「」未定

猪瀬癒月

第0話

 いつ何時なにが起きるかなんて誰にもわからない。唯一知っている者がいるとすればそれは皆が「神」とでも呼ぶ存在くらいだろう。


 信じられるのは自分と目の前で起きる出来事のみ、お化けだの幽霊だの見えもしないものは「そう見えただけ」であり実際にはいないものなんだろうなと。


 ……そう思っていたのに。





汐李しおり……!」


 突然呼ばれた名前を俺は理解できなかった。シオリと呼んだ見慣れない女性は確かに俺を見ていた。俺に向かって呼びかけていた。


「え……?」


 なぜか重たく動くたびに痛む身体、自分のとは思えないほど華奢な手足、長い髪の毛。何もかも分からない、状況が飲み込めない。

 呼びかけられた名前にも疑問形で返すしかできない。


「私がわかる? お母さんよ汐李っ」

「落ち着きなさい、汐李は目を覚ましたばかりなんだから」


 白い部屋、ベッドはカーテンで仕切られ大きな窓からは眩しい日が差し込んでいる。ここはどこなんだろう、俺に何が起きているんだろう……分からない、考えても何も浮かんでこない。

 俺の様子に気づいたのだろう、母親と名乗った女性が怪訝そうに見つめてくる。


「どうしたの、汐李?」


 俺はそこで初めて口を開いた。




「……あなた達は、誰、ですか?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る