カエルのお話し

冷凍氷菓

本を開く

本を開く、どこかの誰かが書いた物語を読みながら私はここではないどこか別の場所にいる。

 静かな部屋で誰もいないが外からは雨の音がしとしとと聞こえる。丁度この本もそんな雨の日のことが書かれていて、本と私はそこでリンクする。

 歴史物は私の心を何処か暗闇に連れて行くから嫌い。歴史は本当のことで私にとっては生々しく感じる。そんなことは私は求めてない。私は私の居場所が欲しかっただけだ。現実からの逃避をしたかった。

 学校へ行くのを私は嫌って、家に引きこもるような生活。それでも私は自分の居場所、本の世界があれば生きていけると思ってる。現実は味気なく感じる。事実は小説より奇なり。誰かがそんなこと言っていたけれど、私からするればそんなことはないと否定できる。実際十六年間生きてきた中でそんなおかしなことなんて、ワクワクする事なんて一度も起きてないのだし。

 雨は降り続いていて、窓にも水滴がついている。

 学校を行くのが嫌だと言った時、両親は否定も肯定もしなかった。ただ「好きにしろ」というだけで、私はその通り好きにしたのだけれど。本心は行ってほしいのだと思う。

 一ページめくる。

 「辛いなら言葉に出してみなよ。溜め込んでいては身体にだって毒だよ」

 別に行きたくない理由なんて無い。別に行っても良いと思ってる。だけど、だけど。行けない。行ってもいいと思っているのに。

 今日だ。四月八日は。去年の今頃、行けなくなった。

 一ページめくる。

 「僕はね。君みたいな人間が大嫌いだよ。本当に思っていることを隠そうとして、上辺だけで生きている人間がね」

 仕方ないじゃない。そうでもしないと私は壊れてしまいそうなのだもの。本だけが私の居場所だし、私をそっと受け入れてくれたんだよ。

 去年の春。ちょっとしたことが今に至る原因だった。私が悪いんだ。自業自得なんだ。

 一ページめくる。

 「カエルは伯爵に呼ばれて、屋敷へと向かいました。しかしそれはカエルを陥れる罠だったのです」

 私にもカエルのように他人を想える人間だったらきっとこんなことにはならなかった。

 陰口は私の得意な分野でいつも一人が居ない時一人の悪口を言って、もう一人が居ない時はもう一人の悪口を言って。ほぼ全員の悪口を言ってたことに私自身も気が付かなかった。

 一ページめくる。

 「僕はやっていない。どうして僕を疑るんだ。今までの私の行いを見てくれれば分かるだろ?」

 また、前みたいに学校に行ってみんなと話せたら今度は上手く話せると思う。確証は無いけどたぶん話せる。

 一ページ

 一ページ

 一ページ

 「カエルは自分を疑った者に対して復讐を誓いました。やさしかったカエルの面影はどこにもありません。感情に支配されたカエルはもう生きられないのです」

 雨も上がってきて、夕日も差してきていて後は二、三行で終わり。一つの世界は終わる。

 「カエルは復讐を果たし、すべての人を殺してしまいました。カエルはの残された使命は唯一残った一人の命を奪うことでした」

 私はこんなカエルにはなりたくない。カエルは変わった。四月八日。私も変わった。四月八日に。明日は四月九日なら変わった私で学校に行くべきなのだろう。

 今度はカエルの分までカエルが果たそうとしていた善を受け継ぐしか無い。

 私は本をそっと閉じた。私の心を動かしたのは両親でもなく私でもなく。どこかの誰かが書いた物語だった。

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カエルのお話し 冷凍氷菓 @kuran_otori

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