子高生。


 起こされた法明寺五郎36歳は、この法明寺探偵事務所を個人で営んでいる探偵。とあるキッカケで探偵になり、とあるキッカケで探偵業にやる気をなくし、うまいこと小遣い稼ぎをしながら生きていたが、暁美との出会いでまた探偵業を真剣にやっていくことになる。

 本人は、暁美がキッカケで探偵業を真面目にやり始めている気はなく、流れに身を任せている。


 そんな二人の探偵活動の物語であるが、普通に探偵事務所でアルバイトを応募し、普通に応募してきて、採用してきたような流れではない。法明寺にも暁美にも色々な紆余曲折があり、その中での今がある。


 話は遡る。


 暁美が法明寺探偵事務所に飛び込み応募をする。

 理由は高校生もアルバイトで採用してくれるような稀有な探偵事務所はどの求人情報をみても見当たらなく、だったら個人事務所に飛び込みでお願いしちゃえと大胆不敵な暁美の行動から始まる。


 法明寺探偵事務所


「これ、、、、、マンション?!」


 と呼ぶにしてもら少し褒めすぎているのではないかと思うくらい陰湿な空気を纏ったマンションかビルかわからない建物。

 暁美の家と学校の行動領域にある探偵事務所をきょろきょろ見ていたら看板を見つけたので、着てみました。というレベル。

 個人事務所なのでちゃんとした雰囲気は期待こそしていなかったものの、一旦マンションと呼ぶ事にしたその建物に、暁美は恐る恐る入っていく。

 マンションの入り口に入るとポストが並んでいて、名札を見る限りだと普通に人が住居として使っている感じでなく、会社名が色々並んでいたので、仕事するようの事務所のマンションなんだという事は理解できた。

 事務所?部屋?の入り口まで来て、暁美は少し躊躇する。

 不安しか感じられないけど、きっとここで帰ってきちゃったら後悔しか残らないと思う。


 やらない後悔よりやった後悔のほうがきっと納得感があるはず。


 深呼吸して、南無三と心で叫び、ベルを鳴らす。


 ・・・・・・


 何も反応がない。


 もう一度ベルを鳴らす。


 ・・・・・・


 反応がない。恐る恐るドアのノブを動かしてみると、


 扉が開く。


 もしかして誰もいないのかな?だとしたら不用心極まりない。それでも先に進むべきだと自分に言い聞かせて暁美は扉を開ける。


「すいませーん」


 反応はない。


「失礼します。相談内容があってきました」


 扉をあけて、廊下がありトイレか洗面所と思わしき扉が右サイドにあり、左サイドにシンクがある。1LDKか1DKかもしくは1Rか。

 ゆっくり忍び足で廊下を歩き、奥にある扉を開けてみる。なんか潜入しているような感覚もあり、少しドキドキワクワクもある。


 開けた扉のの先にある世界は


 ただのゴミの山の部屋だった。。。。。


 ・・・・きたない。これが事務所??


 色々見回すと正方形の10畳くらいの広さで1Rとしてはそこそこ大きい方かもしれない。

 勉強机のような机と椅子が組み合わせが左手前にあって、対になっている右のスペースに商談用のソファとテーブルがある。

 テーブルにはビールの空き缶が積まれている。さらにその奥もゴミらしきものに溢れていて、よくよく見てみるとそのゴミの中に布団のようなものが置かれていて、その上でイビキかいて寝ているスウェット姿のおじさんがいる。


 うわー。この時点で相当アウトな気がするけど、、、、、ここまできたらトコトン行ってやろう。

 暁美は自分の中ので何かタガが外れたかの様に、その寝ているおじさんの側まで行き、ゆさゆさゆらして起こし始める。


「すいません、すいません」


 ゆさゆさ揺らしながら声をかける。いきなり襲われたら金的入れておくか。等とどうでもいい妄想をしながら一応厳戒態勢で起こす。


「ぐがぁぁぁ、ぐ、ぐがぁぁ、あ!!」


 起こしたおじさんはパチっと目を覚ます。しかし、酒臭い。

 ゴミ部屋で空き缶やゴミに囲まれて酒臭くていびきを掻いているおじさん。最悪だ。


「あ!!、お前誰だ?」


 目をバシっと見開いて、暁美を凝視するおじさんは不機嫌そうに、問いかける。


「初めまして。相談があってきました。ベルは鳴らしたんですが、反応がなかったので、勝手に入ってきちゃいました。相談することは可能ですか?」


「あ、あー、依頼ね。大丈夫。ちょっとだけ待ってな」


 そういうとおじさんはゆっくり体を起こし、大きなあくびをして体を伸ばす。ふわーーーーーっという音も聞こえてくる。


 起きたおじさんは、頭をボリボリかきながら寝ぼけ眼で暁美の顔をじっくりみながら


「とりあえず、ソファに座りなよ」


 と案内を始める。





 勝手に入ってきた事に対して、何も言わなれないのは、暁美は自分でしていてなんだが、中々受け入れがたかった。

 この人は、こういった環境にもしかしたら慣れているのかもしれない。修羅場くぐりすぎなのかもう人間として終わっているのか。


 おじさん、暁美とお互いが向かう様な形でソファに座る。


「っで、依頼内容ってなんですか?こういったところに何かを頼む時ってそこそこお金かかるの分かります?予算ありますか?なかったらなかったでそれでもお願いしたいなら稼ぎ口を紹介してあげてもいいけど」


 あくびをしながら、頭ボリボリかきながら、しれっと怪しい事もいうおじさんに、暁美は疑心暗鬼しかなかったが、ここまで踏み込んでしまった船である。とことん攻めてやろうと思う。


「実は、相談事というか、依頼したいというよりは、私、探偵になりたいんです。だからここで修行させてもらないですか?」


「は?何言ってんの?お前さん、そもそもいくつよ」


「私、16歳の年で高校一年生です」


 はぁーと呆れた様な顔をするおじさん。


「高校一年生の花のJKが、なんでまた探偵なんかやりたいのさ?お金稼ぎたいなら他に色々あるだろうに」


 JKって・・・・・・。

 お金に結びつけようとするおじさんの考え方にちょっとイラッとするところはあるが


「私、子供のころに探偵さんに助けてもらった事があって、その探偵さんが憧れなんです。だから将来は探偵業につきたくて。

 だからアルバイトできる年齢になって、探偵のお仕事を探してたんでけど、色々ネットで調べていても年齢制限とか出勤制限とかもあって中々いいところを見つけられなくて」


 暁美が自分の探偵に対する思いと過去の話を勇気を振り絞って伝えてみると、明らかに馬鹿にしたような顔つきでおじさんは少しだけテーブルに片腕を置いて身を乗り出してくる。


「探偵に助けてもらったって、いつくらいの話だよ。探偵にできるのは調査して真実を明らかにする事で人を助けたりすることじゃない。

 嬢ちゃんが助けられたと思ったのは、嬢ちゃん自体が結局助かる事を望んでいたからであって、その探偵はその情報を提供しただけに過ぎない。

 人を助けたい職業につきたいんだったら福祉とからボランティアをやるんだな」


 暁美のような考え方を持っている人を嫌っている傾向があるのか、探偵に対してのポジティブな発言をしたつもりが、おじさんには気に入らなかったのか、ネガティブな話を突きつけてくる。

 仮にそうだったとしても、おじさんがそういう考えで仕事していたとしても暁美の思い出までを汚す必要はないんじゃないかと思ったけど、ここで反論してもしょうがないので、黙って聞いておく。おじさんは、お前さんから嬢ちゃんへと呼称も変わり、洗礼とも言える絶望的な応対をしてくる。


「あの、お名前を聞いてもいいですか?」


「あ、俺?法明寺五郎。っでここは法明寺事務所な。何にも知らないで嬢ちゃん、きたの?そもそも色んな興信所があるのになんでウチを選んだのさ」


「それは・・・・・・」


「直感です」


「直感って・・・・・・」


 しょうがない奴だなと心のなかで思っているのが態度に出ている様な呆れた表情をした法明寺は、テーブルにあるたばこを手に取り、たばこを吸い始めめる。


「まー嬢ちゃんが幻想に駆られて探偵をやりたいのは、俺の知ったこっちゃないけど、探偵に対してドラマとか漫画でみるようななんとか事件簿を期待しているのであれば、一応、それは幻想だぞ。あと追加で言っておくが人手は別いらん。俺は俺ができる範囲内でしか仕事をするつもりがないから」


 暁美を突き放す様に言い切る法明寺であったが、ここで諦めるくらいなら、こんなゴミ部屋に突入なんかしない。

 言葉の端々で探偵に幻想を抱くんじゃないと言いたい法明寺の真意は汲み取れたが、手伝いたいということに対して、全面的に否定されているように暁美は感じなかった。


「だったら出来高はどうですか?私も学校があるからアルバイトの身ですし、出来高で私が担当した仕事で報酬がもらえるなら法明寺さんも損はないはずです」


 暁美の中での一番の最終カードはこれである。

 そもそも求人を探していて、高校生のアルバイトを受け入れてくれる様なところはなかったし、大手の探偵事務所であれば、そもそも面接で代表の人と直接やりとりすることもできないだろうから、常識外のお手伝いを提案する事自体が通らなかったと思う。

 そういった意味では、今のこの探偵事務所、探偵業本当にやってるの?とツッコミたくなるような環境であるけど、目の前の人がOKと言えばすべてOKになるだろうこの環境で使うカードとしては一番いい効果を発揮すると暁美は信じてた。


「出来高か・・・・・・」


 たばこを吸い終わり、ボケーッと天井を見ながら、その間1,2分。沈黙が続く。

 法明寺は、頭の中で電卓を叩き、女子高校生を雇うメリットとデメリットを色々想像した結果。


「いいだろう。出来高で雇ってやる」


 やった!!

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