危険なネット
泡沫恋歌
第一章 ゲームサイトの女
「けっして誰にも言わないでください」
そういって、彼女は唇の前に人差し指を立ててシィーと合図をした。
そして悪戯っぽくウィンクする。
小悪魔みたいで、なんてコケティッシュなんだぁー。
先ほどの彼女との情事を思い出して……またしても反応しそうになった。
この先……どんな話を聞かせるのか?
ドキドキしながら彼女の告白を待っていた。
彼女と僕が知り合ったのは、ネットにあるゲームサイトだった。
このサイトにアカウントを持っていた僕は、会社から帰るといつもパソコンを立ち上げ、サイトのマイページを開いて、ネットの友人たちに挨拶をして回る。
僕のハンドルネームは『Syochan85』ネットの仲間からは『しょうちゃん』と呼ばれている。
今年で32歳になるが、いまだに独身ひとり暮らしだ。
――実は1年前に、3年間付き合っていた彼女を不慮の事故で亡くした。
近々結婚する予定だっただけに、そのショックは大きく……。
到底、立ち直れそうもない僕はリアル(現実)の女性よりもネットの世界の女性の方が心を開きやすくなっていた。
僕の悲しみをブログの日記に書くと、彼女たちが優しい言葉で慰めてくれる。
それで僕はなんだか癒されて満足していたのかもしれない。
サイト内のゲームやコミュニティにも参加して、ネットの友だちも増えて、それなりに楽しいネットライフだった。
僕が登録しているサイトには、アバターといわれる自分の分身のような画像がプロフィールに表示されている、ネットユーザーはアバターに顔(表情)や服、背景などをつけて、自分好みのキャラクターを作っていく。
アバターが着けてる服や背景は、ガチャと呼ばれる有料のアイテムからランダムに出てくる。
ウェブマネーで買うのだが、どうしても欲しいアイテムがあって、コンプリートしようとすれば、ガチャを何度々も回してしまい、軽く万札が飛んでいく……それがアバターコレクションだ。
1度アバターにハマると中毒のようになって止められない。
実際、いい大人がそんなパソコンの中のアイテムに年間何十万円も使っている。
信じられないような話だが、これは事実なのである。今まで、そういうアバター廃人を何人も見てきたのだから――。
ゲームも好きだけど、アバターのコレクションにも興味を持ちだした僕はサイト内にある、アバター交換所でお目当てのアバターアイテムを探していた。
アバター交換所というのはユーザー同士でお互いに持っているアバターとアバターを交換し合うわけだが、同等対価のアバターでないと取引成立は難しい。
僕が交換希望しているのは、とても人気の高いアバター背景でネットオークションでも1~2万円で取引されている。
……だが、今持っているアバターではとても交換条件に見合わない、諦めて引っ込めようかと思っていたら、交換希望の表示がでた!
「うっそー?」
正直ビックリした! この交換だと相手が大損なことは分かっている。
相手の気が変わらない内にと……僕は慌てて交換OKのボタンをクリックした。
「やったぁー!」
これで僕のアイテムバックに相手と交換したアバターが入った!
欲しかったアバターアイテムがGETできて、僕は
だけど、こんな損な交換をさせたことに対して相手に申し訳ない気持ちもあった。
相手のハンドルネームは『蟷螂』? かまきり? また凄いHNだなぁー。
さっそく、『
意外なことに、相手は女性だった!
しかも、かなりのアバ廃人らしく、ゴスロリ調のアバターを着て、かなりレアなペットと背景とエフェクトでマイページを飾っていた。
「うひょー、凄いレアアバばっかりだ!」
たぶん総額で10万円くらいはしそうな高額アバターを表示していた。
取りあえず、彼女の伝言板に、
「交換ありがとうございます。交換して頂いたアバターは大事に使わせて頂きます」
と書き込んで置いた。
翌日、マイページを立ち上げると『蟷螂』からメールが届いていた。
こんにちは。
交換したアバター気に入って貰えて良かったです。
いろいろレアなアバター持っています。また交換しましょうね。
どうぞよろしく。
蟷螂
「へぇー、イイ人だなぁー♪」
だけど、ここはネット……相手の顔が見えないし、美味しい話には裏がありそうと、僕は少しだけ用心していた。
実際、ネットでは相手の顔が見えないから、女性だと思っていたら男性だったりもする。
いわゆる『ネカマ』というネットのオカマことだが、アバター表示で男女を区別するサイトほど実はネカマが多いのだ。
アバターコレクションやってる内に、男性が女性のファッションに目覚めて、ついに『ネカマ』になってしまった男性を知っているが……とっても可愛いフェイスのアバターで、着けてる服もキャピキャピでセクシー、ハンドルネームも「モモコ」とか女性名にすれば、どこから見てもキュートな女の子である。
まさか、アバターの本体が40歳の会社員、2児の父親なんて誰も想像できないだろう。
そういうトリッキーさ、こそがネットなのだ!
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