第58話 カオスな朝
翌朝目が覚めると何やら体が重い。……というか両腕が動かない。何があったのかと目を開けて左右を見てみると、右腕に佳織が、左腕に静が抱き着いていた。
「なんじゃこりゃ」
確か寝るときの並び順は、静、千亜季、俺、佳織だったはずだ。静が千亜季を飛び越えてこっちにくるとか、どんだけ寝相が悪いんだ。ふと千亜季を見てみると、行儀よく布団に入って寝ているようだ。布団をはだけて俺に抱き着いてくることもないというのは、素晴らしいことかもしれない。
にしても……。こいつらの寝顔はかわいいもんだな。うさぎとペンギンとピ○チュウの着ぐるみパジャマということも相乗効果になっていそうだ。
「さて……」
起こさないようにという配慮はするつもりがない俺は、両腕を振りほどくようにして起き上がる。……が無理だった。
「……んぁ」
「……ふぁ」
身じろぎしたことで両隣が目を覚ましたのか、声が漏れてきた。薄目を開けてボーっとする佳織と、反対側の静は目を閉じてはいるが口元が緩んでいる。こっちは寝てるふりだろうか。
「二人ともおはよう、ちょっと動けないからどいてくれ」
「んう……?」
薄目だった瞳がどんどん開かれていく。普段より開いたかと思ったところで、佳織が勢いよく離れる。
「えっ! あっ、ご、ごめんなさい……」
そういえば小学生くらいの頃は、こうやって二人で寝ることもあったかな。まぁそのときは、反対側の腕にとりつく人間はいなかったが……な!
心の声とともに解放された右腕を静の頭に振り下ろす。
「あでっ!」
おでこに命中した手刀は、見事に静を起こすことに成功した。すでに起きていた可能性はあるが、それは知ったこっちゃない。おでこをさする静だが、それでも片方の腕は俺を開放する気はないようだ。
「もう、いきなり何するのよ。……せっかくおはようのチューで起こしてあげようと思ってたのに」
「なんだよそれ」
「あ、朝から何やってるのよ! ダメに決まってるじゃない!」
静のいつものからかいに真面目に反応する佳織ではあるが、まだ寝ぼけてるんだろうか。
「あはは、まだ何もしてないよー?」
「……えっ!?」
静のツッコミに顔を赤くすると、ようやく理解したのかますます顔が赤くなる。
「まだ……って、ど、どっちにしろダメだから!」
「ハイハイ、佳織の圭ちゃんには手を出しませんよー」
「……っ!?」
赤くなりすぎて百面相をする佳織を眺めていると、なんだかおかしくなってくる。こうしてみると佳織はいつもいじられてるな。主に俺と静にだが。
「ははは」
「な、何笑ってるのよ」
「いつから俺は佳織のモノになったんだ?」
「……なってないわよ」
「あーーー! 静ちゃんずるい!」
さらに佳織をからかっていると、いつの間にか千亜季が目覚めたのか非難の声を上げている。俺の隣を勝ち取ったはずが、気が付けば奪われていたのだ。
「おう、千亜季もおはよう」
最後まで寝ていた千亜季だが、寝起きはいいみたいだな。佳織はボーっとしていたし、静は寝たふりをしていたからわからんが。すぐに状況を理解した千亜季は、未だに腕にしがみつく静を回避すると、そのまま真正面から俺に抱き着いてきた。
「おはよう、圭ちゃん」
「ちょっと千亜季!?」
千亜季の着ている黄色いパジャマのフードを引っ張って抗議する佳織。
「あーん、千亜季もずるーい!」
それを見てますますくっついてくる静。
もう朝からカオスである。
みんなが俺に群がってくるとは一体どうなっとるんだ。男の時には考えられない出来事ではあるが、今はただウザいだけである。
「ぬううぅぅ、お前らうっとおしい!」
勢いよく三人を跳ね除ける幻想を抱いたが、実際はピクリとも体は動かなかった。やっぱり押さえつけられていると動けないのだ。そういう意味では小柄な女の子となってしまった自分の体が恨めしいとも思う。
「佳織、助けてくれ!」
咄嗟に助けを求めるが、当の佳織はすでに千亜季を引きはがしにかかっている最中だった。
「ちょっと……、みんな圭一から離れなさい!」
「「えー」」
佳織の声に、一斉に不満の声を上げる二人。千亜季が抵抗するなんて珍しいな。……これも学校じゃないからか。
「せっかく圭ちゃんの隣を勝ち取ったのに……」
あぁ……、そういうことね。だからといってそのままじゃ俺が起きられないのだ。ここは心を鬼にしてでも千亜季にどいてもらわねば。
「千亜季」
「どうしたの?」
「起きられないんでどいてくれ」
「……ええー」
口では抵抗しつつも俺を抱きしめる力が緩んだようだ。あえなく佳織に引きはがされる結果となった。あおむけに倒れたピンクの
あとは左腕にしがみつく
「いだだだ……!」
しがみついている方とは反対の腕で防御を試みるが、腕の上からでも容赦しない。さすがに耐えきれなくなったのか、静が俺の腕から離れる。腕をさすりながら俺に熱い視線を向けて一言。
「……ちょっと凶暴な圭ちゃんも素敵」
「何をアホなことを」
ようやく自由の身となったので、立ち上がって体をほぐす。抱き着かれて寝てたせいか、なんだか体が固まってるような気がする。
「どこ行くの?」
そのままトイレに行こうと部屋の扉を開けたところで佳織から声がかかる。
「トイレだよ」
隠すようなことでもないので素直に口にすると、そのまま部屋を出る。
「あ、あたしも」
「えっ? じゃあわたしも」
「……みんな行くなら」
……が、結局三人ともぞろぞろとついてくるのだった。
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