3.狼は子羊とともに眠る

「帰ってから話します。ですが今は、何も聞かないでください」

 わたしは台所に立ち、フライパンをゆすっていた。


 今日はアルバイトがない。

 人狼である島崎さんは、満月の前後にお休みをとる。

 どうやらどこか遠くに行っているらしい。そこで何が行われているのかは、よく知らない。


 キャベツをしょうゆとにんにくで炒めたものと、ゆがいた肉にポン酢をかけたもの。

 我ながら、あまり料理らしくない料理だ。

 最近は料理にチャレンジするようになった。お母さんはなんでもおいしいおいしいと言って食べるから、あまり参考にならない。


「できた」

「おー。ありがと」


 お母さんは大げさに喜ぶ。気を使っているんだろうけど、ちょっと恥ずかしい。

 いただきますをして、二人で箸を運ぶ。

 テレビのニュースは、だらだらとグルメ情報を流していた。


「そういえば、昨晩すっごくかわいい女の子を見てね」

「どんな子?」

「お人形みたいな、きれいな女の子だったなあ。でもその子はおじさんを

連れてて、ちょっと異様だったな」

「親子じゃないの?」

「それが、おじさんが女の子に敬語使ってたし」

「どういう関係なんだろう……?」


 誘拐とかじゃないといいけど。一応警察に届けてもいいかもしれない。


 テレビから、嫌なメロディの電子音がした。アナウンサーが急いで紙をめくる。

『速報です。人狼収容施設でひとりの人狼が脱走。けが人はまだいない模様です。警察が付近を捜索しており……』


 お母さんは、それを聞いて少し眉を寄せた。


「ぶっそうなニュースだね」

「収容施設……? そんなものがあるの」

「ぶんちゃんは現代っ子だから知らないか。昔はいっぱいあったんだよ。人狼は一番差別が激しかった種族でね。ほら、満月になると人を襲うから。山奥の隔離施設に閉じこめられてたの。

 今はいろいろ薬や対策ができたから、閉じこめられることはなくなったけど……。今も満月の前後は昔の隔離施設を利用して、閉じこもる人が多いみたい」

「へえ……教科書には載ってなかったのに」

「それについてもいろいろ議論があったんだけど、今は載ってないみたい。差別を助長するんじゃないかって。載せたほうがいいと思うんだけどね」


 インターホンが鳴る。お母さんに変わって出る。そこにいたのは宅急便のお兄さんだった。はんこをついで受け取ると、ふと、隣でドアノブが回る音がした。思わずドアから体を出す。


「河本さん?」


 河本さんは暗い顔をしていた。少し遅れてわたしに気づく。


「少し家を開けます。美月のところへ」

「店長……どうしたんですか」


 いやな予感がする。

 河本さんは少し迷ったけれど、首を振った。


「帰ってから話します。ですが今は、何も聞かないでください」

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