冥王星で待ってる

倉野 色

冥王星で待ってる

prologue『終着点』

 ──けたたましい警告音が、船内に鳴り響く。突如として、その揺れは船内を襲った。


 私の身体は平衡感覚が保てずに横転し、そのまま船体の傾きにならって、部屋の隅まで流れるように追いやられた。

 同じようにして、後から流れ込んできた段ボールの山は、大きな音を立てながら傍の壁に衝突し、中に詰め込まれていた大量の資料を、床中にばら撒いた。


 怒号。泣き声。 たくさんの人が駆け回る靴音に、何かが倒れて割れる音。

 平穏で退屈そのものであった船内は、一瞬にして地獄と化した。

 この船──宇宙船〈ワルフィス〉は航行中、原因不明の機能低下を起こし、通りかかった見知らぬ星へと急降下を始めていた。


 機体の揺れは、時間が経つにつれて激しいものになり、やがて大きな破裂音と共に、機体は放射線状の火花を散らして燃え上がった。

 どこかで火花が上がる度に、一際大きな揺れが船内を震わせる。


 火花はやがて船全体を飲み込むように燃え上がり、火達磨ひだるまになった船体は、惑星の地表へと向けて一直線に急降下し始めた。


 重力に押し潰されそうになりながらも、寸のところで意識を保ち、私は艦内を見渡す。


 足元には先ほどの資料が散乱しており、廊下わきに置かれていた観葉植物は一つ残らず鉢ごと横倒しにされていた。そして、それらに紛れるようにして、同乗していた乗客達が点々と横たわっているのが、この場から見て取れた。


 警告音と共に廻るパトランプが時折、彼らの横顔を赤く照らす。どれも、血にまみれていた。

 近くに、私以外の生存者は確認できなかった。


 頭痛と、眩暈めまい。 湧き出ては額を伝う汗。

 私は、壁に背中を預けて座り込んだまま、静かに目を閉じる。


 ──薄れる意識の傍らで、誰かが呼ぶ声を遠くに聞いた。

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