第39話 女の子の日
買い物を終えて帰ってきたのはいいが、今日も今日とて佳織の家に入り浸っている。
おばさんに、『生理痛でご飯用意するのもしんどいでしょ』と言われてしまえば、俺に断るすべはない。実際にしんどいし。
戦利品の大部分は家に置いてきたが、いつ生理になってもいいようにいくつかは佳織の家に持ち込んでいる。
「調子はどう?」
ベッドを占拠して寝転がって漫画を読んでいると、部屋の主である佳織が眉間にしわを寄せていた。
「っていうかアンタ、少女漫画なんて読んだっけ?」
佳織のベッドに寝っ転がるなんて、男だった時にはしたことないからだろうか。そのせいで眉間に皺が寄っていたのかどうかはわからないが、俺が読んでいる漫画を見たことでその皺が伸ばされる。
まぁ俺も読む気はなかったんだが、体調が悪くて寝転がってるだけでも暇なので、ふと目についた漫画を手に取っただけだ。
いやでも読んでみたらこれが結構ハマりそう。
「初めて読んだけど、面白いな」
別に今まで嫌ってたわけでもないし、ただ単に興味が湧かなかっただけだ。別に変なことでもないと思うが。
やっぱり食わず嫌いはいかんなぁと思う。
「ふーん……、そうなのね」
何やら納得がいかない雰囲気を醸し出しているが、俺がそう思ってるんだから納得してくれ。
それはともかく、読んでいる途中の漫画を置いてベッドから降りると、部屋の外へと向かう。
「どこ行くの?」
「トイレだよ」
ちょっと尿意を催しただけだ。俺の体調が悪くなってからも佳織の家でトイレなんて今まで何度か行ってるし、気にするほどでもないだろ。
――なんて思ってた時期がありました。
いざトイレに入ってワンピースをたくしあげ、パンツを下ろしたところでその手が止まった。
えーっと……、何かパンツの色が赤いんですけど。
「……」
しばらく固まっていたが、ふと尿意を思い出してとりあえずおしっこを済ませることにする。
えーっと、俺って実は痔だったっけ……。まったくもって記憶にないが、もしかしてどこかで力み過ぎたのかな。
チョロチョロとした音を聞きながら、全く見当違いのことを考える俺。
……いや待て。いくらなんでもそれは嫌な現実逃避じゃなかろうか。痔だったほうがマシってどういうことだよ。
あっさりと我に返った俺は、冷静になれたかどうかわからない心境ではあるが、じっくり考えてみることにする。
現実を受け入れた方がよくないか? 女の子なら当たり前に起こる現象と比較すれば……ってやっぱ比べるまでもないよな。
痔ってなんだよ……。もうアホかと。
とりあえずおしっこも出たのでトイレットペーパーを丸めて拭いてみる。
「……赤い」
何度か拭いて赤くなくなったので、安心してパンツを穿こうとしたんだがもう一度待つんだ!
すでにパンツが赤いぞ。これはどうしたらいいんだ。
あ、そうか。ナプキンを交換すればいいのか。……ってトイレに持って来てなかった!
ぐぬぬぬ……。これはどうすれば……。
とりあえずトイレの中を見回してみても使えそうなものが落ちてるわけもないし。
と思ったところで目に入ったのはトイレットペーパーだ。
やっぱりこれしか手段はないのか。
十枚くらい重ねてパンツの中に仕込むか。佳織の部屋にナプキンを取りに行く時間くらい持つだろう。……たぶん。
「ちょっと大丈夫?」
意を決してトイレットペーパーを重ねるべく、カラカラと音を立てて引っ張り出しているところに、ドアのノックする音と共に佳織の声がした。
思えば長いことトイレに籠っていたのか……。いや小じゃなくて大の可能性もあっただろうに。
でもまぁ、あれだけ体調悪いとフラグ立てまくっていれば、気にはなるか。
「佳織か! ちょうどいいところに」
これ幸いと佳織に助けを求める。
「……何かあったの?」
「いやー、ちょっとね。……今日買ってきたやつ持って来てくんない?」
「……え?」
恥を忍んで頼み込むも、それっきり佳織の反応がなくなる。
「おーい。聞こえてるか?」
「……あ、うん。……ちょっと待ってて」
もう一度問いかけると、今度こそ反応があった。何かよくわからんが、とりあえずこれで大丈夫だろう。
そうして佳織に持って来てもらったナプキンで、この場を切り抜けるのだった。
「はぁ……」
大きくため息をつくと現状を再確認する。
トイレの中ではその場を何とかしようと必死だったからか、そこまで実感は湧かなかったけど。
外見だけじゃないとは思ってたけど、これはもう完全に女になったってことだよな。
いやまぁそれはいいんだよ。何が問題かっていうとだな。……この生理痛だよ。
これが毎月あるのかと思うと憂鬱にもなる。
「はぁ……」
などと思ってたら隣からも大きなため息が聞こえてきた。
なんで佳織までため息ついてんだよ。
「なぁ……」
「……何よ」
億劫そうに返事が返ってくるが、聞くだけ無駄だと分かっていてもこればっかりは聞かずにはいられない。
「これって毎月あるんだよな」
「当り前じゃないの。……でもまだ症状はマシなほうじゃないかしら」
「……マジでか」
佳織の言葉に驚きを隠せずにいるが、正直結構辛い。
それでもマシなほうだと言ってくれるが、俺がこの生理痛に慣れていないせいなのか。
「痛み止め飲んでないでしょ」
……ぬぅ、確かに痛み止めは飲んでないな。薬局で買い物しているときに見かけたが、佳織も持ってるからとその時は買わなかったのだ。
実際に痛み止めを飲むほどじゃないし、買わなくて正解だったとは思うが。
世の中にはお腹が痛くて動けなくなるほど酷くなる人もいるらしいし。
「まぁ、飲んでないけど……」
「次は酷くならなければいいね」
マジか。……勘弁してくれ。
個人差はあるんだろうが、俺はこの先にも襲われるであろう生理痛に、またもや大きくため息をつくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます