武装高校side殿

金魚殿

第1話 保健室の朝

「本当はあんまり殺し合いには興味ないんだよね。」

唐突なつぶやきは誰かにあてたものではなく、珍しく彼女しかいない特別棟・保健室の無機質な壁に吸い込まれた。

春から夏へと季節は移り変わろうとしている中ゴールデンウィーク特別実演習が行われている校内は、普段保っている学校らしさも消え失せお祭り騒ぎである。

「どのさん、いらっしゃいますか?」

そんな声とともに入ってきたのは真っ青な顔をしたはぎれではもちろんなく、ぴの字だった。

「はーい、ぴの字さんどうかしましたか?」

よくほかの人のパシリ…もとい買出しを頼まれる彼は、そのついでに私のも引き受けてくれる。人に買い物を押し付けるのは心が痛いが、治療などで手を離せないときは本当に助かっている。とはいえ今日はまだないにも頼んでいなかったし、頼んだもので受け取っていないものもいない。…あまり考えられないが怪我でもしたのだろうか?

「あ、いえ、こちらにいるならいいんです。蟷螂先生がいろんな人を探していたから手伝ってるんですけど、場所がわからない人が多すぎて…。わかる人から確定させていこうと思って。」

そんな考えは杞憂に終わりどうやらホームルーム等に参加しない生徒を探していただけのようで、申し訳なさそうに話す。

「あ、そうなんですね。私は一応先生には連絡入れたようにここの使用許可の更新願い出したら、教室に行きます。はぎれさんは薬のテストがてら骨くんとリオくんと一緒にお散歩中です。うまく言っていればあと10分ほどで戻りますよ。」

私が知っている限りの情報を渡す。学校が特別演習をやっていてもあぶれものの私たちには関係ないことだが、蟷螂先生が探しているのならもしかしたらなにかあるのかもしれない。

「了解です。ありがとうございます…まあ、一番の問題はちひろさんなんですけどね。」

お互いに顔を合わせることの少ない人が多い自殺部隊の中でも、ほとんど目にすることのない生徒。私も入学してからほとんど見ていない。

「あー、頑張ってください...そういえば化学教師のヘロイン?」

「...ヘロリン先生ですか??」

どうもはぎれとは違って顔と名前が覚えられない私は自殺部隊以外の人の名前をうまく言えない。

「そうそう、その人と一緒にいたのは見たから学校にはいましたよ。」

学校に居たからといって見つかるとは限りませんけど、と心のなかで付け加える。そういう人なのだ彼は。

「じゃあ、僕はちひろさん探しにいくので、他の人によろしくお願いします。」

そう言ってぴの字は保健室を後にした。身軽さと体力故に雑用を言いつけられる彼の仕事が早く終わることを祈るばかりである。

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