第1話処女の初恋

私は、なんの変哲も無い女子高生だった。

名は「椿 日向」という。

強いて言うなれば、県内トップクラスの私立高校に通っていること。

キリスト教の高校だった。

だけど、その学校でも、別に成績が飛び抜けていいと云うわけでは無い。

一応、レベル別で、2つに分けたクラスの上クラスに居るというだけだった。

K大学の医学部志望であったが、現役突破は難しさを感じさせた。


容姿は、悪く無いとは自分でも思うが、

「華」が無いというか、地味なのか、

クラスでも目立つ方ではなかった。


そんな私は17歳の時に、秘密を作る。

通って居る個別指導塾のアルバイト講師に

恋をした。

名は、「橋田 友和」という。


初恋の人となる男だ。


私の第一志望K大学の現役医学部4年生だった。

その大学の医学部は、全国的に見ても

五本の指に入るという高偏差値を誇っていた。


人並外れた知性と、自信に満ち溢れた話し方と、端正な顔立ちと、大人の落ち着きが第一印象であったことをはっきりと覚えている。


私はその人への敬慕が恋に変わるのを、

17歳の夏に感じた。


橋田の方も、私の好意に気づいたのか、

橋田は連絡先を私に渡してきた。

私は舞い上がって、彼とは毎日連絡を取り合った。


初めての好きという気持ち、

恋をしている自分。

全てが輝いていた。


あのまま美しい思い出で終わっていたら、

今の私は違っただろうか?


いや、変わらないだろう。

どうせ、私は男に裏切られる道を歩いていた。


私たちは、付き合うことになった。

17歳の冬のことだった。


橋田は、隣の県から下宿しているそうで

一人暮らしだった。


ある日、橋田から、「良かったら、僕の家に来ないかな?」と、優しい口調で言われた。


付き合って1ヶ月、2ヶ月というほどだった。

私は分かっていた。

大人の男性の橋田が、何を考えているのか。

橋田の家に行ったら何が起こるのか。

それでも私は橋田にカラダを赦した。

好きだったから。抱いて欲しかったから。

早く、大人になりたかったから。


それが私の初めてだった。


橋田の、行為は長く、執拗だった。

避妊具は使わずさせられた。

雑誌に書いてあるほど気持ちよく無かった。

私のはズキズキと痛んだ。

そして、中で、射精された。

私も彼もリスクを知らなかったわけではない。

押さえつけられ、

強制的に中出しされた。DVにも入る行為だ。

終わったら、素っ気ない態度だった。

話しかけても面倒臭そうだった。

私はこんなものかと泣きそうになった。


「男は本能的にそうできているんすよぉ!

賢者モードは放ってもらいたいっすよ!」と

バラエティ番組で男性の芸能人が豪語していたのを思い出した。


「あゝ、そうですか。そんなものですか。

一生に一度の、女の純潔を男に捧げても、

返ってくる言葉は本能ですか。本能で私を抱いて、本能で包み返すのですか。」と思った。

初めての男との思い出はそんな風に終わった。


私はこの橋田おとこの為にカラダもココロも捧げたのだ。


正しかった?処女を捧げるのに

橋田かれは相応しかった?


私は家に帰り、丹念にシャワーで私の中に放たれた精液を指で掻きだしました。

私の涙もドロリと溢れて、浴室の排水溝に

サラサラと流されました。


数週間後。

「生理がこない。」

まさかと思いました。

きっと疲れているのだろう。

でもまさか。確かに中で出されたけど。

でも、きっと大丈夫。

まさか安全日だったし。

いやでも……。

頭の中でグルグルと、思考が回っています。

もし、もし、身籠っていたら?

私は??お母さんになるの?

そんなの考えてもいなかった。

高校も辞めさせられるだろう。

というか、親からの叱責は?

呆れるだろうか?

産まないという選択肢は?

そんな…



ガタガタと躰を震わせて、私は橋田に電話をかけた。


「もしもし…?」


「なに?今忙しいんだけど?」

私を抱いてから橋田は優しさを失って行った。

私は関係の破綻おわりを何回も感じたことがあった。


それでも、

「ごめん…、私ね、この前から、生理が、生理がこっこないの…」


涙を流しながら言った。


「は?妊娠したのか?」


「分かんないの…怖いよ…もし妊娠してたら?友くんど…」


「はぁ…面倒くせえな。」

私の言葉を遮って言われた返事。

今でも耳にシッカリと焼きつくほどに。

「面倒くせえな。」

「面倒くせえな。」

「面倒くせえな。」


「友くん…?」


「取り敢えず結果わかったら報告して。

友くーん!もうずっと電話!長いよ!

ごめんごめん優香!じゃ、また。」


優香?だれ?友くーんって呼んでた?

あれ?優香っていう女の人と一緒だった?

よね?あれは彼女?

あれ?私って橋田のなんだったの?


それから、私と橋田の連絡は途絶えた。



_________________________________________

私の学校は、キリスト教育をしていて、

宗教という授業があった。


「アダムは、前妻のリリスが思い通りにならないので、別れたその後、不憫に思った神が、アダムの理想の女性をアダムの肋骨から作り上げたのです。それがイブです。」

ということを聞いたときに、私は少し腹をたて、疑問を抱いた。


でも、今ははっきりとわかる。

おんなたちは、男の思うがままの姿で生きていなければならないのか。

男ありきでしか、女は生きていけないのか。

男の一部として、男のカラダを一生支えていくのか。


私は橋田という男の肋骨イブだったのだなぁ。


『玩具の女』『ヤリ捨て』『都合の良い』

『手頃な』『チープ』『穢れた』そんな烙印が体中に押しつけられた。

お似合いだ。こんなわたしにはお似合いだ。


17歳の高校三年生に進級する頃だった。


妊娠検査薬を一人で買って、泣きながら自宅のトイレで調べた。幸いにも陰性だった。


けれど、橋田からの追い討ちはまだあった。










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