廃工場


はぎれ「うっ………!!!ぐああああ!!!!なんで!!!なんで開かないの!!!!開いて!!!開いてよ!!!!じゃなきゃみんなが!!!!」


厚さ10cmは下らない鋼鉄のシャッターは、はぎれの手によってひしゃげ、地面から数10cmの隙間を開けていた。

だが、そこまでだ。

それを自らに投与したはぎれは、痛みを感じない性質を利用した怪物じみた力を1分と少し、得ることが出来る。

痛みを感じないということは、脳から体に発せされる危険信号を感じないということ。

つまり、人間が知らずのうちにセーブしてる力をはぎれは100%、またはそれ以上出すことが出来る。もちろん、そんなことをしたら体の方がもたないが、薬による代謝の上昇量は50倍を超えており、折れた骨はすぐさま治り、断裂した筋肉はその場で癒着する。


そのはぎれでもやはり、20m×20mの分厚い鋼鉄のシャッターは開けられないでいた。


廃工場の地下で、唯一出口に繋がるそのシャッターの背後には自殺部隊の面々がいた。


巨大な体育館のようなこの空間には、もちろんバスケットのコートもゴールもない。

あるのは絶望だけだった。


身体のあちこちを弄られ、人としてのカタチを保てなくなった異形者が、およそ46人----いや、匹か。---が、ただただを求めて迫ってくる。


自殺部隊員の1人、骨は、彼らを他人とは見れないでいた。しかし同時に、自分はこんな奴らとは違う。そう思いながら、何度も何度もマガジンを変えている。


骨「(間違いない……こいつらはmonster細胞の…」


ぴの「…!あぶない!」


突如、集団の中から恐ろしい速度で突進してきた異形者に骨は気づけなかった。

長く鋭く、変異してしまった腕と爪を骨に向かって高速で振り下ろす--

しかし、すんでのところでその腕は弾かれ、すかさずサイドアームのXDMを早打ちの要領で頭に2発ぶち込む。

蟷螂が放った弾丸が間一髪骨を救った。


骨「---ッッ!!」


礼をいう間もなく、次の波状攻撃がくる。


蟷螂「駄目だ!!!もっと抑え込め!これ以上シャッター側に、はぎれに近づけさせるな!!」


ぴの「くっ……でも先生!もう、はぎれさんの時間が!!」


はぎれ「うううああああ!!開いて!!!開いてってば!!!!もう、薬が!切れ--」


糸を失ったマリオネットのように、咆哮を上げていたはぎれは死んだかのように倒れた。


3分間。


人間の限界以上の力で、仲間を守るための退路を作ろうとした彼女の身体は、内蔵も骨も、ズタズタだった。

しかし、弩級の鋼鉄シャッターの下部は、とうとう1mほどの歪みが生まれ、その向こうの空間が見えていた。


すぐさま、はぎれに殿が駆け寄る。彼女は喉を潰されてしまったが、今この場では誰よりも動ける。はぎれを引きずるように、シャッターの下をくぐり抜ける。

蟷螂とぴのと骨とちひろが、命を賭して稼いでくれた時間で、殿はを運び出さなければならない。


あまりに無残な仲間達を、しかし気丈にも殿は立ち上がった。みんなを、救うために。

必ずみんなを保健室に連れ帰ると誓って、立ち上がった。







----そして、彼女のすぐとなりに、ちひろの左腕だけが落ちてきた。

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