ペンギンアイドル・ラブマスター!
ゆきまる
第1話 ふたつのぺパプ
注意!
※本作品は、イワトビペンギン役、 相羽あいなさんを過剰にリスペクトした内容となっております。なので、作中での扱いに関しては多少、大目に見てくださいますよう、お願いいたします。
アイドルは今日もスポットライトを浴びて、ステージで輝く。
客席から絶え間なく沸き起こるコール&レスポンス。
舞台に立つペンギンたちは、いつもと変わらぬパフォーマンスを見せていた。
「き、今日もみなさん、最高、最高ですぅ! うぇへへへへへ! あひゃ、あひゃひゃひゃひゃひゃ!」
舞台袖で五人を見守る、ネコ科のフレンズ。いささか常軌を逸したような言動が見られるが、れっきとした
彼女の名はマーゲイ。ペンギンアイドルの熱烈なファンであり、その知識と経験を買われ、専属のマネージャーとしてスカウトされた異例な経歴を持つ。
すぐ近くでアイドルたちの躍動する姿をじっくりと観察できる。彼女にとって、これ以上の天職はなかった。本日も圧巻のステージで『大空ドリーマー』を歌い上げ、PPPが引き上げてくる。
「み、みなさん、お疲れ様でした!」
暗幕の裏手でメンバーを迎え、用意したタオルやミネラルウォーターを手渡していく。これから、PPPのみんなは反省会と次回の公演に向けての打ち合わせを行う。
その間、ステージの準備や小道具の調整を済ませるのがマネージャーである彼女の主な業務だった。
「あ、あれれ?」
舞台へ上がろうとした瞬間、会場にまだ多くの観客が残っていることを気がついた。
(おかしい。もうアンコールは終了したはずなのに……)
運営スタッフと連絡の行き違いが起きているのだろうか? 心配になって近くの大道具担当に声をかける。
「あの……。もうライブは終わりですよね? PPPのみなさんも控室に戻ってしまいましたけど」
マーゲイの言葉にスタッフの顔色が急変する。
舞台上での失敗など芸の道に生きる者には決して許されない。
「え? で、でも、このあとに階段せり上がりでP・P・Pが登場することになってますよ!」
そのような演出はゲネプロでも確認していない。
一体、何がどうなっているのかサッパリわからないうちに、またしてもステージで変化が起きた。舞台を照らしていたメインライトが落とされ、絞りの入ったスポットのピンライトと舞台下からのアップライトだけが残される。会場に設置された大容量のスピーカーからアップビートなリズムでテンポを刻む、ダンサブルなサウンドが大音響で流れ出した。
「ちょっと、マーゲイ! ステージで何が始まってるのよ?」
異変に気づいたPPPのメンバーが慌てて舞台袖にやってきた。
彼女たちも現在の状況は一切、預かり知らぬようである。
このあと一体どうなるのだろうか?
みなが固唾を呑んで見守っていると、いきなりステージ全体にすごい勢いでスモークが
続けて、スポットライトが舞台中央に作られた階段状のセットを舐めるように動いていく。二本の光が不規則に運動したあと最上部の二箇所に固定された。
さらに特殊音響によって激しい爆裂音が会場を包み込む。
その瞬間、セットの内側から、ふたりのペンギンアイドルが突如として姿を現した。
よくわからない人のために一言で説明すると、生ハムメロンである。
「だ、誰なの! あれは?」
観ている者すべての視線が舞台上の新たなペンギンアイドルに注がれる。
「ジャ、ジャイアントペンギンさん!」
スポットライトを浴びるなぞの人影。その正体にマーゲイがいち早く気づいて名前を呼び上げた。
小柄な体に長く伸びた長い髪。にも関わらず、どこかただよう大物感。
間違いない。彼女こそ一時はまぼろしのPPPメンバーと呼ばれたジャイアントペンギンであった。
あとひとり、かたわらに立つ見覚えのないフレンズ。
背恰好や衣装はどことなくコウテイに似ている。
ふたりは階段を駆け下り、舞台の中央に降り立った。
音楽が切り替わり歌声とともに見事な振り付けを披露する。
完璧である。
歌、踊り、パフォーマンス。すべてが高次元でまとめられた驚くべき新星の誕生であった。
演奏が終わり、プレーヤーの動きがステージ上で止まる。途端に客席から怒号のような歓声が巻き起こった。
手を上げて、その声に応じる。一瞬にして彼女たちはスターダムへの仲間入りを果たした。
「あ、あなたたち! 一体、何者なの?」
舞台端からマイクを握ったプリンセスが飛び出してくる。
見ている側からすると手の込んだ新人紹介のような感じだ。
少し距離を置いて、PPPの残りメンバーも舞台に登場する。
さあ役者はそろった。
「おお、こわいのぉ。そんなに目くじらを立てる必要もあるまい? 同じペンギンアイドルだ」
ジャイアントペンギンがごまかすような口調で答える。
「ジャイアントさん。本当に何が目的なの? PPPは、わたしたちが正式に三代目となったはずよ」
「ん……。なんのことかな?」
ますます怪しいジャイアントペンギンの声。
「とぼけないで! さっきスタッフさんから聞きましたよ。ペパプを名乗ってライブに参加していたんじゃないですか!」
「ああ、それか。いやいや、別に悪気があったわけじゃない。運営が勘違いしただけだよ」
相手の言うことがわからない。
困惑するプリンセスに、もうひとりのペンギンアイドルが理由を話した。
「われわれの正式な名称は
「ペンギン・パーフェクト……。って、あなたはどこの誰なのよ!」
唐突な語り口に強く正体をただす。問われた方は自信に満ち溢れた態度でみずからを名乗り始めた。
「わたしか? ふふ……。われはキングペンギンの『オウサマ』。ペンギンアイドルの頂点に立つものだ。わたしが現れた以上、すべてのアイドルは過去となる。それはPPPとて例外ではない……」
雰囲気たっぷりに堂々と宣言する。どこか中性的なハスキーボイスに客席からさっそく嬌声が上がった。「オウサマ、支配してー!」という、悲鳴にも似た応援が会場にこだまする。
いつか自分が口にしようと密かに温めていた名セリフ。先に使われたコウテイがその場で気絶した。
「というわけだ。PPPとP・P・P。ここはひとつ、どちらがペパプを名乗るのにふさわしいか勝負しよう……。そうだな、明日のステージでより客席の拍手を多く受けたほうが勝ち。というのはどうだ?」
「な、何を勝手なことを……」
ジャイアントペンギンの申し出にとまどうプリンセス。勝ち気な彼女にしては珍しい反応。想定外な出来事の連続に、どうやらあせりを感じているようだ。
このようなときこそマーゲイの出番である。誰よりもペンギンアイドルに精通した彼女であれば、こうした事態にも冷静に対処してくれるであろう。
期待を込めて舞台袖を振り返る。
「す、すごぉい……。ペ、ペパプがふたつで、俺様キャラのオウサマさんが……。うへ、うへへへへへへへっ! あひぃ……」
鼻血を流して卒倒していた。
マーゲイはペンギンのアイドルが大好きなのである。良くも悪くも三代目PPP一筋というわけでもない。そこに新キャラの登場やライバルグループとの対決といった王道の展開が始まれば、興奮のボルテージはあっさりと限界を超えてしまう。
だめだ、こいつ……。
「というわけで明日のステージを楽しみにしているぞ。それではな……」
言い残し、観客に手を振りながら反対側の舞台袖へと姿を消していく。
その背中を追いかけるように舞台上から熱い眼差しが注がれていた。
波乱が起きようとしている。アイドル下克上時代の訪れであった。
みずべちほーステージ周辺の広場。
空には月と星がわずかな明かりを灯している。
P・P・Pのふたりは広場のベンチで体を休めていた。
オウサマが片端に座り、ジャイアントペンギンがその太ももを膝枕にして寝っ転がる。
「ジャイアントさん……。練習はしなくていいの?」
手元にある頭を撫でながら、オウサマが問いかける。
目を閉じて、なすがままにされながらジャイアントペンギンは短く答えた。
「人を待っている……」
「ひと……。それは誰?」
さらに重ねて訊くオウサマ。顔を覗き込んでいるとジャイアントペンギンの瞳がゆっくり開いた。
体を起こして正面を見据える。
広場にしつらえられた外灯。明かりの下に新たな人影が浮かび上がる。
「遅かったな……。ずいぶんと迷っておったか?」
「も、もしかして、わかっていたのか?」
相手が驚いたような表情を見せる。予想通りの反応にジャイアントペンギンがつい笑い声を漏らした。
「ふふ、ステージの上であれだけ情熱的な眼差しを向けられるとのぉ。お前は一番のアイドルになりたいんだろ? だったら、わたしたちの仲間になればいい。簡単な結論だ。なあ…………イワビー」
光の中にイワトビペンギンの姿があった。
つづく
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