そこにしか咲かない花

黒川 香史

第1話 春が運んできた君に

4月・・・始まりの季節



170cmを超える長身に真新しい制服を見にまとい、少し焦った様子で髪を整える。



支倉はせくら美咲みさき。今日から高校生。



元々人付き合いが得意ではないが、長身とそれを引き立たせる整った中性的なルックス・冷静な性格が好まれ友人は自然と周りに集まってくる。






私立 咲園さくぞの学園は小中高一貫教育の歴史ある伝統校である一方、比較的自由な校風であるため多種多様な生徒が在学していることで有名だ。



通勤通学で混雑したバスに揺られ、思わずその心地よい振動で眼を閉じてしまいそうになる。



「おーい。そのまま天国行きですかぁデカ女(笑)」



聞き覚えのある声



皮肉たっぷりの言葉が放たれた方向へと思わず手が出る。



「うっせぇよ・・・この短小が」



いつもの要領で軽く胸ぐらを掴み、冷めた顔で声の主を威嚇する。



「相っ変わらずサキ様はかっこいいねぇ」



馴れ馴れしい態度のこの男



顔は俗にいう「イケメン」の部類に入るだろうか。



身長は美咲よりも少し高い。



無造作にクセづけされた茶髪に着崩した制服・・・いかにもチャラついている。



——— 若生わこう龍一りゅういち ———



美咲とは幼稚園の頃からの腐れ縁である。



龍一が美咲をからかうのはもはや日常の自然な光景であり、10年ほども続いてきた。



「高校って中学と違って自由だし最高だよなぁ~」



「お前何しに高校行くんだよ(汗)」



「遊んでぇー遊んでぇーちょい勉強的な??」



「・・・・(呆)」






くだらない会話をするうちに時間はあっという間に過ぎていく。






—— 次はー咲園学園前ーーーお降りの方は ——






2人は揃ってバスを降り、花壇に美しい花が咲き乱れる学園へと吸い込まれるように足を向ける。



新たな学生生活への希望と不安



性格は全く違えど2人の抱く感情は同じであった。





校門をくぐるとそこには色とりどりの花々に囲まれれ、伝統を感じさせるような独特の雰囲気を放つ校舎が建つ。



「オープンスクールで来た時も思ったけど・・・やっぱこの雰囲気いいなぁマンガみてぇじゃね?」



新たな環境に興奮した様子の龍一に



「・・・そうだな」



爽やかに微笑む美咲。






——— 清々しい風が吹いている———






と、次の瞬間



「いやいやいぁぁぁぁぁ!!!絶っっ対無理ぃぃぃ!!!!」


甲高い叫び声が聞こえて来たとほぼ同時に物凄い衝撃が美咲を襲う。



ドサッ・・・



「・・いった・・・」



倒された美咲。その身体の上には黒髪をなびかせた美少女がまたがる。



「サキ!大丈夫かよ!?」



慌てて龍一が駆け寄ってくる



美咲は思わずその少女の美しさに魅入って言葉が出なくなった



美咲が今までに出会ったこともない、何やらわからない恐怖さえも感じてしまうほど顔の整った美しい 少女である。




「ちょ・・・どいて・・・」



起き上がろうと声をかけると途端に少女は自分の顔を美咲の顔に近づける。


美咲の顔をまじまじと見つめる少女は顔を真っ赤にして瞳を輝かせる



咲花さきか!!!」



誰かはわからないが誰かの名前を大声で叫んで駆け寄ってくる


「いや!!!来ないで咲也さくやお兄様っっ!!!!」



馬乗りのままで少女は叫ぶ



咲花とはどうやら彼女の名前らしい。



「今日から咲花は高校生なんだぞ!きちんと高等部のしきたりに従ってもらわないと!!」



咲花という少女の兄という咲也という少年


さすが兄妹といったところだろうか。

背は高いが童顔。妹に負けず劣らずの美少年である。




咲斗さきとは僕の運命の人じゃないもの!!!」



「もう決まったことだ!咲斗くんしかいないだろ!!」




美咲は咲花にまたがられたまま、ただ、その兄弟喧嘩?を傍観している。


言っている意味が全く理解できない。


龍一に至っては飽きてもはやスマホをいじりだす始末だ。





「・・・僕、決めたんだから!!!」



そう言い放つや否や咲花は美咲の頬に手を当てる




美咲は唇に桜の花びらが落ちるような感覚を覚えた




美少女の花びら舞い落ちるようなやさしい口づけは美咲と咲花の運命の契約の始まりであった。

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そこにしか咲かない花 黒川 香史 @kurokawa_tohoku

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