第41話 パジャマパーティーをしよう!
「おはよう圭ちゃん。今日は大丈夫そうね」
学校に着いて早々、静に声を掛けられた。
今日は火曜日。すでに学校が始まって二日目である。
昨日は学校に着いて早々に、静と千亜季から心配された。いきなり机に突っ伏してぐったりしていればそうなるのもしょうがないと思う。
病気じゃないから大丈夫と言ってもあまり信用されなかったが、みんなでトイレに行ったときに詳しく説明すれば納得してもらえたのだ。
さすがに男子生徒もいる教室で話せる内容ではなかった。
「じゃあ体育も出るのかな?」
続けて千亜季からも声がかかる。
そうか、今日は体育があるのか。まぁ、今の調子なら大丈夫じゃないかな。
いつも通りとはいかないが、動けないほどじゃない。それに運動は好きだし体を動かしてれば不調も忘れるだろ。
「あーうん、たぶん大丈夫」
「アンタなら運動してるうちに忘れるでしょ」
俺の思考を読むんじゃねーよ。
発言主を睨みつけるが、佳織は肩をすくめるのみだ。
「あはは! 今日で体育のバレーボールも終わりだからねぇ」
「次は何やるんだろう?」
「ゴールデンウィーク明ければわかるんじゃない?」
「「ゴールデンウィーク!!」」
佳織のゴールデンウィーク発言に反応する二人。
明日からゴールデンウィークだったか。……特に予定はないが。
そういえば去年は何してたっけ? えーっと確か……。
「……」
思い出した去年の記憶に思わず項垂れる。……思い出さなきゃよかった。
去年と言えば俺はもちろん今の姿ではなく、男だった時のことだ。
「どうしたの?」
「……いや、去年は虎鉄と馬鹿やってたなぁって思って」
「「「…………」」」
最近の虎鉄のヘンタイっぷりを思い出したのだろうか、三人とも固まってしまった。
男だった時の俺と、ヘンタイの虎鉄が集まって何をしていたのかを想像したんだろうか。と言っても虎鉄は常にヘンタイ具合を前面に出していたわけじゃないんだが。
ヤツがヘンタイっぷりを表に出すようになったのは、俺が今の姿になったのを見てからだ。
とは言え静や千亜季はそんなことを知るはずもない。となるともう軽蔑される予感しかしない。
ヘンタイを出していないからと言って男二人が集まれば、くだらない話になることは確かなわけで、女子たちに聞かせられる話でないのは確実だ。
そのまましばらく無言が続いたが、雰囲気を和ませようと千亜季が声を発する。
「そ、そうだ! じゃあ今年のゴールデンウィークはみんなで遊ぼうよ!」
「そうね! それがいいわ! ……わたし圭ちゃんちでお泊まり会したい!!」
「えぇっ!?」
「はぁっ!?」
「……賛成!」
静の言葉に驚愕する俺と佳織だったが、一瞬の間があった後に若干頬を赤く染めて千亜季が賛成票を入れた。
「いやいやいや、ちょっと待ちなさい! いくらなんでもそれは……!」
なんとか止めさせようとする佳織だったが、乗り気な静と千亜季はお構いなしだ。
「なんで?」
「別に私は気にしないけど……」
「いや少しは気にしろよ!」
まったくもって予想外な反応をする二人に思わずツッコんでしまう。いくら見た目が女になったとしても、中身はれっきとした男なのだ。
しかも俺の家にお泊まりだと!? 一人暮らしの男の家に泊まりに来るとは、実にけしからん。
とは言え俺は虎鉄ではない。あくまでも一般的な感覚を持っていると自負しているため、一応口では反対意見を述べておかねば。
「今更じゃない?」
……うん? どういうことだ?
静の言葉に思わず考え込んでしまうが、もう遅いという事か?
まぁ確かに、体育は女子生徒に混ざってるし、トイレも女子トイレに入ることにはすでに抵抗はない。
女湯に入ったことはないが……、すでに佳織とは一緒に入ってるな。
「うん。私は気にしないよ?」
思わず額に手を当てて考え込んでしまった俺に、千亜季も諭すように声を掛けてきた。
あー、うん……。言われてみれば今更と言えなくもないのか?
「何か起こるわけでもないし……ね!」
「……な、何よ」
視線を静に向けられてたじろぐ佳織。
俺のことが気にならないんならそれでいいわけで、確かに何かが起こるわけでもない。
……むしろ何も起こらないことを確認できるいい機会でもあるか。
「まぁ、二人がいいなら俺はかまわないぞ」
「――ちょっと!」
「やったね!」
「じゃあみんなでパジャマパーティーだね」
尚も反発する佳織だが、静と千亜季はノリノリだ。
というか待て。パジャマパーティーだと?
「……パジャマパーティーって何?」
まったくもってわからん。皆でパジャマを着てパーティーでもするのか。
ホテルのパーティー会場をパジャマ姿でうろつく皆を想像してしまったが、そうじゃない。
少なくとも会場は俺の家だ。
「みんなでかわいいパジャマ着ておしゃべりするのよ」
「……おしゃべり?」
いわゆる女子会というやつだろうか。ただパジャマを着てやるだけで。
というかかわいいパジャマじゃないとダメなのか。ウニクロで買った地味なやつしかないぞ。
「ほらほら、席に着いてー。ホームルーム始めるわよー」
自分のパジャマを思い出していると、担任が教室に入ってくるなり生徒たちに声を掛ける。
「もう……、先生きちゃったじゃない」
「じゃあまた後で」
それだけ言うと佳織は渋面のまま、千亜季は嬉しそうに自分の席に戻っていった。
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