空き地

櫻庭 春彦

行く道

午前7時45分。

市立第二中学、2年生の新名にいなは、家を出た。

通学路には、非日常な日常が転がっている...と思っている。

街路樹の根元のタンポポも、空き地のスミレも、

誰も見ていないなら、俺が独り占めすればいい。

見逃される季節の移ろいは、きっと俺だけにその恩恵をもたらすのだ。

せわしない日常にいろどりを落とし、それはきっとすぐに消える。

その木に柿がなることも、目に映ってもきっと見えてはいないのだ。


門の前で先生とあいさつをし、昇降口で靴をかえ、階段を上り、教室の戸を開ける。

午前8時6分、いつもどおりの朝。

そこかしこでささやかれる今日でなくてもよい話題。


――俺はこうして、見逃される朝をはじめる。


1時限目の国語は担任の、通称”子守唄ボイス”で時をながす。

ノートをとる手は睡魔に襲われ、まぶたは重力に耐え切れない。

窓から見える景色は穏やかそのもの。

時折そよぐ涼しい風は、睡魔を応援しているようですらある。

うとうとしながらやっとの事で1時限目を終えると、その日はあっという間だった。

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